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ずっと一緒にいようとキミは言った

「ずっと一緒だよ」

いまもキミのそんな言葉が耳に残っている。あれはそう。ボクとキミが入籍する、朝のことだった。

ボクたちは結婚式をしなかった。理由は簡単。お金がなかったからだ。

「アナタと一緒にいられれば、それだけで幸せ」

満開の桜のように微笑んだキミ。それから、ちゅっと軽い音をたてて頬にキスをくれたね。

こんなにも甘ったるく、まぶしく、あたたかい。これをきっと、人は幸せと呼ぶのだと、素直にそう感じた。

ボクの幸せは、キミと共にある。

キミとずっと一緒にいられれば、それだけでボクは幸せだと。



時は流れ。

ボクとキミは、今も一緒にいる。

時には喧嘩もする。顔も見たくないほどイヤになることだってある。けれど、この日々を俯瞰してみれば、いわゆるありふれた結婚生活と呼べるのだろう。きっと。

誰かにそう言ってもらわなきゃ、ボクはもう、どうしていいかわからないよ。

 

ボクとキミは、こうして今も一緒にいるけれど。

あのとき確かにあった、あまったるさも、まぶしさも、あたたかさも、いつの間にかてのひらからこぼれ落ちてしまったように感じる。

ねえ。「ずっと一緒」って、こういうことだったのかな?

ずっと一緒に、同じ方向に向かって、歩いていけるような気がしていたけれど。

一緒にいても、ボクとキミはまるで別の方向を見ているね。

それでもキミは「ずっと一緒にいてね」と言うだろうか。

「アナタと一緒にいれば、それだけで幸せ」と言うのだろうか。

 

ボクにはもう、わからないんだ。


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