疎遠になってしまった友達に送るエール

ふと ある知り合いのことを思い出した

その人は音楽家志望だった 演奏アンサンブルを組織するため、メンバー募集をおこない、演奏者のオーディションを繰り返していた しかしプロ志向の演奏者はむしろ望まないという たとえばいくつもバンドをかけもちしているような実力者もいたが、採用しなかった なぜか と きいたら 成長する部分がないからだ という

その人は、自分の曲をみんなで演奏してもらうことで いっしょに頑張って成長してゆく仲間がほしいのだといった 音楽の完成度や技術ではなく、AKBみたいに、若いアイドルが切磋琢磨してみんなで駆け上がってゆくのが好きで 同じようなことを実現するためにメンバー募集している と

しかし ぼくはすぐ気になった その人は芸能界やメディアにコネがあるわけでもない その人の曲もたとえば秋葉原アイドル的なイケイケではなく、丁寧だがむしろ地味と言える アイドルグループ活動をモデルにして、そのようなことをやりたいと言うのは 少し芸能の方向性が違う

正直なところ、AKBのようなアイドルグループの場合 秋元康のような影響力のあるビッグネームが企画して、「商品」としてアイドルを売り出す部分に原動力がある アイドル志望の若者が成長するという物語を演出し、ファンがそれを観て感動し そのためにお金をつかう アイドルが芸を磨くのも そのようなコネクションがあってこそであろう

その人が自分で秋元康のような立場に立って、アマチュアミュージシャンをプロデュースしたいと思うならば、よほどの吸引力がないといけない またプロデュースするタレントをきちんと魅せるように演出できないといけないだろう マスメディアへの露出も含めてタレント活動のコントロールが必要になる 泥臭いマネジメント部分が土台としてきちんとしていないと、うまく産業にならない

だがその人は、産業としての音楽グループではなく 純粋に「成長する私たち」のサークルをつくりたいようだった

その人はヒカキン氏などユーチューバーにも傾倒していたようだが、本人が作る曲は派手ではなく、和声的にはしっかりしていたが目立ちにくい面があった DTMで打ち込んでいるせいもあった(DTMのアーティキュレーションはそこまで精密ではなかった) でも良いアンサンブルの生演奏ならば映えそうだった

思うのだが マスメディア的な展開を個人がなんとなく後追いしようと思っても、とうていかなわない ユーチューバー的な個人事業レベルで目立つにはよほどの才覚がいる むしろ、気の合った知人どうしで半ばプライベートにコラボレーションするほうがよいし、また、それは得難い関係でもある

そこでぼくは、少人数でも音楽的に気の合った仲間を探して、小規模なアンサンブルから始めてゆくことを勧めてみたのだが、その人はどうもそういったものでは飽きたらないようで むしろ気分を害したようであった そしていつのまにか疎遠になってしまった

その人は音楽を仕事にしようと頑張っていたようである しかしマスメディアのやりかたを自分でも簡単にできるものだと ややあなどりすぎていたようだ もっといえば ほんとうに自分がやりたいことが何なのか 自分でも分かっていないのではないか

その人とは疎遠になってしまったので もはや自分でつぶやくくらいしかできないのだが わたしよりも世代がかなり下なので、まだまだやれることはあるかもしれない マネジメントは泥沼であり容易ではない また自分の理想を実現させるためにはかなり強固な足腰が必要であろう 願わくはもっとしたたかにもっとしなやかに生き延びていただきたいと思う