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2018年6月の記事一覧
エクストリーム7年生 (1)
プロローグ・謎の赤マスク
「助けてくれー!!」
夜の帳が下りたキャンパスを、一人の男子学生が疾駆していた。彼が振り返るたびに追手の姿は近づき、焦りは募るばかりであった。
──僕が何をしたというのか、何がいけなかったのか。酸欠気味の頭であれこれ考えるが、まともな答えは出なかった。なんとか正門の警備員詰所まで逃げ切ろうとした矢先、下り坂で足がもつれて転んでしまった。ほどなく三人の追手に取り
エクストリーム7年生 (2)
第一章・その男、落窪三土
「山でボヤがあったみたいですね」
哲学研究室の室員、額博(がく・ひろし)は仕事用のノートPCを操作しながらこう切り出した。
「ええ、私も文学部事務室で聞きました。夜遅くに大きな音がしたとか」
相手は、教授の暮石進(くれいし・すすむ)だった。物騒な話題ではあったが、いつものように悠然とコーヒーメーカーから一杯分をカップに注ぎながら返事をした。
「警察も捜査してま
エクストリーム7年生 (3)
第二章・再履修生を救え
「君、もういいよ。次回の発表はきちんと調べて」
暮石教授の声が、小さな教室に響いた。口調こそ穏やかだが意味は容赦なく、言われた学生は座ったままうなだれることしかできなかった……といっても、三土のことではなかったが。
「哲学演習」の中盤、三土の隣にいる男子が発表する番になった。デカルトの『方法序説』を、事前に指名された学生が訳読と解説をする授業。原文を読んで訳
エクストリーム7年生 (4)
第三章・舞台を止めるな (1)
「「エクストリイィィィィィィィィィィィィム!!」」
8号館の大教室に、あの大音声が響いた。座席には100人ほどの学生や一般人、そして教卓の取り払われた教壇ではマシンガンを構えた着ぐるみ二人とあの男が対峙していた──。
一ヶ月ほど前の10月某日。二階浪は研究室で「哲学演習」の予習をしていた。春先の二日間にわたる悪夢のような出来事が終わってからというもの