エクストリーム7年生(26)

  第五章・夢うつつ (3)

 一月下旬のある日、三土は小田急多摩センター駅で降りた。卒論はどうにか提出し、翌週に延びた演習では発表を無事に終えた。この日は口頭試問ということで、卒論の内容について先生方から面接形式で質問を受けることになっていた。暮石が入院したため指導教授が急遽変更となったが、三土は意に介していなかった。とりあえず書き上げたのだし、念のため冬休みの間も研究を進めておいたから何とかなると考えていた。あとは指定された時間に間に合うように、多摩都市モノレールに乗り換えるだけだった。

 改札を通り抜けてすぐに、三土は異変に気付いた。サングラスに黒スーツの若い男が、至る所に立っている。しかも全員が、小さなぬいぐるみを手にしていた。駅のすぐ近くにテーマパークがあるとはいえ、珍しい光景であった。何かある。三土が警戒しつつ歩き始めると、男の一人が叫んだ。
「いたぞ、捕まえろ!!」

 駅前に声が響くとすぐに、三土の後ろから二人組が追いかけてきた。三土は一目散にモノレールの駅に向かって走り始めるが、間もなく進行方向に四人組が現れた。やむなく遠回りの道を選ぼうと横道にそれると、今度は別の二人組が視界に入った。その後も次々と現れる黒服から逃げ続けるうち、とうとう駅とは反対方向にある「サン〇オピューロランド」の正門近くに来てしまった。これは一体何事か──三土が走り続けると、二人の男が前方に立ち塞がった。逃げ道はない。やむなく立ち止まると、あっという間に黒服に遠巻きにされた。

「三土く~ん、久しぶりだね~?」
 聞き覚えのある声が、正面にいる一人から届いた。無精髭にヨレヨレの襟シャツとジーンズ……忘れもしない姿であった。

「草石……君……?」

   (続く)