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勝手に1日1推し 179日目 「鵼の碑」

「鵼の碑(ぬえのいしぶみ)」京極夏彦     小説

「ーーーこの世にはね、不思議なものなど何もないのだよ、関口君」

まさか、またこのセリフを目にする日が来ようとは・・・。感激!!いやはや、17年ぶりの新作ですって!発売を知った時は、ひっくり返るかと思うほど、実際ひっくり返った声を上げるほどびっくりしました!エイプリルフールでないことを確認したほどです(←古っ)。

という訳で、前作を本棚からひっぱり出してきたら、なんと!巻末に次回作として「鵼の碑」って書いてたんですけど!2006年からの決定事項だったってこと?!思わず貼っとく!値段も上がってる。2200円(税別)物価上昇!

「邪魅の雫」巻末


17年ってさ、一生を24時間としたらまだまだ午前4時くらいで寝てるけど(?)、感覚からしたら0歳の子が17歳になるくらい長い年月なんだよね。何も出来なかった赤ちゃんが生活できるレベルの人間に成長するほどの、何なら、あと1年で成人するほどの歳月を経て拝める新作だってことでしょう。しみじみしちゃう。拝み屋を拝める幸せ。ほお、ありがたや。

殺人の記憶を持つ娘に惑わされる作家。
消えた三つの他殺体を追う刑事。
妖光に翻弄される学僧。
失踪者を追い求める探偵。
死者の声を聞くために訪れた女。
そして見え隠れする公安の影。

発掘された古文書の鑑定に駆り出された古書肆は、
縺れ合いキメラの如き様相を示す「化け物の幽霊」を祓えるか。

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鈍器に値するサイコロ本の迫力たるや。久々~。ハードカバーなんて「古畑任三郎」で凶器として人殺してるアイテムでしょ?ってくらいDEKAI!ATSUI!OMOI!YABAI!きんにくんの筋トレアイテムと捉えても可。
書店でも異彩を放っていたなあ。おどろおどろしい妖獣×金キラ金。もう、眩暈。

今回は「鵼」かあ。恵くんも操ってるな、鵼。鵺か?闇の鳥。
え?鳥?猿?狸?虎?蛇?鵺?鵼?
古くは「万葉集」や「平家物語」に登場。誰も姿を見たことがない、寂し気に”ひょう”と啼く怪鳥。はたして「鵼」の正体は?

妖怪、幽霊、お化け、呪い、祟り、・・・怪奇や怪異などの超常現象を、理性的に且つ科学的に、そして冷静に解明していくアンビバレントな構想に毎度しびれるんだよねえ。
鵼 × 放射線かぁ。とんでもない組み合わせじゃない?戦後まもない時代が舞台だから整合性が取れる設定ですよね。G7首脳の原爆資料館訪問の現実や核の恐怖が身近な昨今だけに色々思うところがありました。
それから、科学と宗教。信仰についてね。扱いが難しけれど、現実世界でも問われているテーマです。実に現代的。
謎解きのクライマックスは、手に汗握ります!
で、毎度のことながら思いもよらない所に着地するんだよなー。今回ばかりは「しめしめ、うすうす分かっちゃったもんね」って思ったけれど、違ってたよ。そう来たか、そう来たかあ・・・。ハぇ?そなの?って呆けてるうちに幕を下ろしました・・・。

ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、こんなだったっけ?とオチについては肩透かしを食らったと感じなくもないですが、もはや、忘れてる。前作もそれ以前も忘れてるから何とも言えなかったりします。
気力も体力も時間も使うから、旧作を再読するのは憚られてしまう臆病な私なので、比較検討の余地なし!
ぶっちゃけ登場人物や以前の事件を明確には覚えていなかったけれど、単体としても楽しめたので無問題です。
でもでも京極堂と関口君のいちゃいちゃが少なかったとは思う!!毎回もっと京極堂に痛めつけられてたと思う、関口君は!!あの掛け合いが見どころの一つじゃぁん。しくしく、足りない。これは足りなかったと断言出来るよー!
あと、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、憑き物と憑かれた人物との背景や関係性が薄かったし不明瞭だったのでは?と感じなくもなかったかなと思ったり思わなかったり。

しかし、あらすじの通り、同時進行でいくつもの物語が進んでいく訳ですから、それらを一つ所に結び付け、納得のいく結末を導き出すのは並大抵のことじゃあないですので、読後は、天晴!と天を仰ぎ、合唱。でした!大満足です!

人や現象の数だけ真実があって、人も現象も極めて多面的であって、その関係性いかんによってはとんでもない事件や事故に発展するっていう危うさ、脆さ、恐ろしさが他人事には思えないんだよなあ。

拝み屋として、得体のしれないモノを相手にしながら、

化け物と云うのは、存在しないと云う形で存在するものなんです。(中略)
化け物はこの世界の裏返し。(中略)
天然自然の理に忤(さから)うものなのです。

P763

と理論的に言ってのける。
存在しないモノにも、存在する死骸さえあれば、現実になり得る。神社だって墓だって碑だってできる。それらが出来れば存在したことになる。っていうカラクリです。
ふむふむ、なるほどなあ。そうやって逸話や神話が生まれるんですねえ。がってん、納得!
しかし、めちゃくちゃリアリストやん、京極堂。拝み屋のくせにぃ。真っ黒の着物に羽織、黒足袋に黒下駄、鼻緒だけ赤い闇を纏ったモードな憑き物落とし。かっけーッス。ほんと、この世には不思議なものなど何もないんですね・・・。完全なる現実主義者による語りが、物語の世界と現実との境目をあいまいにしてくるんですよね。思考と感情の不一致が事実を見る目を曇らせるんでしょうねよね、きっと。

そして、多様性についての記述が見事でしたのでそちらも共有します。

「多様な在り方を受け入れようと口で云うのは簡単ですが、その実、受け入れるのにはかなりの努力が要るし、時間もかかる。だから、人は受け入れる振りをして、同化させようとするんです。
仲良くしようと云うのは、同じになろうと云うことではないんですよ。違うものを違うままに容認し合うと云うことでしょう。でも、これが出来ないと云う人は殊の外多いんですよ。違うのは間違っている、直せと云う。自分と同じにしろと強制する。出来なければ」排除する。
「人は一人一人皆違う。個と個は対等です。でも何か基準を設け、それに当て嵌まるか否かと云う形で見るならば、それは数値化されるー数として認識される。そうなると個個の違いなんかは無視されてしまうんですよ。多数は少数に勝てると考えてしまうのでしょう。その方が楽だからです。そして、少数派は同化を強いられるか排除されることになる。時に人権までが蹂躙されることになる。多数派が常に正しいとは限らないんですがね。」

P797

全くだ!物の怪を相手取っているにも変わらず、まさかの社会性だ!
その後の展開がさらに胸アツです!!人が人を化け物扱いし、無視したり排除したりする心理構造が、もお、なんか、語彙力。是非、ご自身で確認なさって下さいませ。
人は信じたいことを信じ、見たいものを見るものなんだなあ。こうなってくると、妖怪幽霊お化けの類より、人間の方がどんなに恐ろしいかってなりますよ。
やっぱりすごいや、京極夏彦先生は。故に何度も言おう、大満足でした!と。

それにしても、古書肆京極堂のブックカバーがもらえたの、嬉し過ぎた~!
開運白蛇栞も付いていました。わーい。

次回作についての記載はなかったけど、待ってていいんだよね?10年単位でお待ちしております!!

ということで、推します。








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