見出し画像

友人・知人と一緒に起業するときの注意点(5)

前回の記事はこちら

なお、本記事は、小職が参加する士業団体「南森町スタートアップ・ラボ」(MSL)が2020/10/20 18:00-に開催した無料ウェビナー「MSL#3_友人・知人と一緒に起業するときの注意点〜創業者間契約ってなに?〜」の共同発表成果に大きく依拠しています。MSLの先生方ありがとうございました。

連載第1回で提示した事例をもとに、株式会社イソノ、カツオ、ワカメ、タラの身に何が起きるのかを解説していきます。

今回は、株式買取条項の具体的な中身です。前回の末尾に記載した条項例もご参照ください。


誰が買い取れるようにするのか?

まずは、創業メンバーの一部が離脱する場合に、だれが離脱するメンバーの株式を買い取れることにするのか、を検討します。

条項例では、会社に残留する創業メンバーを「残留者」と定義して、残留者が買取できるということにしてあります。

第X条(株式譲渡)
本契約の当事者(以下「退職者」という。)が会社の役員及び従業員のいずれの地位をも喪失した場合には、その喪失の理由を問わず、退職者は本契約のその余の当事者(以下「残留者」という。)からの請求に基づき、残留者又は残留者の指定する第三者に対し、退職者の保有する会社の株式(以下「会社株式」という。)を譲渡するものとする。

株式会社イソノのケースでいうと、タラの株式(20%)を、カツオ(49%)またはワカメ(31%)が買い取ることができるということです。

ただし、カツオでもいい、ワカメでもいい、となると、今度はカツオとワカメの間で議論が発生してしまう可能性があります。

ワカメは、タラの株式を取得できれば、晴れて過半数株主になれます(51%)。対するカツオは、タラの株式を取得できれば、過半数株主になるだけではなく、会社の2/3を掌握し(69%)特別決議もできるようになり、完全に会社をコントロールできるようになります。

そのため、カツオの立場であれば、創業者間契約をドラフトする段階で、カツオのみが買取権者になる形の契約書を作っておくべきでしょう。

また、条項例では、後述する買取資金の関係で、買い取りたくても買い取れないという事態にも備えて、買取権者が指定する第三者に買い取らせることも可能にしてあります。


どのような事由が発生した場合に買い取れるようにするのか?

次に、どのような事由が発生した場合に株式買取条項が発動するのか、です。

条項例では、理由の如何を問わず、役員、従業員としての地位を失った場合、としています。

第X条(株式譲渡)
本契約の当事者(以下「退職者」という。)が会社の役員及び従業員のいずれの地位をも喪失した場合には、その喪失の理由を問わず、退職者は本契約のその余の当事者(以下「残留者」という。)からの請求に基づき、残留者又は残留者の指定する第三者に対し、退職者の保有する会社の株式(以下「会社株式」という。)を譲渡するものとする。

株式会社イソノの事例では、タラは退職する前提であるため、こちらの条件を満たすことになります。

他方で、退職せずに役員または従業員の地位に固執しつつ、高値で株式を売却しようという交渉が生じる場合には、別途、優先買取権の規定を設けることも一案かと思います。


いくらで買い取れるようにするのか?

最大の問題は、買い取るとしても、いくらで買い取れるようにするのか?です。

条項例では、次のように定めています。

第X+1条(譲渡価格)
前条の場合における会社株式1株あたりの譲渡価額は、退職者による当該会社株式の1株あたりの取得の価額とする。

実務上は、上記のように取得価額にするほか、簿価純資産法による価額や、直近のバリュエーション額とすることも見受けられます。



取得価額とするのは?

取得価額にするメリットは、何よりもわかりやすいことです。

1万円で手に入れた株を、そっくりそのまま1万円で売り渡す、ということです。何の計算も必要ありません。

ただし、株式会社イソノのように、外部投資家からのバリュエーションがついてしまったような段階では、取得価額と直近のバリュエーションの間に著しい乖離が発生するため、売る方に強い不満が残るケースが多いでしょう。

株式会社イソノの事例では、資本金100万の会社にプレ4億のバリューがついていますので、その価値はずばり400倍(!)になっています。

タラの20万円の株は、×400で、なんと8000万円になっているのです。

8000万円を20万円で売れ、というのは、なかなかに無茶ですよね。。。


この話の続きは次回に。

今日も1万回の失敗と挑戦を繰り返す起業家の皆さんを応援しています。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?