太田直樹

国語科教諭。まずは、国語教育における物語論の導入に関しての記事を掲載していく。

太田直樹

国語科教諭。まずは、国語教育における物語論の導入に関しての記事を掲載していく。

最近の記事

理論編(2) 「語り手」と「作者」の違い(3) 国語教育における物語論の導入

 夏目漱石『吾輩は猫である』の冒頭は、「吾輩は猫である。名前はまだだ無い。」である。ここで、「どうして作者は猫に名前をつけなかったのだろうか」という「作者の意図」を問う問いかけを教員が投げかけ、授業で考えることにしたとしよう。  たとえば、「夏目漱石が主人公の猫に名前をつけるのが、面倒だったから」といった答えが生徒から返ってきたとする。おそらくこれは、教員が求めているような答えではない。これ以上議論が発展しそうにになく、建設的な他の考えを示す生徒を探したくなるだろう。  しか

    • 理論編(2) 「語り手」と「作者」の違い(2) 国語教育における物語論の導入

       続けて、「語り手」がどのように語るのか、という観点から分析する見方と、作者がどのような心情から作品を作ったのかという観点、すなわち「作者の意図」を分析する見方との違いについて考えて見る。再び、夏目漱石『吾輩は猫である』の冒頭を取り上げてみよう。 「吾輩は猫である。名前はまだ無い。」  この場合、作者は夏目漱石であり、語り手は「吾輩」と名乗り語り出す猫である。この作品の冒頭は有名であり、近代小説の幕開けと言えるこの小説の語り出しについて分析する意義はあるだろう。  この部

      • 理論編(2) 「語り手」と「作者」の違い(1) 国語教育における物語論の導入

         理論編(1)をまとめると、作品を「物語」として捉えるとはすなわち、過去に行われたことを語り手がどのようにして聞き手に対して語り出すのか、という観点から作品を分析する姿勢である、ということになる。  ここで問題になるのは、「語り手」とはどのような概念であるのか、それは「作者」とどのように違うのか、という問題である。これは一見すると簡単な問題のようで難しい。国語教育において「語り手」という概念が導入されて久しいが、未だに理論的な背景を踏まえて「語り手」という語を使って分析するこ

        • 理論編(1) 「物語」と「小説」の違い(3) 国語教育における物語論の導入

           授業時には補足的に、もう少し詳しい話をしても良いかもしれない。オンライン上で確認できる、コトバンク(https://kotobank.jp/)で「精選版 日本国語大辞典」を検索すると、「物語」と「小説」のより詳しい定義がでる。それをもとに、補足的な説明を展開していく。  たとえば、「物語」は「物語する」という動詞で用いられていたという側面がある。「精選版 日本国語大辞典」には、「① (━する) 種々の話題について話すこと。語り合うこと。四方山(よもやま)の話をすること。また

        理論編(2) 「語り手」と「作者」の違い(3) 国語教育における物語論の導入

        • 理論編(2) 「語り手」と「作者」の違い(2) 国語教育における物語論の導入

        • 理論編(2) 「語り手」と「作者」の違い(1) 国語教育における物語論の導入

        • 理論編(1) 「物語」と「小説」の違い(3) 国語教育における物語論の導入

          理論編(1) 「物語」と「小説」の違い(2) 国語教育における物語論の導入

           次に辞書的な意味を確認すると良いだろう。学校で生徒が用いている学習用の国語辞典を引いてもらう。たとえば、『ベネッセ 表現読解 国語辞典』(ベネッセ、二〇〇三年)を引くと、以下のようにある。 小説  文学の形式の一つ。人生のさまざまな姿や社会に起こる事件を、作者の想像力によって筋立て構成し、作中人物の心理などを通して描き出した散文体の作品。 物語  ①昔から語り伝えられている話。  ②文学の一形態。ある事件・人物の行動などを、人に語りかけるように叙述した散文作品。特に日本文

          理論編(1) 「物語」と「小説」の違い(2) 国語教育における物語論の導入

          理論編(1) 「物語」と「小説」の違い(1) 国語教育における物語論の導入

           物語論(ナラトロジー)という観点から分析するとはすなわち、扱うテクストを物語としてとらえて、すなわち語り手が聞き手に語りかけているものとして、分析するということを意味する。そのことを理解する上では、まずは「物語」という言葉がどのようなイメージを持つ言葉であるかを確認する必要がある。  そこで有効なのは、「物語」と「小説」の違いを生徒に問うことである。私たちは「物語」「小説」などの言葉を日常茶飯事に使っているが、どのように使い分けているだろうか。  実際の授業を想定すると、ま

          理論編(1) 「物語」と「小説」の違い(1) 国語教育における物語論の導入

          (総論)国語教育における物語論の導入

           物語論を用いた分析を、国語教育において導入する上で役立つ記事を書いていく。聞き手(読者)としては、中学や高校の国語科教諭、小説の読解に関心がある大学生以上を想定して書く予定であるが、中高生の読者にもわかりやすく書いていく予定である。  物語論というと、昨今では物語の作り方、どうすれば面白いストーリーを作ることができるか、という文脈で用いられることが多い。これは、古くはウラジミール・プロップ『昔話の形態学』における、物語の構造分析の潮流である。この観点も、中高生が物語(小説)

          (総論)国語教育における物語論の導入