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長く鋭いランスは扱いが難しい 〜 ラッシュフォードという長槍

2023年9月16日開催のマンチェスターユナイテッド対ブライトン。結果は1-3でアウェーのブライトンが勝利。ビッグ6以外のクラブで初のマンU戦4連勝を挙げたクラブとなったそうだ。試合内容を見ればクオリティの差は明確で、納得の連勝と言えるだろう。

肝心の試合だが、マンUの入りは悪くなかった。前線の3人が高い位置からブライトンの最終ラインに強烈なプレッシャーをかけ、ブライトンのビルドアップから自由の一部を奪う。

更に左翼側のスペースを主戦場とし、圧倒的なスピードで幾度となくブライトンの守備網を突き崩しかけたラッシュフォードの突破は、目を見張るものがあった。その鋭さは、まるで馬上で闘う騎士のランスのようだ。

そんな重装甲の鎧すら貫く大槍の如きラッシュフォードであったが、結果として無得点に終わり、勝利に貢献するに至らず。マンUは今期5試合目にして3敗という屈辱を喫した。

とはいえ、ラッシュフォードが脅威であったことに疑う余地はない。それだけに、チームとして得点あるいは勝利に結びつかないことの理由は何かを考えたのだが、答えはブライトンの戦い方の中にあった。その答えについて、僕なりの解釈は次のとおり。

ブライトンの強みのひとつとして左翼の三笘の存在が挙げられるが、彼は徹底的にマークされ、攻撃面での仕事を限りなく制限された。にも関わらず、攻守共にチーム全体として機能したのは、『三笘シフト』による歪みを利用者したからだ。

三笘への対策にリソースを割いたマンUは右サイドからの攻撃が停滞。結果、左翼のラッシュフォードにボールが集中するなかで彼への対応を整理したブライトンは、『ラッシュフォードシフト』を敷くことなく対応。そのため再三のピンチを招いだものの、最後は決めさせなかった。

そして攻撃時には三笘を囮として利用。三笘自身も(自身のコンディションの悪さもあったかもしれないが)囮としての役割を演じ続ける中で、守備圧力の低い右サイドを効果的に使うことで度々反撃を試みた。それにより作った得点機を逃すことなく決め続けて、試合が終われば3得点。実に見事だった。

さて、話をラッシュフォードに戻そう。

あくまで僕の見立てだが、マンUはラッシュフォードの扱いを整理しきれていないのではないだろうか。フィニッシュのためだけの存在ではなく、三笘のように囮に使うくらいの戦術的役割を与えてもよさそうだが、ラッシュフォードの個性を御しきれていないが故に現状の形になっているように見える。

この話の冒頭でラッシュフォードを『ランス』に例えたが、念のためランスの特長を説明しておくと、馬上で使う4、5m程度ほどの突きに特化した武器で、破壊力は抜群だが、その長さ故にスペースが必要で混戦には不向きである。そんなランスとラッシュフォードには共通点がある。まず、圧倒的なスピードによる攻撃の鋭さ。そして、相手を突いて倒すこと(自身で得点すること)に最適化したスタイルや、突く以外の用途には不向き(周囲との器用な立ち回りは苦手)な点など。

ちなみにランスを持つ騎兵を活躍させるには、場所と状況の設定が必要不可欠。相手に致命の一撃を与えるには、時には前方の障害を取り除き、歩兵や弓兵との連携も不可欠だろう。ラッシュフォードにも同じことが言えそうだ。

よって、マンUがこの低迷からの脱出を図るとすれば、ラッシュフォードという個にフォーカスしてチームを最適化するのではなく、チーム全体の用兵のなかでラッシュフォードを最適化する道を模索することが近道になるかもしれない。そう、ブライトン率いるデ・ゼルビの手法のように。

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