見出し画像

アド・アストラの感想(ネタバレあり)

イオンシネマ京都桂川で鑑賞。混んでた。

画像1

出町座でジェームズ・グレイ監督の前作「ロスト・シティZ 失われた黄金都市」を観れたのだけど、改めて観といて良かったなぁと思った。

あちらは実話ベースなのだけど、遠い人外の地を目指す人の話で、その為に大切な家族をないがしろにしてしまう葛藤、血は争えない父と息子との関係性、重厚なドラマ描写の合間に入る突発的な暴力描写など、「アド・アストラ」に近い要素がかなり多くてある意味プロトタイプだったと思う。

画像2

ただ今作はそれを近未来の宇宙旅行に置き換えた事が本当に素晴らしい。
もう宇宙旅行がある程度定着していて月位なら海外旅行感覚だし、火星の地下基地ならサージの影響が出ないというのも絶妙な設定、そして最終地点の海王星への道程の最大の試練が長い時間をかけた孤独との闘いという僕らの生活とも繋がる様な苦悩なに落ちていくのも素晴らしくて、あらゆる宇宙旅行描写がフレッシュ。

途中に入る月でのカーチェイスも見た事なくてワクワクしたし、ライフやランペイジ的な宇宙空間での実験で脱走したモンスターに襲われる展開もあり、そんなに詰め込む?っていう位サービス満点で笑っちゃう。

要は今まで観た事ない宇宙映画の古典を作ってやろうじゃんか!という気概が伝わってきて本当楽しめた。
観ていて眠くなったという感想も結構みたけど僕は最初から最後までギンギンに興奮しながら観てた。

画像3

ブラッド・ピットの微細な表情の変化も絶品で「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」のクリフとは全然違うというか真逆のキャラクター。

当然宇宙飛行士なので世界トップクラスの優等生なのだけど、色んなものを押し殺した結果、人間性をどんどん失っていっていて、本人も実はそれに傷ついている。

父親に対しての想いも複雑で、宇宙飛行士や人間として憧れもある一方で、家族を捨てた憎しみも抱いている。そして宇宙飛行士として大きい仕事を任される度にそんな父に似ていく自分に対して迷いが芽生えていく。

そんな生きているだけでしんどくなっている彼の精神状態の浮き沈みをブラッド・ピットが見事に表現していた。だんだんと人間性をむき出しにしていく彼の表情の変化を観てるだけで1900円の価値はある。

画像4

天王星に着いてからのトミー・リー・ジョーンズとの名演技合戦も観ているだけで素晴らしい。結局父親との和解が叶わず(そもそも最早おじいちゃん過ぎて話があんまり噛み合ってない)父親は消えていってしまう。

ただ不本意な形ではあっても父親離れをすることでロイが別の生き方を探そうとするラストが僕はとても好きだ。

画像5

細かいディティールの数々による世界観の構築も見事。月の宇宙ステーション描写でサブウェイなどのチェーン店がしっかり月でも営業しているとか映画としての未来像としては全く憧れないけど、めちゃくちゃありそうで笑っちゃう。

ただそこから外に出ると月面カーで移動中に盗賊が出てくるというのも生々しい怖さがあった。アクション自体はフレッシュだしマッドマックス的で最高なのだけど、結局どこの国の何を目的に襲ってきた連中なのか、よくわからないままフェイドアウトしていく感じとか「悪の法則」的なそこに当たり前の様に発生している悪という感じでゾクッとする。

画像6

個人的には専門学生時代に何回も読んだ「プラネテス」から、もう少し先の未来を描いているような気がした。どんなに科学が進歩しても世界は良くなっている感じがしないし、結局出来る事が増えたせいで醜い社会の構造が更に大きくなっていっただけにも感じる。そんな世界だからこそ「人を愛すること」という普遍的な所に話が収まっていく感じとかも近い印象がした。

画像7

という感じで、評価は賛否別れているみたいだけど、新しい宇宙映画を作ってやろう!という気合もこの上なく感じたし、役者さんの演技も一級だし文句ない位、僕は大好きな作品だった。映像体験だけでも素晴らしいので映画館で観るべき一本だと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?