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異常高圧層に挑む

東南アジアの海上試掘現場では掘削中、異常高圧層に苦しめられました。

地層の圧力 (地層圧 (formation pressure):地層の孔隙内に存在する流体の圧力) は、間隙圧 (pore pressure)、流体圧 (fluid pressure)、地層流体圧 (formation fluid pressure)、地層間隙圧 (formation pore pressure) などとも呼ばれ、一般に地下に行くほど徐々に圧力は高くなります。

地層が堆積してだんだん地下に埋没していくと、通常であれば孔隙内の流体が徐々に排出されながら孔隙率の減少がおこり、地層圧は地層水の静水圧力とほぼ一致します。静水圧勾配は地層水の密度に関連するので地域差はありますが、だいたい0.43~0.48psi/ft程度で深度に伴い圧力が増加していきます。

ある深度の地層圧が、地層水の静水圧力よりも高いことを異常高圧と呼んでいます。また、そのような地層を異常高圧層と言います。

異常高圧層が形成される原因としては、地層が急速に堆積するなどして、孔隙内の流体が十分に排出されない状態(アンダーコンパクションの状態)で埋没していくと、地層の荷重増加の一部が孔隙内の流体で支えられることになり、深度の割に高流体(地層)圧の状態になるという考えが一般的です。

私が東南アジアの海上掘削現場に行くことになった時、その付近での掘削経験がある先輩から、「この付近は異常高圧層があるから気を付けろ」、「異常高圧層をいち早く検知する方法を勉強して行け」とアドバイスを受けました。

異常高圧層の特徴として深度の割に地層圧・孔隙率が高いことから、異常高圧層に入ると、岩石比重が小さくなる、音波速度が小さくなる、地層の比抵抗が低くなる、掘進率が大きくなる、などの兆候が表れます。

私が経験した異常高圧層はかなり強烈なものでした。

それまで掘削は順調に行われていました。地層は全体に泥勝ちで、あまり砂などを挟まず、比較的単調でした。しかし先輩からの助言もあり、掘進率の変化や、泥岩の密度を注意深く観察していました。

最初は深度に応じて徐々に泥岩の掘進率が落ち、泥岩の岩石比重も徐々に大きくなっていきました。深度に応じて泥岩の密度が増し、それに応じて掘進率が下がるのは普通のことです。

ところがある深度付近から、それまで徐々に落ちて来た泥岩の掘進率が上がり始め、泥岩の密度も下がり始めました。深度に対するプロットを作ると、明らかに今までのトレンドラインから外れ始めました。典型的な異常高圧層の兆候です。

この兆候に気がつくと、すぐにリグのレップに連絡し、掘削泥水の比重を上げるようにリコメンドしました。

レップ、コントラクターのエンジニアなどとともに、必要な泥水比重を計算し、泥水比重を上げることにしました。あまり泥水比重を上げすぎると、地下に亀裂が入るフラクチャー圧力勾配を越えてしまい、一気に泥水が逸泥 (地層に泥水が漏れ出てしまうこと) を起こし、泥水柱が下がることにより、地層圧を抑えられずキック (地層流体の坑内への流入)・暴噴 (コントロールできない状態での地層流体の地表への噴出) の危険があるので、注意深く必要な泥水比重を見積もります。

ところが、計算で出てきた必要となる泥水比重がとんでもなく高く、予想されるフラクチャー圧力に非常に近いものでした。半信半疑で何度も計算を見直し、地層圧とバランスがとれる泥水比重を確信し、おそるおそる泥水比重を上げていきました。

もし泥水比重が足りなければ、次に砂岩層など高浸透率層を掘り抜いたとたん、一気に地層流体が坑内に流れ込みキックされる恐れがあります。また、泥水比重が足りなければ、一気に泥水が地層に飲み込まれ、やはりキックにつながります。

泥水比重を上げたところで掘削を開始しました。泥水比重が上がると掘進率も下がります。じりじりした思いで掘り続けると、急に掘進率が上がり、どうやら砂岩層を掘り抜きました。すぐに掘削を止め、地下から掘くず (カッティングス) が上がってくるのを待ちます。砂岩の掘くずが上がってきました。どうやら地層圧とうまくバランスしているようです。

そのまま、泥岩、砂岩の互層を掘り進みました。

正午に私のシフトが終わり、深夜まで休んでいる間にキックが起こりました。掘削中に低圧高浸透率層を掘り抜いたらしく、突然逸泥がおこり泥水が返ってこなくなりました。泥水柱が下がったことにより、それまで泥水で抑えられていた高圧層の圧力が抑えきれなくなり、地層流体が一気に坑内に流入したようです。ジェット機のような音がしてキックが発生したとのことです。

キックの緊張感は大変なものです。その時の様子は以下の記事で触れています。


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