ジャングルに魅せられた作家たち「Heart of darkness」と「彷徨える河」

コッポルやヘルツォークなど、
才人はジャングルの狂気に取り憑かれる。

Rolling Stone


「Heart of darkness」はジョセフ・コンラッドによる1899年の小説。
ロシア領ポーランドに生まれ、フランス船、イギリス船での船員生活をもとに数多くの作品を残したジョセフ・コンラッド。そして多くの作品が英語で書かれているという点にさくっと触れておきたい。

ロシア領(現在のウクライナ)で生まれた彼のネイティブはロシア語。父が政治刑を食らいポーランドへ移住後は第二言語としてポーランド語を習得。そして英語とフランス語を船員生活で身につけた。つまりこれは第三言語、しかも大人になってから習得した言語で書かれた小説なのである。

これは極めて珍しいように思う。わたしは大人になってから身につけた言語にはどこか限界があると感じる。
とにかく、東欧系の作家の作品が翻訳ではない、そのままの英語で読めるのだ。(勿論翻訳文学も好きですが。)


「Heart of darkness」は彼の船員体験に基づき、青年がロンドンから象牙貿易のためにアフリカの奥地、ジャングルに囲まれたコンゴ川流域へ仕事に出る話だ。

うら若いMarlowは好奇心からアフリカ行きの乗船を決意。ロンドンからの、長い船旅。人々は言う、「正気を保て」
現地住民との象牙の取引、黒人奴隷。
命を絶つ船員。
資源は人を狂わす。
彼らはやり手の指揮官Kurtzのために船をさらに進める。だけど彼はどうやってひとりで?ジャングルの奥地へ?

darkness and silence

Heart of darkness

永遠に続く夜。水の上、身の毛のよだつような静けさ。また静けさ。
朝の霧。
silence, silence and then silence.
Kurtzはジャングルで死へ向かっていた。


ここで突然映画の話をする。
「彷徨える河」というコロンビア映画をご存知だろうか。わたしは「Heart of darkness」とこの映画の共通点に思いを馳せずにはいられなかった。

原題: El abrazo de la serpiente

こちらは2015年製作とかなり新しい。
実在した学者の手記をもとに、アマゾン奥地のジャングルを2つの時代からモノクロで描く。

スペイン語圏の作品とあってか、日本での公開はかなり小規模だった。東京に来てすぐのころ、わざわざ青山まで観に行った。冷たい夜だった。

生物学者とその助手、現地で出会ったカラマカテ。流入し始める文明。ここで育つ高級資源、ゴムの木。やはりここでも資源と奴隷。狂う。滅ぶ。資源は人を狂わせる。

生物学者はひとりで生き抜いてきたカラマカテに問う。
どうしてひとりで生きれる?と。

静けさ、静けさ。水の音。鳥肌が立った。
ジャングルが神秘に満ちているなんて考えたこともなかった。
そして夜が来る。静けさ。水の音。薬草と精神世界。闇の奥。
学者は死に向かう。

あまりにも素晴らしい映画だった。ジャングルは音から成っているんだと本気で思った。色なんかいらなかった。水の音だけが響いた。生命の音はさらに神秘に満ちていた。

「Heart of darkness」でも、「彷徨える河」でもジャングルは人間を狂わせる。
だけど狂っているのは?ジャングルなのか?我々なのか?
正義の輪郭は徐々にぼやけていく。
木々は変わらず、神聖に佇む。


いつかニュースで読んだ。最近では文明の流入と、文化の保存の間に挟まれた現地民の若者の間で自殺が相次いでいるらしい。
彼らの先祖は街の文明を受け入れられないだろう。だが彼らは文明社会に溶け込まないかぎり命を存続できないと知っているだろう。



本日もまとまりのない散文ですみません。

「彷徨える河」予告こちらからどうぞ。
「Heart of darkness」邦訳は「闇の奥」新潮文庫光文社古典新訳文庫から新訳も出ています。


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