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こあたん こあらの学校氏の気になる情報発信まとめ

本記事ではX(旧Twitter)アカウント、こあたん こあらの学校氏による、賛否の別れる情報発信についてまとめていく。話題になったものについては、今後も順次内容を加筆修正していく予定の為、目次から気になる項目を読む事をお勧めする。


こあたん こあらの学校氏とは

こあたん こあらの学校氏とは、X(旧Twitter)やInstagramで英語のニュアンス等をイラストつきの図解で分かりやすく解説している英語学習アカウント。2023年11月時点で、Xのフォロワー数は68.8万人、Instagramのフォロワー数は10.6万人を獲得しており、SNSの英語学習者の界隈では特に人気を博している。https://twitter.com/KoalaEnglish180

現在こあたん氏は3冊の著書を出している。

そんな超人気アカウントのこあたん氏だが、分かりやすさを重視し過ぎた故に図解や解説に現れた過度な単純化、学術的観点からは根拠の弱い俗説、正確性に欠ける英語公教育批判等も投稿しており、一部からは反感を買っている。

Edward T. Hallのハイコンテクスト、ローコンテクスト文化の誤解

以下はこあたん氏の3冊目の著書『カンタンなのになぜか伝わる こあら式英語のフレーズ図鑑』の発売日である2023/11/13に投稿されたもの。

特に話題になったのは画像3枚目のハイコンテクスト、ローコンテクスト文化が国、言語レベルで異なり、図のように順序づける事ができるとしたものだ。出典としては文化人類学者Edward T. Hallの“Beyond Culture”をあげている。本図解で主題となっている「コンテクスト」というのは、言語外の情報の事を指す。ハイコンテクストであるほど、コミュニケーションでの言語外のモノへの依存度が高く、ローコンテクストであるほど、依存度が低いという事を意味する。
しかしながら、こあたん氏が紹介しているような文化の順序づけは、Hallの “Beyond Culture”には存在しない。詳しくは、関西学院大学社会学部准教授、寺沢拓敬氏の以下の記事を参照していただきたい。

上記記事の内容をかいつまんで説明すると、ハイコンテクスト文化、ローコンテクスト文化というのはHallの"Beyond Culture"の中では言及されるものの、"Beyond Culture"自体は気軽なエッセイであり、実証には至っていないものである。文化による順序づけの図は、後の研究者などによって作られた二次的なものであるという。であるならば、こあたん氏は、出典としている"Beyond Culture"など端から読んでいない可能性が高いと言える。なお、本図解は3冊目の著書『カンタンなのになぜか伝わる こあら式英語のフレーズ図鑑』の中に含まれているという。

自動詞と他動詞の違い

以下は2023/10/31の投稿。

学校英語で習う「自動詞は後ろに目的語がない。他動詞は後ろに目的語がある」という教えを批判し、「主語から出た力がどこに向かっているか」を理解する事が重要だと述べている。本投稿については、こあたん氏の根本的な誤解が見られるように思う。こあたん氏は、英語の動詞全般には「主語から力が出る」という前提に基づいて語っている。確かにbreakはその最たる例だろうが、世にある動詞はそういうものばかりではない。引用ポストで何人かが出していた例を拝借すると、例えばvisit(~に訪れる)の場合、visitは直接目的語を取る他動詞だが、別段目的語に何らかの力を発している訳ではない。そして、この事はvisitの限らず、移動を表す動詞や状態動詞など、例外をあげだしたらキリがない。
また、こあたん氏が批判した「他動詞は後ろに目的語がある」という考え方も、厳密には逆で「後ろに目的語があるなら他動詞」という順序で考えるべきものだろう。勿論、他動詞として使われる事が多い動詞と出くわした際に、経験則で「次は目的語が来るのかな?」と予測を立てながら読む事は大事だが、実際の所本当に自動詞なのか他動詞なのかを区別するには、後ろに目的語があるかどうか、文全体を見て帰納的に判断するしかない。こあたん氏も、自身の考え方があらゆる場合に通用するとは考えていないかもしれないが、主語が何らかの力を発する動作動詞というのは、英語の動詞の一部に過ぎない。それだけを以て一つのルールであるかのように一般化して語るのは避けるべきだろう。
なお、2022/8/20にも同様の図を投稿しており、ラテン語さん氏には以下のように指摘されていた。

