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スパイス計画を始めた理由

「スパイス計画」は、「食べる」を通して、世界中の多くの人々や動植物と共に生きている実感を得る計画です。活動内容は、料理と本の制作、これらの2つです。具体的には、料理教室や出張で料理を、福岡と神戸の2拠点で行っています。料理の内容はスリランカカレーにビリヤニといった、スリランカやインドなどの南アジア料理が中心です。また、バナナの葉っぱで豚肉やイモ類を蒸し焼きにする、パプアニューギニアの料理も時々作っています。本の制作は現在進行中ですが、世界各地の人の暮らしについて料理を通して発信していきます。「スパイス計画」では、現地の料理を日本で作り、皆さんにお出しします。「美味しい」をきっかけに皆さんの好奇心を広げたい。そして、今いる場所からは見えない、遠くの人々の生活やその料理が育まれた風土に想いを馳せて欲しい。ぼくは、心の豊かさとは、多くの他者を具体的に心に描くことだと信じています。
なぜこのように思うに至ったかと言いますと、12年前の会社員時代までさかのぼることになります。少し長くなりますが、宜しければお読み下さい。

魚の下処理
Mbunai, Manus, Papua New Guinea, 2015

人生はこんなもののはずがない

ぼくは2011年に大学を卒業して一般企業に就職しました。食品メーカーで営業を行っていたのですが、自分が販売している食品は、一体誰のために、どのように役に立っているのか。そんな実感が伴わず、虚無感を覚えました。人生とは一体何なのか、人が生きるとは何なのか。そんなことを真剣に考える日々が続きました。心のどこかで「人生はこんなもののはずがない!人が生きることはもっと素晴らしいはずだ!」そう信じたかったのです。
会社が倒産し、2013年1月から4月にかけて、東南アジア、ネパール、インドをバックパッカーとして回りました。死ぬまでに一度、海外へ旅をしてみたかったのです。現地の空気感は、渡航前の想像を大きく越えていました。プノンペンの市場は人や様々な食材で溢れてものすごい熱気を帯び、一方でネパールの山奥で標高3500mに立地するランタン村では、周りを荒野と山々に囲まれ風の音が聞こえるほど静かな暮らしがありました。旅を通してわかったのは、それぞれの土地に異なる文化が根付いていて、土地土地に連綿と続いている人々の営みがあるということでした。

朝のキッチン
Biyagama, Western, Sri Lanka, 2022 

旅先で見つけた手がかり

どうしてこうも、旅先で出会った人々はぼくの目に眩しく映るのか不思議でした。「人が生きていくこととは一体何なのか」。ぼくは日本とは異なる土地で文化を築き上げてきた人たちから、この漠然とした「問い」を読み解くための手がかりを求めようとしました。そんな淡い期待を抱いて青年海外協力隊に応募し、パプアニューギニアのマヌス島で2年間活動を行うことになりました。
配属先から特に決まった活動を求められなかったため、模索した結果、醤油などを使った日本食を現地の人に、教える活動に決めました。料理を教えることが、パプアニューギニアの人たちに喜ばれた唯一のことだったのです。他方で、昔から連綿と続くパプアニューギニアの人たちの風習や祭事が、実は人が生きていく上で本質的なものであるように思え、それらを写真で記録する活動も自主的に行っていました。
任期満了間際、ぼくはまだ「問い」に対する答えを見出だせずにいました。これから先、何を行えば「人が生きていくということの本質」について、探求し続けることができるのか。悩んだ末に、料理であれば世界中のどの地域であっても、現地の生活に入り込んでコミュニケーションが取ることができはず。そのように考え、料理を続けようと決意しました。
帰国後、フレンチレストランで修業を積みました。その後、どうしようかと考えた結果、まだ自分にとって未知だったスリランカに興味が湧いて渡航することに決めました。スリランカではホームステイという形でいくつかの一般家庭にお世話になりつつ、それぞれの家で料理を教えてもらいました。また、ビリヤニレストランで働くなどもしました。その都度、メモを取り、写真を撮りながら、幅広く料理の調査を行いました。そして、約9ヶ月の滞在を経て日本に戻り、2019年10月、福岡で料理の提供を始め、この活動に「スパイス計画」という名前を付けました。

屋台
Manila, Metro Manila, Philippines, 2017

料理は、他者を想う媒体

「生きる」とは、他者と関係を結んでいくことではないか。他者とは人のことを言うだけでなく、生き物や、その生き物を育む大地や海をも指し、さらに生命の根本である太陽までも含んでいる。ぼくは多くの土地土地に根付く暮らしを体感してきて、そう思うのです。人が生きていくためには、どうしても他の動植物の命をいただくことになります。その命や母体に感謝と尊敬の念を持つことは、心に彼らの存在を留めるということになるのではないでしょうか。この大勢の人々や動植物をそれぞれ認識することが、共に生きている実感であり、「生きる喜びの一つ」だと思うのです。
ぼくは料理を世界各地で学ぶことから、それぞれの人々が築いてきた他者との関係性を認識していきたい。また、料理を提供したり、本をお見せすることを通して、皆さんにも、改めて他者との繋がりを感じてもらいたいと思うのです。
他者への感謝と尊敬の念を持って見る世界は、きっと美しい。そう信じています。


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