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新学期

新学期が楽しみとか嫌だとか、私にはよくわからない。どちらかと言えばまあ100%嫌なんだけど、新学期が来たから学校には行くのだ。私にとってそれは夜が来たから布団に入るのと同じくらい、自分の力の及ばないアタリマエの現象なんだもの。

まずは久しぶりの登校班。どの子もみんな、手には大荷物。防災頭巾にお道具箱、かさばる夏休みの工作に丸めた絵画。重いなあ。これ全部初日に持ってかなきゃダメなのかなあ。
ランドセルの中には宿題がぎっしり。二日前に慌てて終わらせたあの作文は当然いまいちな出来で、正直誰にも見せたくない。それでも提出さえすればこっちのもの。とにかく出しさえすれば怒られないんだから。

久しぶりの学校。下駄箱はどこだっけ?
久しぶりの教室。私の席はどこだっけ?
久しぶりの友達。顔を合わせるのが少しだけ照れくさいような、不思議な気持ち。お土産をくれる子もいる。それでも5分後には、まるで昨日までも毎日会っていたかのように、いつもの会話が始まっていくのだ。

久しぶりの先生。休み明けの話はどの先生でも大体同じ。夏休みは楽しかったですか?こうして無事にみんなの顔を見れて嬉しいです。二学期は運動会の練習も始まるので気を引き締めていきましょう。
それでは宿題を集めます。

そうこうしてる間に私たちはいつの間にか廊下に並んで、ぞろぞろと体育館へと向かう。
がやがや、わいわい。上履きでぺしぺしと歩く軽い足音の群れが、体育館のつやつやの板の上を跳ねる。
始業式。校長先生の話も毎年みんな同じ。皆さんが静かになるまで3分かかりました。そうですか。校長先生のその文句も3分くらいかかったんじゃない?
暑いし狭いし、じっと座ってるとお尻も痛い。早く終わらないかな。途中後ろの子に背中をつつかれたので振り向いたら、先生に怒られた。私のせいじゃないんですけど。
学年の代表が夏休み頑張ったことや二学期頑張りたいことを発表して、私はその間とても退屈だから、ステージの分厚い幕のひだと、その裾に揺れる金色のフリンジをじいっと見つめたりして、発表者へおざなりに拍手をして、山だの海だのを讃えた校歌を歌って、何回も気を付けと礼をして、随分と疲れた頃にようやく体育館から解放されるのだ。

教室に戻っても今日は授業をするわけじゃない。ホームルームというよくわからない時間のもとで、二学期のクラスのスローガンとかどうでもいいことを決めさせられる。どうせあれでしょ。クラスの心を1つにして、とかなんとか、熱苦しい感じのやつになるんでしょ。次は勇気ひとつを友にして、とかでいいんじゃない?

その次は二学期のクラスの係決め。絶対面倒な係にはなりたくない。でも人気の係に手を挙げるとじゃんけんで決めることになるから、負けて余った変な係になるのも嫌。それに女子たちは仲良しグループで同じ係になろうとするから、それに割り込むのも嫌な顔をされるし、ああ嫌だ嫌だ。たかが係決めで考えることが多すぎる。私はこの時間が大嫌い。

それからみんなの夏休みしたことを発表させられる。私は毎日テレビでアニメの再放送を見て、お昼を食べながらいいともを見て、ごきげんようを見て、昼ドラを見て、お菓子を食べながら漫画を読んで、またアニメの再放送を見るのが一番楽しかったんだけど、それじゃ格好がつかないので県外の親戚の家に行ったこととかを適当に言っておく。

あとは休み明けの大掃除。机を運んで片側に寄せて、箒で掃いて、雑巾をかける。机がやたら重い男子は一体何を入れているのか。ダンベル?
新しく持ってこさせられた白い雑巾はあっという間に黒くなって、なんだか可哀想。

最後に先生がやたら大量のプリントを配って、連絡帳に予定を書き写したら帰りの会が終わる。明日からは授業が始まるってさ。時間割りをチェックすると、体育が週に三日もある。運動会の前は更に増えるんだろうな。これ全部音楽に変えてくれないかなあ、とため息が出ちゃうけど、とりあえず今から昼前に帰れるのは特別感があってやっぱり嬉しい。朝よりはるかに軽くなったランドセルを背負って、みなさんさようなら、また明日。明日は席替えをするらしいよ。これまた誰の近くになるかで色々面倒なことになるから嫌だなあ。せめて一番前じゃないといいな。


こんな一日を小学生の私は新学期の度に過ごしていて、思い出せば思い出す程やることも考えることも多くて、一つ一つが本当に面倒くさくて、それでも行けばそれなりになんとか一日を過ごして生きていたことを、思いだしたのです。
子どものみなさん、お疲れ様。

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