エクストリーム7年生(34)

  第六章・終わりの話 (3)

 不意に投げつけられたとはいえ、柔らかいぬいぐるみである。暮石にとって脅威にはならず、余裕をもって両手で受け止めた。
「こんな物を投げつけたところで何の……むっ!?」
 暮石がぬいぐるみを胸の位置まで下ろしたとき、カッターナイフが顔に向かって飛んできた。いつもの暮石なら簡単に打ち払えただろう。しかし両目を負傷しているうえに両手もふさがっていた。反射的に手にしたぬいぐるみで刃を受け止めると、今度は慎重に下ろした。逃げたのか隠れたのか、すでに二階浪の姿は見えなかった。
「やるな……カッターナイフで私を撃退できれば良し、それができなくても光学迷彩で逃げられれば可ということか」
「警察だ、動くな!!」
 いつの間にか、数人の警察官が来ていた。暮石は不審がったが、自分が何ら犯罪をしていないという確信があったため冷静であった。
「これはこれは、私に何の用ですか」
「その手にしているぬいぐるみのことだ!」
「これが何か?」
 暮石は、警察官が何を言っているのかわからずにいた。しかし刺さっているカッターナイフが邪魔なのでぬいぐるみから抜いたところ、切れ込みから綿が飛び出した。

「「「いいいぃぃぃやああああああぁぁぁぁぁぁ!!!」」」
 途端に周囲から悲鳴とも絶叫ともつかぬ声があがった。草石が、黒服が、家族連れが、カップルが、キ〇ィちゃんの無残な姿を目の当たりにして精神を破壊された。
「なんだなんだ、一体!」
「貴様、キ〇ィちゃんを傷つけたな! サン〇オキャラクター愛護条例違反で逮捕する!」
「なんだと!?」
 思わぬ展開に愕然とした暮石は抵抗もできずに連行された。数万円の罰金で話は済んだが、大学のイメージが損なわれることを危惧した経営陣は暮石を懲戒解雇処分とし、幕引きを図った。

 こうして多摩市のみならず日本中を騒がせた「キ〇ィちゃん傷害事件」は連日マスコミやネットを騒がせたが、情報を遮断していた三土は知る由もなかった。卒業式の前に事の次第を聞いた三土は複雑な心境であったが、こればかりは自分に責任はないと言い聞かせた。

   (続く)