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生きちゃったの感想(ネタバレあり)

京都みなみ会館で鑑賞。
平日に行ったせいかかなり空いてた。

誰かの為にという一人よがり

誰かがいるから思い通りに動けない人達の群像劇。
それぞれの登場人物が「あの時あぁしとけば良かったのか?」「あの時こうならなければ良かったのか?」みたいな葛藤を抱えているのだけど、結局その他の選択肢すらも本当に好転する事になったか微妙なのが救いがない気がした。
でも冒頭の高校生時代の三人が仲良く歩いていく所の未来への希望みたいなものを感じていたその瞬間の愛おしさは確かにあった、という部分が切ない。

そして「日本人だからかな」というセリフからも感じるけど、映画の中での出来事が今の日本に住んでいる僕たちと他人事とは思えない身近さがあって、いざ信じがたい様な悲劇が襲う瞬間ってこんな感じで積み重なった小さな不幸から急に来るものなんだろうなぁ、、、。

登場人物

どの登場人物も好きになれそうな部分もあるし感じが悪いと思う瞬間があって、とても人間臭い。

厚久。

娘との影絵遊びのシーンがずっと響いてくる。そもそも影絵というのが実際にいないものの輪郭だけの触れる事が出来ない幻の様なもので彼らの掴むことが出来ない幸せの象徴みたいだ。

ここで言っていた「犬が欲しいの?」というセリフが実際にいる犬がいる家で彼女が地獄にいない事を示しているだけに彼の「想いを伝える事」が結局自己満足でしかない事を表しているみたいで切ない。

正しくないかもしれないけど「それでも」という部分が本当に胸を打つラストだった。

しかし仲野太賀主演作の絶好調ぶりが凄い。次の「泣く子はいねぇが」もめちゃくちゃハードそうで楽しみだなぁ。

奈津美。
本心が言えない厚久と違いその場その場で思ったことを何でも口に出す。
というか厚久が何にも言わないから全部口に出してしまうという感じもする。最初の厚久の家族に対しての「壊れちゃってるよね、あっちゃんの家族は」という所で結構ギョッとしたのだけど彼女のそういうキャラクターの意味付けの役割だと思っていたら、後にこの家族に自分の家庭が壊される事にもなる展開にビックリした。

それと彼女が序盤で震災のニュースに対し他人事として言い放つ突き放した不幸が、次のデリヘルの女性が殺されたニュースでだんだんと身近に近づいてきて、遂に彼女の身に不幸が降りかかる展開が苦しい。こういう彼女が口に出したちょっとした負の言葉が大きな不幸として帰ってくる展開とか本当に皮肉でやり切れない。

そして、そういう事がそのまま僕らの普段の他人との不幸への距離感そのままなのがまた地続きな感じがして嫌。

毎熊さんが演じてたヒモっぽい駄目彼氏はかなりいい味を出してたと思う。
娘目線の「胡散臭い笑顔で全然信用出来ねぇなぁ」というシーンから就職が決まった後の全然印象が違う笑顔の演出が上手い。
この後真っ当な人間になれる様な予感があっただけに後の地獄展開が辛い。
厚久の元婚約者への想いとか、それでも厚久と一緒にいる事が出来なかった事とか、だからこそ彼がどんなにクズっぽくても覚悟を決めた奈津美の迫力に圧倒される所が凄く良かった。

武田。
厚久と奈津美の関係をずっと見守っているというか、見ていることしか出来ない人。つまり映画を観てる僕らの目線に一番近い。
厚久に対して大丈夫か?大丈夫か?と励まそうとしたり、奈津美の身勝手さを責めたりしていたけど結局好転しないし踏み込めない。
でも厚久と一緒にしていた音楽活動の挫折、そこから二人で会社を立ち上げる夢がある背景や、奈津美が殺されたホテルに向かう時に強く握りしめる手などで彼らが強い絆で結ばれているのが伝わってくる。だからこそ何も出来ないのが辛い。

そんな彼が「俺が見ている」と言う事で厚久の背中を押す所にとても感動したし、でもやっぱ見れなくなる所の人間臭さとか凄く好きだ。

石井裕也監督作品、実はあんまり観れていなくて何となく優しい映画を作る人というイメージだったけど、凄く印象が変わった。今後も追いかけたいと思う。

あと今作はパンフレットが異常に充実していて監督俳優陣のインタビューやコラムも良かったし、台本が付いているのでワンシーンワンシーンの想いのこめ方が伝わってくる。映画の最後の切れ味も素晴らしいのだけど台本のラストシーンはその先が書いてあって、そこの厚久の一言でより胸が締め付けられた。

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