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40代半ば過ぎてやっと見つけた行きつけのBARの話

「行きつけのバー」…憧れの響き。醸し出される大人のいい女感!えも言われぬ魅惑の雰囲気!

「マスター、いつもの」とか、「あちらの方からです」とかいうやつ〜。


しかしながら残念ながら、現実の私は、飲むといっても居酒屋ばかり。歌謡曲をBGMに「よろこんで〜」。もちろんそれはそれで大好きだけど、とにかくバーなんてご縁がないお酒人生だった。

出産後は夜出歩くことすら難しくなり、気がついたらもう40半ば。行きつけのスーパーに通う日々。

数年前に一度だけ、旦那さんと二人で駅前のバーに行ったが、オーダーするだけでドキドキして落ち着かず。頑張ってちょっとマスターに質問してみたら、ウイスキー話が延々と続き…瞼に目を描きたくなるよなバー体験だった。

そんなこんなで、私にはもう一生「行きつけのバー」なんてできないと諦めていた。

一度でいいから「昨日行きつけのバーでね」って言うてみたかった。長い髪をファッサーってなびかせながら。

しかし、行きつけのバーをあきらめた夏、チャンスはやってきた。

その日、私たち家族は駅前のショッピングビル屋上で夜間映画上映イベントがあると知り、いそいそと出かけた。

それぞれに食べたいものを買い込み、
大人はお酒、子供はジュースを飲みながらの映画鑑賞。ほろよいに夜風が心地よい夏の夜だった。

映画が終わり帰宅することになったが、仕事帰りに直接来た旦那さんだけが徒歩。

「仕事で疲れてるやろうし、私の自転車で帰っていいよ」と、自転車を譲り、私が歩いて帰ることにした。やさしい!


荷物も財布ごと預け、携帯と1000円札を尻ポケットにつっこみ、手ぶらでブラブラ帰路についた。

はぁ〜気持ちい〜。しあわせ〜。もう夕飯も終わってるし、子供達はパパが連れて帰ってくれるし、明日学校もないし。なんか自由やわ〜。

スキップしながら歩いていたら、ふと道向かいにある一軒のバーが目に入った。


1年ほど前にオープンした、前から気になっていたお店だ。


あー、やっぱり気になる。行ってみたいなぁ…。はっ!今、もしかしてチャンスちゃうん?今自由やでわたし。ナーウ・ゲット・ア・チャーンス!やで。


一人ではとても入りずらい雰囲気のお店だったが、酔い&40代女の図々しさを味方にドヤ顔でお店のドアに手をかけた。いざゆかん!!

…あれ?開かない。なんでなんで?何度もガタガタと引いたり押したりしても開かない。そうこうしているうちに、バーテンさんがやってきて笑いながらドアを開けてくれた。

ガラガラー
「これ、横開きなんですよー」

ズコー。いきなりやらかしました。昭和か!テヘペロしながらカウンターに座った。

しかし、実はドアをガタガタ揺らしながら気付いたことがある。

私、財布持ってない!尻ポケットのくたびれた1000円札だけやん。


感じのいいバーテンさんにわざわざドアを開けてもらい、撤退のタイミングを失った1000円おばさんは、一抹の不安を抱きつつもとりあえずカウンターに座った。

ええい。尻ポケットから1000円札を取り出してカウンターにバンッ!と置き、これしかないからこれで飲めるお酒くださいっ!!と言ってみた。

バーテンさんは、一瞬ビックリしていたが、すぐにクスっと笑い、「大丈夫ですよー。今日は値段気にせず、好きなの頼んでください」と言ってくれた。

おそるおそるメニューを見たら、どれもこれも野口英世さん1人では賄いきれないお酒ばかり。

なんてやさしいのー!!

その瞬間、私は優しきバーテン、ジャックにハートを鷲掴みにされた。

その夜はもう本当に楽しかった。話してるウチに隣にいた常連のおじさんが同郷だったり(大阪の片田舎なのでかなりびっくり!)。反対側に座っていた常連さんが2杯目ご馳走してくれたり。

それもこれも、すべてバーテンジャックのさりげないふりがあったからだ。ごく自然にお客さん同士を仲良くさせてくれる。

かと思うと、カウンターの向こうでジャックのびっくりなマジックショーが始まる。腕に私の血液型が浮き出たり、口から火を拭いて火花が飛び散ったり。火のついたカクテルをプレゼントしてくれたり。

私は若くもなけりゃ、美人でもない。千円しか持ってない、ほぼすっぴんの庶民感満載のおばさんなのに。それなのにー。なんてホスピタリティなんだ!!

…あまりの心地よさに結局1000円で3時間近く長居してしまった。

あれから3年。ジャックのバーは今でも私の大切な隠れ家だ。たまーにしか行けないけど、夜外出できたらかならず最後に行く。母でも妻でもない私になってカクテルを飲める場所。

ジャックは私がいつ行っても、初めて行った夜にリクエストした曲を何も言わずそっと流してくれる。パソコンの向こうからニコッと微笑みながら。


同郷の友達が仕事で上京した時に一緒に行ったら、また先述の同郷おじさんが来て、カウンターを泉州弁が占拠したり。たまたま話した隣の人が、次女の友達の叔父さんだったり。おもしろいご縁もいろいろあった。

友達も何人か連れて行ったが、みんな喜び楽しみ、ジャックのファンになった。

他にお客さんがいない夜は、ジャックがこのお店を開くきっかけや、昔の写真など、ジャックヒストリーをがっつり聞いた。

ジャックのBARは、私のお酒人生で一番の宝物かもしれない。

先日、道で偶然ジャックに会った。コロナ禍の煽りをうけ、かなり厳しそうだった。

長年付き合っていた彼女(私も会ったことがある素敵な彼女)との悲しいお別れもあり、かなりストレスフルだと。

その日も税理士さんと相談してきた帰りだと言っていた。来年にはお店たたむかもしれない…そんな雰囲気だった。

私の宝物の場所。


初めて知った行きつけのバーは、家飲みでは得られない外との連鎖感。居酒屋では得られない静かで豊かで非現実な1人の時間。それでいて、はじめてのお店では得られないリビングにいるような安心感。その全てが詰まっていた。


心地よい会話、心地よい音楽、やさしい気持ちでおいしいお酒が飲める場所。行きつけのバーは、不要不急かもしれないけど、心豊かに生きるためには、絶対に絶対に必要だ。

またジャックの店に行きたい。


きっと行く。その時は絶対に10000円札を尻ポケットに入れて行こう。

#ここで飲むしあわせ

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