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『アレンとドラン』と私の結婚

漫画『アレンとドラン』。

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駆け抜けるように読んだ物語は、さいこうに面白かった、と同時にさいこうに痛かった。そう、もうとにかく痛かったのだ。そして思い出してしまった。世界と自分を呪って悩んでいた学生時代のことを。

アレンとドラン あらすじ

麻生みこと作、漫画『アレンとドラン』。主人公林田は大学2年。とんでもない映画オタクで私生活の大半を映画に捧げている。おかっぱメガネの超サブカルキャラ。2年になっても友達一人おらず、上京した東京でひたすら単館上映やらDVD鑑賞やらで費やし映画の世界に浸りきり、誰とも関わることなくひとりを充足してた女の子。
その彼女があるトラブルをきっかけに隣に住むイケメンと親しくなり、彼への恋をきっかけに自身の世界を広げていく…という物語。恋愛と映画にまつわるエピソードをベースに進行する漫画です。

とにかく主人公の映画オタク度合いがすごい。自分もまあまあ映画詳しい方だけど、ちょいちょい分からぬ話題もるので、きっと麻生みこと氏は相当の映画ファンなのであろう。大昔に読んだ『天然素材でいこう』も映画の話だったしね。

さてこの女主人公、林田さん(以下リンダ)彼女が、とても彷彿とさせるのです。大学時代の私を…。

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ゴーストワールド、リンダさんと私


リンダさんのバイブルは、『ゴーストワールド』というソーラ・バーチとハリウッド女優としてセクシーに活躍する前のスカーレット・ヨハンソン主演の青春映画。
ソーラ・バーチ演じるイーニドは、他人を呪い、世界を呪い、どうにも全く上手くいかない毎日を過ごしてる。それには自分の中に原因があるんだけど、イーニドはどこかでそれが分かってても、それに気づいていないふりをして生きている。すべてを呪いながら。
でも本当は、何よりも彼女が一番呪っているのは自分自身のこと。

そんな彼女が、はみ出し者同士理解し合えやもしれぬ相手として現れるのが、シーモアなのだ。
スティーブ・ブシェミ演じる不気味な中年男シーモアは、社会のはみ出し者で、簡単に言えばオタクでキモい男の人。

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10代だった私は、この2人のやや共依存とも言えるような恋愛関係に、強烈に憧れを抱いたのだった。
あの頃、私は自分の脳内に繰り広げられる世界に、疲れ果てていたし膿んでいた。なんかもう自分に愛想が尽きそうだった。映画を観て、音楽を聴いて、揺さぶられて生まれた感情や言葉を伝える相手が、どこにもただ1人もいなかったのだ。
そう、それこそリンダさんとおんなじように。

自分の居場所がない世界に怒っていたし、なによりそんなことになってる私自身にも腹を立てていた。
だから、誰にも受け入れられることのないはずのシーモアとイーニドが、出会い居場所を見つけたことが、眩しくてすてきで、泣きそうになるくらいだったのだ。

そんな焦燥感を、そんな独り相撲を、ひさーしぶりに思い出させてくれたのが、『アレンとドラン』だった。
別にもう戻りたいとは思わないあの頃なのだけど、今の自分が振り返って思い出せば、なにもかも大げさで多感で大騒ぎしてた自分がなんだか情けないようだし、かわいいようにも思う。

そして現在   シーモアとホールデンと私の結婚

作中のリンダさんは、映画論を何時間でも話せる年上の男性と、アートやカルチャーになんら興味ないが心から惹かれる男性の間をさまよう訳なのですが、
現実の私はというと、アートやカルチャーになんら興味のない、野球とどんぶりご飯が大好き、というような男性と結婚しました。まっったくシーモアでもなかった。なんならホールデンでもない。

あの頃は、音楽や映画を愛する自分が大好きだった。そんな多感でセンチメンタルでロマンチックな私をすてきと思ってくれる人が現れるのを待っていた。んなこと起こるわけないんだけど。
実際の夫は上記と全く違うポイントで私のこと好きになって結婚した様子です。だって彼、映画まったく観ないし音楽はB’z一択だしね。だけど、音楽や文学を介さず人と分かり合えたり、心が近づいたりできるって、あの頃の私は知らなかったし、それを知ることができてよかったって思います。

リンダさんがどんな結末を迎えるのか、果たしてイーニドは無事に大人になれたのか、分からないけれど、少なくとも私はふつうに働くふつうの大人になったような気がします。それはそれで、楽しくて豊かな毎日なんだよなあ。

懐かしかった日々にタイムスリップしたよーな、そんな漫画です。おすすめ。

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