文頭にand, but, soは置かない

以下は2022/7/29の投稿。

本投稿は賛否が別れる所であるが紹介しておく。内容としては、アカデミックな文書では接続詞and, but, soを文頭に書いてはならないという暗黙のルールが英語にはある、というもの。本件については、筆者もこあたん氏の言うような傾向がある事を高校で指導された為知らなかったが、一部の専門家からは否定されているという。
以下はラテン語さん氏の投稿。

以下は『英文解体新書』の著者で、杏林大学外国語学部准教授、北村一真氏の投稿。

以下は『入試実例 コンストラクションズ 英文法語法コンプリートガイド』の著者、石原健志氏の投稿。

石原氏によると、こあたん氏が図中で△と示している文については、接続詞を置く事で「何らかの内容を際立たせたいような意図が見られないから△」なのであって「butを文頭に置くのは好ましくないから△」という訳ではないという事と思われる。

この他、ウィズダム英和辞典、ジーニアス英和大辞典の文頭and, butの解説では、文頭での使用を慎むべきだとする意見も受容しつつ、そうでないとする意見も紹介している。

ウィズダム英和辞典
ジーニアス英和大辞典

ODEでは、and、but、becauseで文を始めるべきではないとする教えられるものの、この教えは数百年間無視されてきたという。

It is widely taught and believed that conjunctions such as and (and also but and because) should not be used to start a sentence starting with and expressions as incomplete thought and is therefore incorrect. Writers down the centuries have readily ignored this advice, however, using and to start a sentence, typically for rhetorical effect, as in the following example: What are the government’s chances of winning in court? And what are the consequences?

“Oxford Dictionary of English”

しかしその一方、『英文法総覧』では

The weather was bad, but he started.
(天気は悪かったが, 彼は出発した)
[butは「, but」で使うことが基準であり, 文頭にはbutを使用しないのが正式]

安井稔、安井泉『英文法総覧』白水社、2022/10/22、p264、15.2(3)c

また、以下に示すコアレックス英和辞典、LDOCEのように、書き言葉では文頭のand、butを避けるべきと単純に説明する辞書もある。

②(時間的順序) a(連続)それから, そして(🔶文頭に用いてAnd… とするのは(口)では使われるが, あまり好ましくないとされる)

『コアレックス英和辞典 第3版』旺文社2018/10/11、p57

英語の発想
(前略)一般的に日本語では「そして」「しかし」「また」などの接続詞をよく使う傾向があるが, 英文にする場合はこのような接続詞は訳さない方が自然な場合が多い。基本的に英語では文意から文の間の関係が明確なときはわざわざ接続詞を用いない. 特に文頭のAndやButは強調や口語の場合を除いて使わない方が自然である.

『コアレックス英和辞典 第3版』旺文社2018/10/11、p215

この他、Longmanでもandで文を始める事避けるべきであるとしている。

In written English, avoid starting a sentence with and:
And now we come onto the issue of homelessness. → We now come onto the issue of homelessness.

“LONGMAN Dictionary of Contemporary English 6TH EDITION”, 2014

以上を踏まえると、こあたん氏の「文頭にand, but, soは置かない」とする投稿については諸説あり、一概に誤りとは言えないが、無視される傾向の強いルールを「暗黙のルール」と呼ぶ事には疑問が残る。

meetとseeの違い

以下は2022/8/29の投稿。

meetは初めて出会う時、seeは知り合いに会う時に使うと説明しているが、この書き方は正確性を欠く。以下、LDOCEからmeetの意味を確認する。

meet
1. SEE SB AT AN ARRANGED PLACE
[I, T]to go to a place where someone will be at a particular time, according to an arrangement, so that you can talk or do something together
2. SEE SB BY CHANCE
[I, T]to see someone by chance and talk to them
3. SEE SB FOR THE FIRST TIME
[I, T]to see and talk to someone for the first time, or be introduced to them
1. 人と所定の場所で会う
[自, 他]人と会いに所定の時間に約束した場所に行き、話したり一緒に何かをしたりすること
2. 人と偶然出会う
[自, 他]人と偶然出会い、話すこと
3.人と初めて出会う
[自, 他]人と初めて出会い話すこと、もしくはその人に紹介されること

