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もしも宝くじが当たったら

「もし、宝くじで3億円が当たったら」

どうする?という話を、誰しも一度はしたことがあるのではないだろうか。

その問いに対してわたしはと言えば、やれ「新しい服がほしい」やれ「旅行もいいね、でも英語が喋れないから、国内でいいかな」やれ「あとなんだろ、貯金…?」と、発想がじつに貧乏くさい。

さて、この問に対して「とりあえず、仕事を辞める」と答える人も多いのではないか。もしくは、そういう答えを聞いたことのある人も。

わたしの周りでもそうだった、ずっと。だから大人にとって、仕事とはそういうものだと思い込んでいた。
 

***

 

わたしが少し前に勤務していた会社は、控えめに言っていまいちな職場だった。

なにが、とか、だれが、悪い。という問題ではすでになく、「とにかくもーー無理!」としか言えない環境。当然、社内の空気は常にピリピリと張り詰めていて、人がどんどん辞めていった。

辞めずに残っている人も、会社が好きでいるわけじゃなく、辞められないから辞めないというだけ。

「あー、辞めてぇ」

いろんな人から、かわるがわる聞いた言葉だ。

ある日、話の流れで宝くじの話になった。わたしが「○○さんは、3億円当たったらどうしますか?」と聞くと、彼は間髪を入れず「辞めるね」と言った。まぁそうだろう。

けれど次に続いた言葉は、わたしを驚かせた。

「で、会社でも立ち上げようかな」

補足すると、わたしがいた会社はちょっと特殊な業種だった。フリーランスや起業なんて話がけっこう多い業界。

だからわたしが驚いたのはソコではない。「この人は、お金があっても仕事を続けるんだ」ということだ。

さらにわたしが驚いたことに、別のタイミングでまったく同じ質問を▲▲さんにしてみたら、まったく同じ答えが返ってきたことだ。

大人にとって、仕事とはできればやりたくないこと。そう思っていたけれど、そうじゃない人もいるんだなと。

そのときはじめて、自分の仕事が好きで、誇りを持っている彼らのことを「すごい。かっこいいな」と感じたのは、もちろん内緒だ。

 

***

あのあとわたしは会社を辞め、ライターになった。

もともと「書く」ということがなんとなく好きだな、というかもうこれに賭けるしかないな?という思いでこの世界に足を突っ込んだものの、当初の予想通り、そんなに活躍はしていない。

書くことが好きってだけで始めたのは、間違いだったのではないか。そこまでライターにしがみつく必要があるのか。この仕事、向いてないんじゃないか。

思いはグルグルとめぐり、時には「いっそのこと、またラクなバイト生活にでも戻ろうか」とよぎる。

けれど、そのたびに思う。

「もし、宝くじで3億円が当たったら」

わたしはライターを、書くことをやめるか?と。答えはもちろんNO。わたしはやめない。むしろ、それだけのお金があればもっと楽しくライターができるだろう。やりたい仕事だけを、やりたいだけやりながら。

そして気づく。
そうか、わたしはこの仕事が好きなんだな。

向いているかは別として、好きならまだ頑張れる。

そうしてまた、求人サイトをそっ閉じするのだった。

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