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ジャルーイダキ詐欺事件の顛末

DJG師のご冥福を祈ります。

オーストラリアの先住民族アボリジニの民族楽器は一般にはディジュリドゥという名称で知られている。


彼らアボリジニにより太古より儀式や祭礼などに使用されてきたこの楽器の起源は、少なくとも1000年以上前からともいわれる。客観的な事実の証明は難しいが一説によると4万年前から存在していたのではという説さえある。


ディジュリドゥを使用している部族は、北部の一部の部族に限られており、部族ごとにディジュリドゥの呼び名は異なっている。「バンブー」「マゴ」「マーゴ」「イラガ」「カンビ」「イダキ」「イギイギ」など多数の呼び名がある。




その中でも北東アーネムランド産のディジュリドゥは「イダキ」と呼ばれ、世界的に最も評価の高いディジュリドゥといわれている。そのイダキを生産し、演奏し、使用している部族ヨルング族の族長ともいうべき存在がジャルー・グルウィウィである。彼の作成するイダキは世界中のディジュ愛好家にとっては最高品ということになっている。いわばジャルーの作るイダキは、ヴァイオリンの世界でいえばストラスデヴァリウスに相当するものと思えば間違いない。

ジャルーと私


これからお話する事件の背景にあるものを説明するには以上の事情をまずお話しなければ本質を理解するのが難しいであろう。




あれは2009年のことであった。


イダキ奏者でもある私にとっても長年ジャルーイダキはぜひ入手しておきたい逸品であった。名匠の制作した逸品というだけで通常の楽器自体の値があがるのはどこの世界でも同じ。ディジュリドゥの通常価格帯は安いもので1万円程度。高いもので10万ほど。他の楽器に比べれば比較にならないほどの安さではあるが、これがディジュの世界の物価なのである。

北東アーネムランド産のイダキとなると5万から15万円ほどの価格であろうか。その中の最高峰としてジャルーイダキがあった。つまり、通常ジャルーイダキを入手するには新品で10万円以上から20万円ほどの間。中古で8万円くらいが相場であろうか。


そんな折、Yahooオークションでジャルーのイダキが出品されたのだ。これまでもヤフオクで時々ジャルーイダキが出品されることはあったが多くの場合、やはりそれなりの金額であっという間に落札されてしまうケースが非常に多かった。


この時私は幸いにもこのジャルーイダキを5万円で落札することに成功した。

ジャルーのイダキを5万円で入手できるなんて夢のような話である。


商品は無事に届き早速そのイダキを堪能してみる。

ジャルーイダキといえば大型で非常に重くずっしりとした独特の響きが特徴である。

この楽器は、逆に細身でレスポンスが速い小回りの利く演奏が可能なタイプであった。

いわばあまりジャルーらしくない。ジャルーの作品としては珍しいタイプといえた。

ただ、実際に演奏してみると、特に低音部分の濃密な倍音の塊は、これこそ正しくジャルーサウンド。

ジャルーイダキは何度も吹いたことがあるので、

その楽器から確かにジャルーのテイストを感じることが出来たのであった。

結果的には非常に満足のいく買いものができたということになる。


話がこれで終わればめでたしめでたしなのであるが・・・・・。








それからほどなくして、mixiのディジュリドゥのコミュを見てて、「あっ!」と声を上げてしまった。

何と私が入手した、そのジャルーイダキが売りに出ているではないか!

しかも3万円というさらに安い値段で・・・。

ヤフオクで使用されていた写真をそのまま使用し、売り文句まで全く同じ。


どういうことなのか?と私はヤフオクの時の売主さんに問い合わせてみた。

するとその売主さんもそれを知って大変驚いていた。


「これはおかしい!」と思った私は、そのコミュの管理人であるてらじんさんにその旨を説明し

その記事を削除するように依頼した。

さっそくてらじんさんがいろいろ調査に動き出してくれた。


その結果驚くべきことが判明したのだ。

やはり、mixiに掲載された広告そのものが詐欺だったのである。

しかもその時点ですでに10名ほどの被害者が発生しているというのだ。


その被害者の中には、ディジュリドゥ奏者の哲Jも含まれていた。

私は哲J氏にも連絡を取り、知っている情報を全て提供した。

その後、哲J氏が被害者の取りまとめとして警察に被害届を提出し、

正式に刑事事件として捜査が開始されることになったのである。


私自身は特に何の被害もなかったのであるが、非常に不快な思いを感じずにはいられなかった。

これでは私が詐欺犯ではないかと疑われるのではないか?と思ったり。

何しろ当該の詐欺事件に使われた、当のイダキを私が所有しているのだから・・・・。


それ以上に怒りを覚えるのは・・・・・。

ジャルーの名前を使ってそんな詐欺事件が起こったことである。

日本にも数多く存在するジャルーを敬愛する人々も同じ思いであろう。


普通なら10万円以上するジャルーをイダキが3万円で入手できる!


そんなイダキファン、ジャルーファンの心を踏みにじるような行為が・・・とても悲しい。


そして、ディジュリドゥの世界ってけっこう狭いのだ。

ディジュをやっているという、ただそれだけで仲間になれる・・・・。

ディジュや民族楽器をやっている集まりはみんなそんな感じなので。

だから、我々は無意識のうちに「ディジュをやる人に悪い奴はいない」と信じているのだ。

そんな気持ちまでもが、踏みにじられてしまったのである。


あれから数年経った今、哲J氏に聞いていたところ犯人はまだ捕まっていないそうである。

被害金額で30万円程度の詐欺事件に警察も本腰を入れて捜査をしてくれないというのが現状なのか・・・。

何ともやりきれない思いである。


そのジャルーイダキは今も私の傍らにある・・・・・。


そのジャルーイダキでの演奏動画


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