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ミュージカル「20世紀号に乗って」 忖度なしに正直な感想

先日、ミュージカル「20世紀号に乗って」を観劇してきました。
その感想がとっても消化不良なので、ここで忖度なしに正直に書いていきます。

ミュージカル「20世紀号に乗って」について

本作は戯曲から映画、それをさらにミュージカルにしたもので。
時代背景は1930年代前半ですが、ミュージカル化されたのは1978年なので、ミュージカル黄金期っぽさと見やすさがちょうどいいコメディミュージカル。
日本でも宝塚で上演されたり、ブロードウェイでも10年弱前に再演されていたのが記憶に新しい作品。

私自身はブロードウェイの再演に大好きなクリスティン・チェノウェスが出演していたのをきっかけにこの作品を知りました。
20年代や30年代の豪華な衣装に身を包んだ人々が豪華な列車の中で繰り広げられるアメリカらしさ全開なドタバタコメデイ。
もちろんこういうの大好きなので、今回の上演も楽しみにしていました。

情報公開時に気になったこと

とはいえ、情報公開時に気になったのは役者の年齢がキャラクターの設定よりだいぶ若いこと。

主役のオスカーは昔成功していたけど今は落ちぶれたプロデューサー、だとしたらだいたい50代。若く見積もっても40代後半。
ヒロインのリリーはそんな彼に見つけられた女優、だとしたら40歳前後。
制作時の時代背景もありますが、オスカーとの掛け合いや関係値にさほどの年齢差が見えないので、40代後半でもありえるでしょう。

しかし、今回のキャスティングは全体的に若い。
特に主演の増田さんはアイドルというキャリアから実年齢よりもイメージが若いし、声色も少年っぽさが強く、燻ったおじさま役のイメージが全然つかない。
21年に観劇したハウトゥサクシードは20代のガツガツした若者役がピッタリハマっていたのもあって、ちょっとびっくりしました。
増田とクリスベイリータッグの企画だとして、なぜこの作品を選んだのか謎でした。

とはいえ、推しの小野田龍之介さん。
劇団四季出身の超実力派上川一哉さん。(実は友達の推し)
元月組トップスターの珠城りょうさん。
なんでもこなせる渡辺大輔さん。
ご本人もミュージカルオタクな戸田恵子さん。
豪華すぎるアンサンブル陣。
が脇を支えるとあって、どんな作品ができるのか楽しみにしていました。

全体的な感想

さて、感想としては。
一回観ればで十分かな、、、。
なんか満足度が低かった。

ダンサー出身のクリスベイリーが付ける演出は、物足りない、、。
パフォーマンスは良くても、そのほかが色々足りない演出でした。
(ハウトゥサクシードの時は空間が広々してるし、豪華なパフォーマンスナンバーが多くて、そんなに物足りなさを感じなかったのですが)
全体的な世界観の列車内という設定は工夫しないとどうしてもコンパクトに見えてしまい、シアターオーブにはスペースを持て余しているようにしか見えず、物足りない。今回は一階席2列目センターブロック席でしたが、迫力がイマイチに感じてしまったので、二階席や三階席だと本当に足りないと思います。

舞台上と客席の温度差

しかも本作はコメディミュージカル。
劇場の空気感が最も大事なはずなのにそこがずれてた。
海外作品を外国人の演出家が演出するときによく思うのですが、作品内で描かれるアメリカ的文化背景や情報の説明がないまま物語が突き進んでいて、観客と舞台上の温度差が激しかった。
せめて、当時の時代背景やいくつかの用語の解説などを公演プログラムなどで説明することで補強するべきだったのに。
特に今回は宗教に関するジョークやシーンがあったので、頭の上に大きなクエスチョンマークが乗っていた方いたと思います。

このようなコメディはブロードウェイで上演されることしか考えていないから、ブロードウェイに来る客層のことしか考えていない。
つまり、アメリカ人の価値観に合わせ、アメリカ人(というかニューヨーク)の宗教観に合わせた製作がなされています。
そのような作品をわざわざ日本に持ってくるのであれば、その前提を確認した上でずれが生じないように工夫して、観客にも楽しんでもらえるように作るのが当然だと思っています。(特に今回の公演はミュージカルオタクばっかりくる作品でないんだから、より作品への理解がしやすくする工夫は不可欠だったはず。)

パフォーマンスに関して

割とディスり気味ですが、パフォーマンスシーンは素晴らしかったです。
コンパクトに見えてしまう、列車のセットを飛び出して、舞台面たっぷり使われるパフォーマンスは演者さんがより生き生きされているのがわかるし、品がよくて魅力的な前田文子さんの数々のお衣装が可愛いし、ブロードウェイらしさが満点。
歌えて踊れる実力派のアンサンブルに支えられるパフォーマンスはグランドミュージカルの満足度が十分に味わえるし、主演の増田さんと小野田さん、上川さんの三銃士のダンスシーンはこれこそブロードウェイ!って感じの振り付けがふんだんに盛り込まれていて、ニヤニヤが止まらなかったです。

キャスト評

それでは、キャスト評。
本当に個人の意見だし、正直に忖度なしに書くので、一個人の意見として、苦手な方は見ないなり、さらっと読んでいただけるとありがたいです。

オスカー/増田貴久さん

発表時から気になっていた若さはやっぱり気になりました。
なんだか憎めない偏屈おじさんが増田さんが演じると、
なんだか憎めないうざいナルシスト。

本人の声に少年らしさを感じちゃうから、精神年齢が成長してないっぽく見えてしまうし、演技はナルシストっぽいから冷静に捉えるとただただめんどくさいプロデューサーでしかない。

