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仮面

世の中には、プツっと何かのスイッチが入って、突然人格が変わる人がいる。しばらく自分を見失い、我に返る。所謂、 "キレる" 人たちだ。かつての自分の家族にも、そのタイプの人間がいた。

数日前、職場でいい人だなぁと思っていた人が突然キレた。みんなびっくりして、だけど社会というものはやっぱり時々厳しくて、次の日からは、誰も彼もがその話をしていた。

わたしはその現場を見たわけじゃないし、別に患者に危害を加えたわけではないのだから、そのまま働けば良いと思う。サポートが必要なら職場は相談に乗るべきではとも思う。だけども多くの人はそう思っていない。4年も勤めている彼の、たった一回のミスを。

人間なのだから、誰しもミスする。そうだろう?

今日、久しぶりに彼が出勤した。周りの目は、背筋が凍るほど冷たかった。一番新人のわたしに出来ることなどは勿論ひとつもなくて、だけども帰り際、ひとりで事務所に座って、ただ俯いている彼を見た。周りに人がいないことを確認して、大丈夫?と聞いてみたら、すごい早さで「大丈夫。」と帰ってきた。その声はほんの少しだけ震えていた。「例の件ではごめんね。」と彼が言ったので、「むしろ君のことが心配だよ。」と言っておいた。本心だ。

たしかに、キレるタイプの人が家族にいると、厄介かもしれない。その節は理解できる。
だけども、仕事なんて、皆がみんな仮面を被ってこなしている。自分だってそうだ。4年間のうち、ほんの一回だけ、数分仮面を外しただけでこうにもなるのか、とわたしは戦慄する。

わたしだって知ってるよ、自分が仮面を外したら、誰も愛してくれないことくらい。


【余談】
そもそも現場を見たのはたった2人だけなのに、全員がそのことを知っている、という噂伝達システムはどうにかした方が良い。

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