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勝手に1日1推し 202日目 「オッペンハイマー」

「オッペンハイマー」クリストファー・ノーラン     映画

第二次世界大戦下、アメリカで立ち上げられた極秘プロジェクト「マンハッタン計画」。これに参加した J・ロバート・オッペンハイマーは優秀な科学者たちを率いて世界で初となる原子爆弾の開発に成功する。 しかし原爆が実戦で投下されると、その惨状を聞いたオッペンハイマーは深く苦悩するようになる。冷戦、赤狩り―激動の時代の波に、オッペンハイマーはのまれてゆくのだった―。

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悩んだんだけど、やっぱり日本人として見とかないとなって思って見ました。
原爆の爆破実験トリニティの成功から、長崎、広島へ落とす、落とした、落とした後って、被害の甚大なる状況を知る被爆国民としては息が止まります。だって直接的描写がなくても知ってるんだもん。私もトップ画像のキリアン・マーフィーFACEしてたと思う。
だから、立場の差を考えてもあの場の熱狂的な喜び方を目の当たりにするのは辛く憤りがあります。あまりにもことの重大さに気付いていなさすぎで。

が、タイトルの通り、本作はオッペンハイマーの半生を描いているんですよね。彼が実際いた場所は1945年世界大戦中のロスアラモスで、日本じゃないし2024年でもない。だから、仕方ない・・・。何度か中止するチャンスがあったじゃないかって憤るけど、仕方ない・・・。辛い・・・。

あくまでオッペンハイマー博士という原爆を作った人物に絞って、人としての彼を真摯に描ここまでに描いたわけだから信用できる気がするよ、ノーラン。いつだって時空を歪めたいマン、ノーラン。今回も3時間ずっと乱れ咲き!3つの時を行ったり来たり。時の支配者、ノーラン。徹底してる!

話は戻って、
原爆投下後の惨状を知りオッペンハイマーの心身が共に蝕まれていく様は、それまで頭が良くてリーダーシップがあり、女性にもモテるっていう風に若干ヒロイックに描かれていたからこそ、より開発者としての重責、苦悩、良心の呵責が浮き彫りになったと思います。
実験の成功以降、博士はほぼ蚊帳の外でことが進み、大義のための犠牲という理不尽が貫かれた結果の原爆投下~終戦という流れが本当に虚しく感じました。
これって、今の世界情勢に照らすと、れっきとした反戦映画と言えると思います。

アメリカで量子力学が軽んじられていた背景と、更には同業者からも理論が軽んじられていたことで、半ば意固地に科学者としての矜持と好奇心の為に推し進めた原爆開発だったんだろうよ。結果として、理論上だけでなく実際に成功し、かつての不遇から脱却、周囲を黙らせることができた訳だけれど、やはり実践では計り知れない破壊と犠牲が伴ったっていう、ね。自身は逃れられない巨大な罪の意識に苛まれていったっていう、ね。
世界を焼き尽くす恐れがあるって自分で言ってたし頭では分かっていたはずなのに、科学者として性が勝ったんでしょうか。でもさぁ、、、って何度思ってもどうやっても歴史的事実は変わりません。悔やんでも悔やみきれない。

で、そこで終わりじゃないところが長い理由?!と共に見どころ。ここから、私は人間の善性も見ることができたと思っていて、トップ画像のキリアンFACEからは解放されました。
戦争や政治など大きな集団の中では個人が埋没してしまうという社会構造 の恐ろしさを再度思い知らされたけれど、それでも個々で良心や正義を持つことができるんだって信じられたから、意外に鑑賞後は晴れやかでした。
原爆を開発したことを後悔し、以降の核開発や水爆実験に反対するオッペンハイマー。聴聞会でオッペンハイマーを陥れる嘘の証言を拒否する教授仲間。審議会でオッペンハイマーについて世に出ている事実とは違う真実を切々と述べる科学者。そんな個人がいたことには勇気が持てました!