捉え方によっては、リリーとの失恋や公演が立て続けにうまくいってなくてめんどくさい人間になってしまったとも捉えられるけど、コメディ作品にそこまで想像力掻き立てるのも変な感じだし。
これは、増田さんのスキルの問題じゃなくてシンプルなミスキャスト。
彼の少年らしさや人たらしっぽい感じをもっと生かせる役や作品はあるはずなのに、なんだかもったいない。

勝手に妄想すると、
Little Shop of Horrors のシーモア
Kinky Boots のチャーリー
Companyのボビー
とか声色含めて合いそう。

リリー/珠城りょうさん

実は初めての宝塚が珠城さんの退団公演でした。女性になってから初めて拝見したのですが、あまりの女性っぷりに同じ方とは思えなかった笑
コロコロ変わる衣装を着こなして、センターで踊る姿はこれぞスターって説得力。

でも、それ以外がちょっと、、、。
元々歌唱力とコメディ力のバケモノ、クリスティン・チェノウェスのリリーを下敷きにした上で観劇してしまったのが悪いんだけど。
あからさまに音を外すとかはなくても、声量も全然ないし、出ない音程が多すぎて、あの難ナンバーたちには実力が足りなさすぎました。
せっかくのブロードウェイミュージカルの豪華な衣装やワクワクする素敵な振り付けなのに、彼女の歌唱が色々打ち消していて全体的にもったいない。

しかもご本人がこの公演を楽しんでいるように見えないんですよね。
コメディ作品はそこ結構大事だと個人的には思うんですけど、なんだか無理しているというか乗り切れていないというか、、、。多分緊張してる?
だからこそ、オスカーやブルースとの掛け合いのテンポ感がズレる。
そのズレをアメリカ特有のドタバタコメディの締め方でまとめられると、違和感しか残らなくて。

彼女に関してもミスキャストだったのかなと思います。
もし、この役を同じ元トップスターの紅ゆずるさんならコテコテ関西弁になりそうだけど、歌唱や掛け合いもコメディらしさ全開で作品全体を引っ張っていて、オスカーとの関係もより面白くできそうだった。(エニシング・ゴーズとか本当に最高でした)

オリバー/小野田龍之介さん

※推しなので多分フィルターかかっています。
オーエンの上川さんと一緒にオスカーに振り回されながらも、三銃士のトリオとして支えるオリバーは見ていて心強い。三銃士の中では一番下っ端ぽくて、本人の持つ愛されキャラが存分に反映されていたと感じました。
ファンとしては、なんでもできる役者さんだからこそソロ楽曲がなかったり元々のキャラの濃さが今ひとつが物足りなかったけど、作品全体のサポートとして、とっても素敵でした。

オーエン/上川一哉さん

上川さんも小野田さん同様、オスカーに振り回されながらも、三銃士として支えられていて、安心感がすごい。劇団四季時代から何度か拝見していますが、やっぱりなんでもできちゃう万能俳優さんだと再認識。
自由なリーダー・オスカー、実質リーダーなアル中・オーエン、便利な弟・オリバーのバランスが絶妙でこの三人でなければ生み出せない魅力的なトリオがとっても好きでした。
全員ソロでも大満足な歌唱力に加えて、全員見ていて気持ちがいいダンスパフォーマンスなので、このトリオを他の作品でも見てみたいなと感じました。

ブルース/渡辺大輔さん

この作品で一番好きだったかもしれない。渡辺さんのブルース。
割と堅苦しい役でしか拝見したことがなくて、第一印象は2枚目キャラなのに、実はコメディでしかないこの役のハマりっぷりに驚きました。
相手役が乗り切れていなかったので、一人ぶっ飛んでいる感は否めなかったのですが、やりすぎなくらいの弾けっぷりが気持ちよくブロードウェイっぽくて、コメディを見てる!っていう満足感がすごかった。本当に素晴らしかったです。
もっと色んなブロードウェイのコメディ作品で渡辺さんが弾けている姿拝見したいなと思いました。

レティシア/戸田恵子さん

ご自身が超ミュージカルオタクで、劇場への愛に溢れている戸田恵子さん。
この作品の持つブロードウェイらしさを完璧に体現されていて、安心感と貫禄が素晴らしかったです。
彼女の役こそ、宗教観や宗教的背景の説明が必要だったはずなのに、作中や公演プログラムなどになかったのは残念でした。
その感覚の違いや温度差を戸田さんご本人の女優としてのスキルやコメディ力でカバーされていて、キャスト評としては素晴らしいことなんだけど、そこまでを女優に求めてしまうのは違うのでは?と疑問に感じました。


何か書きたいことがあったら追加するかもしれませんが、ひとまず、正直に思ったことを述べました。
日本の環境ではなかなか難しいですが、観客の正直な評判が直接作品の完成度につながるブロードウェイなどのプレビューを思うと、もっと意識的に観客の意見が取り入れられたり、反映されていけばよりよい発展が期待できるなぁと思います。
私はあまり大きな意味をなさないかもしれませんが、意識的に公演アンケートに記入するようにしています。

ここまで読んでくださりありがとうございました。

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