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北海道蘭越町湯里地区の掘削現場で蒸気噴出。硫化水素と砒素

三井石油開発株式会社は、同社が地熱発電の資源量調査事業を実施する蘭越町湯里地区の掘削現場にて、蒸気噴出という事態が発生したと発表しました。蘭越町の発表によると現場は蘭越町交流促進センター雪秩父、大湯沼から北東に約300m進んだ地点とのことです。

三井石油開発(株)発表の第一報は2023年6月29日です。同日11時30分ごろより蒸気の噴出が発生したとの一報がありました。(https://www.moeco.com/news/2023/06/-1.html)

6月30日の第2報によると6月29日の12:00には消防へ連絡し、14:00に消防による現場確認が行われ、「周辺大気中での濃度は健康を害するレベルでないことを確認した」とありますが、どのような成分についての濃度チェックを行ったのかは記載されていません。また、7月29日15:00には近隣河川へ一部地下鉱物と考えられる物質の流入を確認し、環境への影響は調査中とあります。固体分が蒸気と一緒に噴出したようですが、この時点では成分の特定はできていないようです。(https://www.moeco.com/news/2023/06/-2.html)

6月30日の第3報では空気中の硫化水素ガス濃度についての報告 (6月30日15:30 測定) があり、硫化水素は検出されていないとのことでした。(https://www.moeco.com/news/2023/06/-3.html)

実はこの後、7月4日 (第7報) になってはじめて硫化水素によると思われる健康被害の発生について以下のような報告がありました。(https://www.moeco.com/news/2023/07/-7.html)

6月29日(木)に発生した蒸気噴出時、現場敷地内に配送のため訪れていた方1名が現場を離れたのちに体調不良を訴え、入院されていました。なお、6月30日(金)に退院されています。弊社は退院後である同日17時頃に蘭越町から第一報を受け、19時に配送を依頼していた協力会社を通じて、硫化水素中毒と診断されたとの連絡を受けました。

なお、噴出現場では発生当初から硫化水素が検出されていますが、一般の方が立ち入るエリアでは、モニタリングを開始してから継続して硫化水素は検出されておりません。

噴出ガスには微量とはいえ硫化水素が含まれていたことを把握しながら、また、健康被害にあわれた方がいるのを把握しながら、報告、注意喚起などを怠った点については、会社の対応について疑問を感じます。現場近くにはもともと硫化水素臭が立ちこめる大湯沼など、硫黄泉が湧く温泉があり、既存温泉の硫化水素臭と今回噴出した硫化水素臭との区別がつきにくく、会社側に住民の混乱を避けたい気持ちがあったのかななどと想像しています。

硫化水素は極めて毒性が高く、石油、天然ガス、火山ガス、温泉などにも含まれることがあり、濃度が高いと人体に危険を及ぼす可能性が高いことから (1000 – 2000 ppm (0.1 - 0.2 %) でほぼ即死)、石油会社であれば、そしてすこしでも硫化水素のリスクがあれば、通常なら掘削中現場では常時モニターしていると思います。

硫化水素は空気より重いため (比重1.1905)、低地に向かって流れたり、くぼ地に貯まったりします。現場周辺の硫化水素濃度をどのような条件下で測定したのか、また噴出地からの距離も重要です。第3報から報告されはじめた硫化水素濃度の測定は掘削現場から300~600m離れた地点での測定ということでしたので、随分掘削現場から遠い位置で測定が行われているなという印象がありました。

石油会社は硫化水素の危険性と特性を熟知しているはずですので、住民の不安をいたずらにあおらないように注意しながら正確に事実を報告することも可能だったのではないかと思います。特に硫化水素は風速、風向、地形などによっては停滞、濃集の恐れもありますので住民や報道関係者に対して早い時期に注意喚起しておく必要があったと感じます。


砒素については7月4日の第9報にて6月30日に採取したサンプルのうちの一部から農業用水基準(0.05mg/L以下)を上まわる濃度が検出されたことが報告されました。(https://www.moeco.com/news/2023/07/-9.html)

7月6日の第14報にて、7月3日および7月5日に掘削現場敷地内で採取された水から高濃度の砒素が検出されたことが報告されました。(https://www.moeco.com/news/2023/07/-14.html)

7月7日の第18報では掘削現場より下流の3地点での水質検査で砒素濃度は基準値以下であったことが報告されています。(https://www.moeco.com/news/2023/07/-18.html)

地下水の自然由来の砒素による汚染は昔から知られており、岩石からの溶出や温泉水・地熱水には高濃度の砒素を含むものがあることが知られています。

「ヒ素に汚染された地下水の起源と問題点」島田 允堯、資源地質、53(2), 161~172, 2003 
https://www.jstage.jst.go.jp/article/shigenchishitsu1992/53/2/53_2_161/_pdf

掘削地の地質や地熱開発のための調査という点を考えると、掘削に伴う硫化水素の噴出や砒素等を含む有害物質の噴出のリスクはある程度予想できたと思われますので、掘削に際してのHSEIA (Health, Safety and Environmental Impact Assessments) で、これらのリスクがどう評価され、事前にどのような対策が考えられていたのかが焦点になるものと思われます。

地域の方々の健康被害や農作物への被害、風評被害などが無いように、適切な対応と科学的で透明性のある情報発信を期待したいです。


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