エクストリーム7年生(17)

  第四章・暗夜 (2)

「君にこの台本を見せたのは正解だった。一戦交えたあとでもセリフを間違えなかったし、何より幸いだったのは一ヶ月前から例の会話が変更されていなかったことだ」
「そうなんですか」
「さっき二階浪君が来て、話していたよ。エクストリーム7年生と名乗る人物が急に現れたと思ったら、セリフも所作もほぼ台本どおりだったと」
「……おかしいと思わなかったんでしょうか」
「銃口を向けられた一般人が、冷静でいられるとは思えないが」
 額は台本を引き出しに戻すと、本題は済んだと言わんばかりにPCでの作業を再開した。
「ところで、体の具合はどうかね。いかに変身していたとはいえ、実弾を受け続けて無事ではあるまい」
「全身痛くて、特に肋骨にヒビが入ったみたいでいちいち痛みます」
「それぐらいどうってことないだろ」
「えー……」
 心配してくれたっていいのにと思いながら、三土は再び突っ伏して顔だけを額に向けた。
「とにかく、しばらくはおとなしく卒論を書きなさい。風紀委員会や草石君のことはこちらで調べるから」
「はい、すいませーん」
 言い終えると、三土は体を休めるべくいつものように眠りについた。

 額と三土が取り留めのない会話を続けているとき、哲学研究室の外に立っている人物がいた。やがて二人のやりとりを聞き終えると、手にしていたカップのコーヒーを飲み干してその場を去った。

 研究室に、いつもとは少し違う静寂が訪れていた。

   (続く)