ずっと一緒にいようとキミは言った
「ずっと一緒だよ」
いまもキミのそんな言葉が耳に残っている。あれはそう。ボクとキミが入籍する、朝のことだった。
ボクたちは結婚式をしなかった。理由は簡単。お金がなかったからだ。
「アナタと一緒にいられれば、それだけで幸せ」
満開の桜のように微笑んだキミ。それから、ちゅっと軽い音をたてて頬にキスをくれたね。
こんなにも甘ったるく、まぶしく、あたたかい。これをきっと、人は幸せと呼ぶのだと、素直にそう感じた。
ボクの幸せは、キミと共にある。
キミとずっと一緒にいられれば、それだけでボクは幸せだと。
*
時は流れ。
ボクとキミは、今も一緒にいる。
時には喧嘩もする。顔も見たくないほどイヤになることだってある。けれど、この日々を俯瞰してみれば、いわゆるありふれた結婚生活と呼べるのだろう。きっと。
誰かにそう言ってもらわなきゃ、ボクはもう、どうしていいかわからないよ。
ボクとキミは、こうして今も一緒にいるけれど。
あのとき確かにあった、あまったるさも、まぶしさも、あたたかさも、いつの間にかてのひらからこぼれ落ちてしまったように感じる。
ねえ。「ずっと一緒」って、こういうことだったのかな?
ずっと一緒に、同じ方向に向かって、歩いていけるような気がしていたけれど。
一緒にいても、ボクとキミはまるで別の方向を見ているね。
それでもキミは「ずっと一緒にいてね」と言うだろうか。
「アナタと一緒にいれば、それだけで幸せ」と言うのだろうか。
ボクにはもう、わからないんだ。
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