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引き継がれる民窯の仕事

「民藝って何ですか?」と聞かれることが度々あります。
僕が聞かれるくらいですから、その言葉を作り出した柳宗悦はどれだけ聞かれたことか。

それについては日本民藝協会のサイトでわかりやすくまとまっています。

そして手元に置いておくならこちらがおすすめです。

タイトル通り本当にわかりやすい。

もちろん柳宗悦の文章(青空文庫でも無料で読めるものも)、志賀直邦さんの「民藝の歴史」などもぜひ。いろいろ知れば知るほどわからなくなる。それはアリストテレスの「知れば知るほど、何も知らないことを知る」そのものです。

民藝について柳が説明した特性が日本民藝協会のサイトにまとめられています。

  1. 実用性。鑑賞するためにつくられたものではなく、なんらかの実用性を供えたものである。

  2. 無銘性。特別な作家ではなく、無名の職人によってつくられたものである。

  3. 複数性。民衆の要求に応えるために、数多くつくられたものである。

  4. 廉価性。誰もが買い求められる程に値段が安いものである。

  5. 労働性。くり返しの激しい労働によって得られる熟練した技術をともなうものである。

  6. 地方性。それぞれの地域の暮らしに根ざした独自の色や形など、地方色が豊かである。

  7. 分業性。数を多くつくるため、複数の人間による共同作業が必要である。

  8. 伝統性。伝統という先人たちの技や知識の積み重ねによって守られている。

  9. 他力性。個人の力というより、風土や自然の恵み、そして伝統の力など、目に見えない大きな力によって支えられているものである。

時代の流れの中でその特性が難しくなっているものもあります。

  • 「無銘性」。インターネットが普及しSNSで誰もが発信する中では困難です。

  • 「地方性」。暮らしが均一化され、土地ごとの暮らしの差がなくなっています。

  • 「伝統性」。弟子という働き方がほとんど見られなくなり、知識や技術は調べれば知ることができますが、先人の積み重ねられた経験や体験を承継する環境が少なくなっています。

  • 「分業性」。労働基準の観点など、個人での制作が増えています。

これらの特性を維持しているのは、出雲の出西窯や沖縄の読谷山焼北窯、あとは産地と呼ばれる場所で家族でされているところくらいではないでしょうか。

繰り返し作られる定番の丸長湯呑と皿。

福岡県朝倉市小石原。今も約40件の窯があり、
戦後の九州民芸協会の設立もあって民藝の思想が広まった産地です。
融民藝店ではその中でも、小石原の名工太田熊雄さんの三男、太田哲三さんの窯「太田哲三窯」のものを並べさせていただいています。
熊雄さんから哲三さん、その息子さんの圭さんに、小石原の伝統性は誠実に引き継がれているのを感じますし、哲三さんと圭さんの静かですが息のあった分業性と、圭さんの確かな技術から今では哲三さんと圭さんの作るものの個人は薄まり、窯の仕事となっています。そして哲三さんは2022年、厚生労働大臣表彰「現代の名工」、秋の褒章「黄綬褒章」受章をうけられました。

高台を削る哲三さん。座ってから作業にかかるまでの流れるような動き。
どれくらい作り続けたか。トビカンナと刷毛目。

小石原の茶褐色や白褐色の粘土にたっぷりかかった白化粧は、指描や櫛描の線の豊かな表情を見せてくれます。粘土と化粧のバランスを追求した小石原ならではのものになっています。
またポン描と呼ばれるイッチン(筒描き)はスリップウェアとも通じる、スピード感ある化粧泥の動きが楽しませてくれます。
倉敷で惜しまれつつ2022年末で閉じた羽島焼とも通じる雰囲気も感じられ、戦後の民芸運動の広がりの中で、職人の流れなど技術や知識が共有されたのではと考察する楽しさもあります。哲三さんの古い酒津や羽島のものに共通点感じる時があるそうです。

フラットにオープンにいろいろお話してくださる哲三さん。

融民藝店では、指描、櫛描、イッチン(ポン描)のものを主に並べさせていただいています。熊雄さんから哲三さんへ、そして圭さんへと。これからも頼もしい窯です。

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