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決戦の金曜日

学生の頃、一番長い期間働いたアルバイトは、深夜時間帯のファミレスのキッチンクルーだった。

主に22時から翌朝6時まで、大学4年の頃には週4回入っていた。

だいたいのパターンとしては

22時~23時 ディナー時間帯のクルーと残作業等の引継ぎしながら作業スタート

23時~0時 4時上がりのクルーと一緒に深夜帯の作業

0時~1時 4時上がりクルーを休憩に出して、作業の続き

1時~2時 休憩

2時~4時 在庫管理と発注

4時~6時 一人になって、モーニング、ランチの下準備

これの合間にオーダーを片付ける。

深夜帯の作業というのは、主に大がかりな清掃だ。

ランチやディナーと比べてオーダーが少ないので、揚げ物を上げるフライヤーの中をきれいにしたり、ハンバーグなどを焼くグリル盤と呼ばれる鉄板の焦げを落としたり、換気扇のフィルターをきれいにしたり、ごみ置き場を整理し、清掃したりする。

さらに、在庫管理と発注に、モーニングやランチのオーダーがスムーズに出せるような準備もする。

多少オーダーが入っても、先ほどの流れで進めればたいていの作業はコンプリート出来る。

しかし、金曜日はわけが違った。

金曜日は決まって混む。

他の曜日なら22時には引いていくディナーの波が、0時近くまで引かない。
23時にディナーのクルーが上がる頃にも、まだオーダーが残っているし、それだけ混めば洗い場もなかなか片付かない。
それに引きずられるように深夜帯の作業もどんどん後ろ倒しになる。

いつもなら23時ごろに始められる深夜帯の作業に、本格的に取り掛かれるのは0時を回ったころとなる。

そんな金曜日に組むパートナーは、他の曜日と違って2時上がりの主婦Oさん。

普段組んでいる男子大学生とは違い、重いものを持ち上げたり、高いところに上ったりという作業ができない。

それでもいつもの込み具合なら、内容が偏るとはいえ、分担すればうまくいくのだが、先に書いたとおりの混雑だと手掛けられないものが残ってしまう。

そのうえ、Oさんが2時で上がるので、自分は1時から休憩に入らなければならない。
どんなに作業が中途半端でも、だ。

そして、2時前に休憩を上がると、きまって混雑の第2波が来ている。

Oさんにお願いした比較的軽い作業さえ進んでいない状況。

とにかくオーダーを片付け、その間にOさんには上がってもらう。

返ってきた食器の片付けも含めると、完全に落ち着くのは3時近くになっている。

そんな時間にも関わらず、重い作業ほど残っている。

フライヤーとグリル盤をマストと決め、他の作業は合間にできるレベルで片付ける。

在庫管理と発注ももれなくやらねばだが、なぜか金曜日(明けて土曜日)は早朝帯に第3波がくる。

4時台になんでこんなガッツリなメニュー入るんだ!と悪態をつきながらこなす。

すでにキッチンがワンオペなので作業は中断。

オーダーを片付け、作業を再開してモーニングとランチの下準備をしたら、もう時間である。

床清掃まで手が回らないのが金曜日ナイトのデフォルトみたいになり、状況を知らない社員にクギを刺されてキレかけたこともある。

とにかく、金曜日ナイトはヤバい。

そんな状況の中、6月に教育実習が入って2週間バイトを休むことになった。

あらかじめ伝えてあることなので、シフトはちゃんと組んでもらっているが、やはり心配は金曜日である。

私の代わりに金曜日ナイト×2を担ってくれることになったHさん(男子学生)に、

「金曜日はマジヤバいから、覚悟して、無理はしないで」

なんてアドバイスをしておきました。

そして、2週間の教育実習ブレイクを経て、アルバイトに復帰。

さっそく一緒になったHさんに、シフトのお礼方々金曜日ナイトの様子を聞いた。

心配と、申し訳なさをないまぜに。

そしたら、Hさんがアッサリこう答えた。

いやあ、この2週間、金曜日全然混まなかったっす。

田﨑さん、あんまり脅すからビビってたけど、全然大丈夫だったっす。

へ⁉︎

全然?混まなかった?

社員に聞いても

この2週間に限っては空いてたね〜

なんて言ってる。

なんだと?

じゃあ今までの激ヤバ金曜日ナイトはなんだったんだ!

とキレかけたが、それは金曜日ナイト伝説の終焉なのでは?

じゃあ光明じゃん!

これからの花の金曜日ナイトになるんだな!

よしよし、どんとこい!花金!

そして迎えたその週の金曜日、やってきたのは激ヤバ金曜日ナイトだった…

激ヤバよ、「おかえり〜、寂しかったよ〜」ちゃうねん!

結局、卒業を機に辞めるまで、激ヤバ金曜日ナイトは続いたのであった…

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