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白と黒の細かい斑 (まだら) は巨視的に見るとグレーに見える。巨視的に見た明るさのコントラストと連続性をモデルで再現する。 (油層地質モデリングのためのメモ)

ここでは今まで石灰岩油層の地質・油層モデルをいくつか作成してきて、肝と思える点についてメモとして記しておきたいと思います。

石油会社に勤めていた時、油層からの石油の生産計画や生産予測を行うための地質・油層モデルの作成に携わってきました。

油層の孔隙率 (油層を構成する岩石に存在する小さな空洞や隙間の岩石全体の体積に対する割合。油層では岩石の孔隙に油や水が入っていて、また、ここを油や水などが流れる) や浸透率 (攻撃を油や水などが流れるときの流れやすさ) などのパラメータが油層内にどのように分布しているかを推測することが重要なポイントとなります。

実際に地下の油層の孔隙率や浸透率を測定するためには、井戸を掘って地下から岩石サンプルをとってきたり、井戸の中に物理検層の機器をおろして、中性子や音波などを使って岩石の性状を測定する必要があります。

そうやって得られたデータも、井戸の数には限りがあるため、井戸と井戸の間ではどのように孔隙率や浸透率が分布しているか、地質コンセプトや物理探査データ (地震探査データなど) を駆使しながら、適当な手法を使って推定 (内挿) してあげる必要があります。

特に高い浸透率の岩石が側方によく連続していれば、そこを通って油や水は流れやすくなります。一方、高い浸透率や低い浸透率の岩石が非常に入り組んで、連続性が悪く分布していれば、油や水は流れにくくなります。

私たちが開発していた石灰岩油層の多くは、油を生産するための油生産井と、水を油層に圧入して油層内の圧力を回復させたり、水で油を生産井まで押してあげたりするための水圧入井を配置して、油の生産性を上げる努力をしていました。

油層内の浸透率の側方方向の連続性が良いと、一般に生産井の油や水の生産能力は高くなりますが、浸透率の高い岩石が、薄く、あるいは細く、水圧入井から油生産井につながっていると、そこを選択的に圧入した水が流れて生産井に到達してしまうため、水ばかり生産されるようになり、油の生産量がかえって減ってしまう場合もあります。

したがって、いかに現実の油層に近い油や水の動きを再現できる浸透率分布モデルを構築するか、そしてそのモデルを使って生産計画や生産予測を行うかが私たちの課題であったのです。

地質・油層モデルでは、一般に油層を細かなブロックに分けて (例えば一つのブロックの大きさは水平方向に50m x 50m、垂直方向の厚さ1m程度)、各ブロックの孔隙率や浸透率を井戸のサンプルから実測されたデータを使って推定していきます。

井戸と井戸の間を含め、油層全体に孔隙率や浸透率を分布させるための手法として、統計解析に基づく確率論的な手法を使って、まるでサイコロを振るように井戸と井戸との間のブロックの値を推定していく手法がよく使われていました。ストキャスティック・シミュレーションなどと呼んでいます。

特に浸透率をこのように分布させたモデルでは、私の経験上、圧入した水の動きがうまく再現されないことが多くありました。実際には水圧入井から生産井まで圧入水が短期間に到達しているのに、モデルでは水がなかなか到達しないことが多かったのです。

これはいくつかの理由が考えられます。

[モデルの浸透率のばらつきが油層モデルのスケールと合っていない]

ストキャスティック・シミュレーションの利点の一つは、統計的に見た浸透率のばらつきをモデルに反映することが出来ることです。普通の内挿方法だと井戸と井戸の間は非常にスムーズに内挿されますが、ストキャスティック・シミュレーションを使うと、実測データを解析して得られたデータのばらつきの範囲で、サイコロを振って各グリッド浸透率を決めてあげるような形になるので、モデルに浸透率のばらつきを表現することができます。

しかし、問題はそのばらつきを直接井戸のサンプルの実測データを基に求めてしまうことが多いという点です。通常実測される浸透率は数cm x 数cm 程度の大きさのサンプルで測定されたものです。ところが私たちのモデルのグリッドの大きさは小さくても 50m x 50m x 1m 程度の大きさがあります。数cm サイズではかられた浸透率のばらつきをグリッドサイズに当てはめてしまうとモデルの浸透率のばらつきが大きすぎてしまうのです。

たとえば、高い浸透率を白、低い浸透率を黒とすると、油層は数センチオーダーの黒と白の斑と考えられますが、50m x 50m x 1m のサイズで見れば、黒と白が混ざったグレーに見えるということです。油層全体を見ればグリッドサイズのグレーにも濃淡がありますが、黒と白ほどのコントラストにはなりません。したがって黒と白のような濃淡をそのままグリッドサイズのモデルに入れてしまうのは、ばらつきのつけすぎと言うことになります。

白と黒のブロックがばらついて分布していると、油や水の流れは黒のブロック (極端に低い浸透率のブロック) に邪魔されて非常に流れにくくなってしまいます。

モデルの浸透率のばらつきは、数cmオーダーのサンプルで測定されたサンプルから推定されるばらつきよりも穏やかで、連続性が良いと考えるべきなのだと思います。

[高浸透率層、低浸透率層の縦方向のコントラストははっきりしていて、実は横方向によく連続することが多い]

堆積岩からなる油層は、一般に粒子が薄く堆積しながら形成されるので、垂直方向と水平方向では水平方向の連続性が圧倒的に良くなります。垂直に連続してとられた岩石サンプルを観察すると、厚さはまちまちだとしても、高浸透率と低浸透率の岩石が互層状をなしている様子がよく見られます。一方、大きな露頭で観察される高浸透率層や低浸透率層は、こちらも連続性の規模に違いはあるとしても横方向によく連続する様子が観察されます。

先ほどの白黒の話を例にすると、この縦方向のコントラストと、横方向の連続性を適切に表現しないと、油層全体がただのグレーになってしまって、つまり、油層全体が中途半端な浸透率になってしまって、圧入水が比較的油層全体を均質に動くモデルとなってしまい、圧入井から生産井まで水がなかなか到達しないことになってしまいます。

モデルのグリッドサイズを細かくしすぎると、シミュレーションの計算時間が長くなるという問題を生じますが、グリッドを垂直方向区切るときには、高浸透率・低浸透率のコントラストがはっきり出るように意識的に心がけて、良い浸透率の層、悪い浸透率の層として表現できるようにしたうえで、横方向の連続性を表現してあげる必要があります。

地質学的、油層性状的に似たものを括ったレイヤリングにしてあげることが大切だということです。

上記のような点を考慮したうえでストキャスティック・シミュレーションを適応してあげることによって、油層モデルの実際の生産挙動の再現性が劇的に良くなる例を私はたくさん見てきました。

坑井データの内挿法を機械的に適応するのではなく、モデルの限界を理解したうえで、自分たちは何を表現したいのか認識してモデルを作っていくことが大切だと感じます。

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