“LONGMAN Dictionary of Contemporary English 6TH EDITION”, 2014

上記によると、meetには「人と初対面で出会う」という意味もある一方「待ち合わせして会う」という、初対面でない時の出会いにも使う意味がある。従って、meetは必ずしも初対面しか意味しない訳ではない。またmeetから派生したmeeting(会議)は、基本的に見知った人間の間で所定の時間や場所で行われるものである為、meetが初対面にしか使えないなどという事は全くない。なお、seeにも「約束して会う」意味がある為、meetとseeは交換可能である事も珍しくない。
しかしながら、こあたん氏が図解化したmeetとseeの違いが、顕著に現れる場合もある。それは出会い頭の挨拶“Nice to meet you.”の場合である。“Nice to meet you.”は初対面の際に、“Nice to see you.”は一度会った事のある人と会った際に使われる事が多いとされる。従って、こあたん氏の示す図解は、meetとseeの違いではなくNice to meet you.とNice to see you.の違いと言えるかもしれない。

Hello!→Hi!/Hi!→Hello!

以下は2023/2/22の投稿。

これは、英語話者間の挨拶では、相手からの挨拶とは意識的に違う語を使った挨拶をするのが圧倒的に自然という内容。これに関しては、筆者は英語圏で生活した経験が無い為コメントは控えるが、否定的な意見が多く寄せられた。

ただ一方で賛同する意見もあった。
https://twitter.com/freelife_canada/status/1630585651472236544
https://twitter.com/cam_i8/status/1628653736691404800
https://twitter.com/shungo_canada/status/1638296271508357120

一部ではこあたん氏の意見に賛同する人もいる以上、一概に誤りとも言い難いが、異なる挨拶で返した方が「圧倒的に自然」「これがネイティブの感覚」などと紹介する事には議論の余地がある。史上最大の英語コロケーション氏の示したドラマコーパスによると、
Hi→Hiが4884
Hi→Helloは568
Hello→Hiは961
Hello→Helloは968
この結果では、特にこあたん氏の言うような使用の偏りにはなっていない。勿論、後にコロケ氏も述べているように本統計は話者の年齢層や会話のフォーマルさ等は一切考慮していないので、このコーパスだけで何かを論じる事は難しいが、少なくともこあたん氏の主張を裏付ける客観的証拠は示されなかった事については注意が必要である。

七面鳥の語源はたらい回し

以下は、2022/5/26の投稿。

この図解は「七面鳥」を意味する単語を各言語間で比較した際、特定の言語間では、そのルーツを自身の言語とは別言語に持っている、つまりはルーツがたらい回しにされている事を示したものである(当時はホロホロチョウ(Guinea fowl)の意だったが、後に七面鳥と混同される)。
例えば、英語で七面鳥は“turkey(トルコの(鳥))”と言うが、これは、ヨーロッパにトルコ経由(マダガスカル→トルコ→欧州)で輸入されたホロホロチョウが、北米在来種の七面鳥と混同された事から来ているとされている。
その一方トルコ語では、七面鳥を“hindi(インド)”と言い、これは当時のフランス語“dinde(poulet d’inde→chicken from India)”に由来するとされているが、ここで言うインドとは、アメリカ大陸の事だと考えられる。そして現代フランス語では、七面鳥を“dinde”、“dindon”と言う。dindonは、「家禽」を意味する“dind”に、指小辞-onをつけたもの。
参考
https://www.etymonline.com/search?q=turkey
https://en.wikipedia.org/wiki/Helmeted_guineafowl
https://fr.wiktionary.org/wiki/dindon

このように、ヨーロッパ周辺における七面鳥の呼び名については、多くの言語でルーツをたらい回しにされている。
この七面鳥をめぐる投稿については、実はこあたん氏による投稿の約2年前に、ラテン語さん氏が類似した内容の投稿をしていた事が確認されている。

この投稿については、ケチュア語をめぐってラテン語さん氏がこあたん氏に情報のソースを度重ねて尋ねた結果、こあたん氏にブロックされた事で有名である。

ケチュア語以外については、以下で筆者は調べてみたのでそれぞれ列挙するが、ギリシャ語とアラビア語についてはきちんとソースを確認できなかった。

多言語社会であるインドの言語のうちの一つであるヒンディー語では、七面鳥を “पीरू(pīrū)(ペルーの鳥)”と言い、これはポルトガル語で七面鳥を意味する語“peru(ペルー)”から来ているとされる。
参考https://en.wiktionary.org/wiki/%E0%A4%AA%E0%A5%80%E0%A4%B0%E0%A5%82

