見出し画像

Z世代が聴く名盤 #22 フィッシュマンズ「空中キャンプ」

ここ数年で「Z世代」という単語をよく聞くようになった。「団塊世代」「氷河期世代」「ゆとり世代」等に続く新たな世代の区分である。
なんでも世間様はこの世代を「自分達とは全く違う感性を持った若者」と見ているようで、そんな歳の若者が起こした迷惑行為やトラブルを見つけては叩く報道や、そんな歳の若者を集めては「昔はこうだった」と昭和や平成の映像やらを持ち出して色々説明して反応を見てみる企画が最近増えてきており、「最近の若いのは何を考えているのやら」という空気をなんとな~く感じる事が多くなってきた。

そこまで我々の考えていることが気になるなら発信していこうじゃないか、ということでこのシリーズを始めることにした。当記事はZ世代にあたる筆者が世代よりも上のアーティストが出した名盤を聴いて、感想を書いていくただそれだけの記事である。

筆者は2003年生まれで、ニュースなどで取り沙汰される「Z世代」よりやや年上だが、WikipediaによればZ世代とは概ね1995~2010年生まれの若者を指すとのことなので、そのちょうど真ん中あたりに生まれた自分はバリバリZ世代を名乗れる。


作品情報

フィッシュマンズ、6枚目のオリジナルアルバム。

前置き

フィッシュマンズとの出会いは古いとも新しいとも言えない微妙な時期で、高校生の頃に名盤リストを漁っていたら今作を見つけたのが始まりだったと記憶している。海外で評価されているのを知ったのは本当にその直後くらいで、音楽系YouTuber「みのミュージック」が海外での評価を取り上げた動画を投稿したときは超絶タイムリーだと思ったし、こういう専門的なところが取り上げる前に自発的に聴いてたという経験も今の所は最初で最後である。

そんな時期に聴いていたのが今作。今となっては海外で評価されている次作「LONG SEASON」の方が格上みたいな風潮になってきてるきらいがあるが当時はフィッシュマンズといえば今作というイメージで、各媒体を覗いても名盤ランキングみたいなコーナーでみんなが今作をべた褒めしている光景は結構各所でみられた。「LONG SEASON」が海外で評判になっているという情報が入ってきたのは本当にフィッシュマンズを聴きはじめてすぐくらいの時期なので、自分は「空中キャンプ」が最高傑作だったあの頃の空気を体感できたギリギリ最後の一人なんじゃないかと勝手に自負している。

ということで今回は、「フィッシュマンズの最高傑作」という御株を「LONG SEASON」に奪われた今こそ今作を取り上げようという逆張り精神で執筆に臨む。

感想

曲調はレゲエ風だったりAORだったりヴェイパーウェイブの先取りみたいなことやってたりと日本のバンドらしくバラバラなんだけど、浮ついた音像とボーカルが統一感を持たせててそこまでバラバラな感じはしない。ぼんやりして掴めない不思議な印象が今作にはずっとある。その辺が今作、ひいてはフィッシュマンズのもつ魅力の一つなのだろう。

「邦楽史に残る名盤!」とか何とかいう触れ込みから今作に興味を持って、初めて今作を聴いてみた時から元々好印象な作品ではあった。特に「ずっと前」「すばらしくてNICE CHOICE」の2曲は、それまで聴いてきた曲にはない独特の浮遊感があってその2曲だけ延々とリピートしてたのを覚えている。

今作の真の良さを知ったのはその少し後だ。高校から帰る電車で、いつもは1曲1曲聴きたい曲を選んでそれを聴きながら帰るのだが、その日はたまたま疲れてて、曲を飛ばすのさえ面倒になって適当に選んだ今作をなんとな~く曲順通りに聴いたら、「すばらしくてNICE CHOICE」がいつもより何百倍も魅力的になって聴こえてきて、あまりのカタルシスに衝撃を受けた。

あの時なぜそんなことが起きたのか、今考えてみてもさっぱり分からない。それらしい理由はいっぱい思い浮かぶけどこれはもう理屈ではないだろう。今でも「ずっと前」の前に置ける曲は今作の中にはないと思うし、その次に来る曲として最適なのは「BABY BLUE」だし「すばらしくてNICE CHOICE」の次は「新しい人」しかないと思う。

この体験から「曲それぞれはパッとしないけど、続けて聴くと良く感じる」というよくある感想を感覚的に理解できるようになったことを考慮すると、シングル単位で聴くタイプへと寄っていた自分に改めてアルバムトータルで聴く楽しみを提示したのも今作だった、といえるかもしれない。

基本的に曲はシャッフル再生で聴く派の自分だが、フィッシュマンズだけはこの経験があるからついつい曲順通りに聴いてしまう。当然今作もあの現象の再来を期待して何回も曲順通りに聴いているが、現在そこまで感動できたことは一度もない。あの体験は色んな環境が重なって出来た魔法のような物だったのか、それとも自分が老いて感受性が衰えてしまったのか…

一番好きな曲:すばらしくてNICE CHOICE
一番「…」な曲:SLOW DAYS

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?