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「えいえんのいのちをてにいれた!」ショートショート

かつて命が有限であったらしい。
らしい、というのは現代社会においては命は無制限だからだ。

科学技術の発展の結果、といえばそのとおりなのだが、その発見は偶然だったらしい。
だがその偶然の発見によって、人間は「老化」と「寿命」から解放された。

その世紀の大発明の薬剤を投与することにより、
人は時の経過による劣化から免れることができるようになった。

そして、それらは一部の人に独占されるようなこともなかった。
その発見当時、この国では国民の年齢構造が歪になっており、老人があふれかえり、若者が極端に少なくなっていたのだ。

労働人口の減少は国の趨勢に直結する。

もはや将来の人口減少を止めることがムリだと悟った偉い人たちは、世紀の発明の流布と供給に尽力した。

なにせ、人が減ると税金が減るのだ。
必死にもなったのだろう。

こうして、人は老いから解放され、寿命から解き放たれたのだ。


「ああ、くそ! またこんなに持っていきやがって…」
男は今月の給与明細を見て、悪態をつく。それは毎月の恒例行事だった。

老いた国民たちは、かつて政策に賛成した。
寿命を延ばすため、健康のため、自分たちのための政策だと信じて疑わなかった。
しかし、当然それには資金がいる。

その資金は当然、税金だ。

老いのなくなった国では、等しく、著しい、税金が徴収され、
その税金は、無限に生きながらえさせるために注ぎ込まれる。

もう働き出して何年目だ・・・・?
男は取れるだけ取られて残り僅かな残金を見つめながら、思った。
しかし、それは同時に無意味な問いだった。

なぜならこの労働にもはや終わりはないのだから。

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