アラビア語では七面鳥を“ديك رومى(dik rumaa)”、“تركيا(turkia)、と言う。それぞれ、ビザンツ帝国の鶏、トルコの(鳥)という意味。“ديك رومى(dik rumaa)”のديك(dik)は「雄鶏」、رومي(rumaa)は「ローマ」を意味する。رومي(rumaa)は、イスラム文化や歴史の文脈ではしばしば「ビザンツ帝国」を指すこともあり、公用語がギリシャ語であったり、時期によっては東ローマ帝国が現在のギリシャの土地の大部分を支配していたりなどしていたが、だからといって“ديك رومى(dik rumaa)”を「ギリシャの鳥」と紹介するのには違和感を覚える。言うとしたら、やはり「ローマの鳥」あたりが無難ではないだろうか?
参考
https://en.wiktionary.org/wiki/%D8%AF%D9%8A%D9%83_%D8%B1%D9%88%D9%85%D9%8A
https://archive.org/details/theoxfordenglisharabicdictionary/page/n1299/mode/2up

ギリシャ語では七面鳥“Τουρκία”、“γαλοπούλα”、“γάλος”、“κούρκος”と言う。ギリシャ語で七面鳥を「フランスの鳥」と表現する語はネット上では発見できなかった。が、代わりに「フランスの鳥」と訳される動物、“γαλλική πέρδικα”(フランスのウズラ、ヨーロッパヤマウズラ)なるものを発見した。七面鳥とウズラは、どちらもキジ目に属するが、七面鳥はシチメンチョウ属、ヨーロッパヤマウズラはヤマウズラ属に分類され、全く別の生き物との事。こあたん氏がこの二つを混同した可能性はあるが、この点はまだ少し調査の必要がある。
参考
https://en.wiktionary.org/wiki/%CE%B3%CE%B1%CE%BB%CE%BF%CF%80%CE%BF%CF%8D%CE%BB%CE%B1
https://el.wiktionary.org/wiki/%CE%BA%CE%BF%CF%8D%CF%81%CE%BA%CE%BF%CF%82
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%81%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%83%81%E3%83%A7%E3%82%A6
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A8%E3%83%BC%E3%83%AD%E3%83%83%E3%83%91%E3%83%A4%E3%83%9E%E3%82%A6%E3%82%BA%E3%83%A9

オランダ語で七面鳥は “kalkeon”と言い、これは当時のインドの都市「カリカット」 (現在のアラビア海に面する湾岸都市コーリコード(Kozhikode)) に由来する。なお、ノルウェー語(kalkun)、スウェーデン語(kalkon)、フィンランド語(kalkkuna)は全てオランダ語のkalkeonからの外来語である。
参考
https://en.wiktionary.org/wiki/kalkoen#Dutch
https://en.wiktionary.org/wiki/kalkun
https://en.wiktionary.org/wiki/kalkon
https://en.wiktionary.org/wiki/kalkkuna

マレー語で七面鳥は“ayam belanda(chicken Holland)”という。なお、マレー語と同じオーストロネシア語族に属するインドネシア語では、“kalkun”や“Turki”と言うのが一般的であるらしい。
参考
https://en.wiktionary.org/wiki/ayam_belanda

カンボジア語、即ちクメール語で七面鳥は “មាន់បារាំង(meanbarang)(French chicken)”、“មាន់ទួរគី(mean tuorki)(Turkey chicken)”というらしい。なおフランス語のdindon(七面鳥)に由来する “មាន់ដាំងដុង(mean dangdong)”という言い方もあるとの事。検索ヒット数で比較すると、“មាន់បារាំង(meanbarang)(French chicken)”は1990件、“មាន់ទួរគី(mean tuorki)(Turkey chicken)”は421件、“មាន់ដាំងដុង(mean dangdong)”は1380件。
参考https://en.wiktionary.org/wiki/%E1%9E%98%E1%9E%B6%E1%9E%93%E1%9F%8B%E1%9E%94%E1%9E%B6%E1%9E%9A%E1%9E%B6%E1%9F%86%E1%9E%84
https://glosbe.com/en/km/turkey

なお下記の投稿では、បារាំង(barang)自体は「フランス」というよりは「外国」「ヨーロッパ」を指すとの指摘もある。


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