構造としては、序盤に「核分裂」と「核融合」の2部構成が提示されていますが、すっかり忘れて、3つの話が同時進行してるんだなって、はいノーラン節!って思って見ましょう。

1:オッペンハイマー(以下、OP)イギリス留学~原爆の開発、成功
2:OP赤狩り(ロシアのスパイを疑って)聴聞会
3:ストローズの議会入りの審議会
です。
3はモノクロだから明らかに時間軸も物語も違うってすぐ分かります。OP出てこないしね。
1、2が最初、微妙に分かりにくいんだけれど、3時間もあるからそのうち気付くし、分解して再構築したんだなあって、ノーランの頭の中の具現化を味わいつつ、そのうちオッペンハイマーの頭の中もリンクしてきて、つまり結局は天才の頭の中って形にしても理解しがたいんだなってなります(褒めています)。

それから、オッペンハイマーという人物に齟齬がないのがすごい!原爆投下後、広島の惨状を追体験したり、もろもろメンタルに問題が・・・ってなるけれど、留学時代から精神の不安定さ、繊細さを持ち合わせていた背景がしっかり描かれていたから納得できます。だから同じく不安定で、でも聡明なジーンに惹かれたんだろうし、彼女の自殺がその後の原爆開発や聴聞会にも少なからず影響を及ぼしているんじゃないでしょうか。逆に強く逞しいキティにも惹かれたのかも。まじ、繊細さん。HSP。

科学者としての論理的思考と、人としての情緒的思考、感性の鋭さって相容れないと思いがちだけれど、特に科学者なんて論理と理性で生きてるって思いがちだけど、その両方を持ち合わせていたのがオッペンハイマーで、彼を大いに苦しめたし、正しさにも導いたんだと思います。

こういう人物像を知ると見方、考え方も少し変わりますよね。本作は日本公開が危ぶまれたけれど、個人的にはこうして知る機会が与えられたことは良かったんじゃないかなあと思いました。国内で賛否両論あるのはむろんです。後味は悪くないけれど、作品の出来以外に感化されちゃうから、やっぱり手放しで称賛は難しい気がします。

そして、冒頭とラストに登場したのがアインシュタイン。2人を対峙させることで、オッペンハイマーは英雄でも怪物でもコミュニストでもなく、一人の(天才)科学者なんだって示唆していたんじゃないかなあと解釈しました。一貫してオッペンハイマーを描いたんだぞと。

しっかし、登場人物が多すぎて困った!名前が覚えられない。むしろ、役名じゃなくて役者さんの名前で覚えてました。マット・デイモンとかラミ・マレックとか。
キャリアが長いわりにパッとしなかったというか、脇役ばっかりだったキリアン・マーフィーがアカデミー賞で主演男優賞を取ったのは嬉しい!アイルランド人なのに!!!あの憔悴&老衰ぶりは半端なかったもんね。「28日後…」の続編も決まったとか?やったね。
ロバート・ダウニーJrは、授賞式のあの感じも含め、せこメン度MAXな演技が素晴らしかったです。
あと、あの恐怖の爆音が超怖かったです。正直、没入&体感は心身ともに疲弊しますので、もう少し小さいスクリーンで見ても良かったなあとさえ思っちゃいました。

以上、全ては私の個人的見解でした!
天才肌の監督作を鑑賞する際は、正解を求めず自分の思うがままに感じるようにしております。いかに当事者目線で見るか?に注力すると、感じやすく、見やすく、理解しやすくなるなあと思うのです。そんななので、作品解釈がとんでもないことになったかもしれませんが、悪しからず。
でも、見て良かったって思いました。

まあ、最後まで疑問なのは、こんなに難解だってのにアメリカで大ヒットしたのはなぜ?ってことです。
Why American people Why?です。
そこはケネディがストローズを阻止したからかな?

ということで、推します。


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