合成の誤謬と日本経済との関係

企業が利益追求のために従業員を軽視し、人件費を節約して非正規雇用を増やすという「合理的」行動をとると、社会の購買力は低下してしまう。人々が将来に不安を抱き節約するという「合理的」行動をとると、有効需要は低下して経済は停滞する。

伊藤 宣広. ケインズ 危機の時代の実践家 (岩波新書) (pp.187-188). 株式会社 岩波書店. Kindle 版.

 合成の誤謬の観点から語られた言葉であるが、おおむね日本経済の長期低迷の原因を言い当てている。
 個人や企業が合理的と思える行動をしてもマクロで正しい結果が現れるとは限らない。
 もっとも、個人や企業が一見合理的と追われる行動をするのも、結局は政府が実施した政策のミスの結果である。

 企業が景気低迷の中、設備投資や人的資本に投資をしなかったのは、単に利益追求だけでなく、国際競争力を担保すると称して法人税を下げ続けたためである。利益がでても税金がかからないため、企業は内部留保に努めることになった。競争力を発揮するために設備投資や人的資本に投資するどころか内部留保に資金を確保したのである。企業がこのような行動に出たのは、法人税引き下げという政策の結果に他ならない。

 人々が将来に不安を抱いて節約という行動に出たのも、ことさらに財政不安を煽り社会保障の持続可能性に疑問符を抱かせただけでなく、増税や社会保険料の引き上げによって国民の可処分所得を圧縮させた政府の政策の結果である。

 このように一見、個人や企業が合理的な行動に出ているように見えても、それは政府が実施する政策によって誘導された結果であり、結果的に日本経済の長期低迷を招いたのも政府の政策ミスと評価されるゆえんである。

 個人や企業が個々にアニマルスピリッツを発揮して、日本経済を立て直すという問題ではない。個人や企業は政策により「合理的に」行動するよう仕向けられてきたのだ。

 そして、この30年の日本経済の結果をみると、先進国の経済を成長させることが本来至難の業とはいえ、この間かじ取りをしてきた政権の責任者や政治家に政策を提案するブレーンたる行政機関とくに財務省は経済オンチであったという誹りをうけてもやむ負えないほどの惨憺たる結果である。
 

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