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世の中の縮図はたこ焼きにあり。〜往復4時間、男3人だけの『自宅タコパ』

8月某日。僕は千葉県某所に降り立った。僕の家から片道2時間の長旅、もはやこれは日帰り旅行である。遠すぎる。

とはいっても、家を出たのは15時過ぎで、着いたのは17時過ぎ、太陽が西に傾いている頃合いで、辺りは少しずつ薄暗くなっていた。そんなことはさておき、遠すぎる。

片道2時間もかけて、はるばる千葉県までなにをしにきたかというと、そう、「男3人だけの自宅たこ焼きパーティー」である。地獄絵図である。色気もくそもない。

8月某日の千葉県某所なんて暑いことこの上ないのに、それに男3人だけときた、しかも男の自宅、暑苦しすぎる。いや、むさ苦しすぎる。そして、遠すぎる。

片道2時間…、

往復4時間て…、

遠す……ぎ……

さて、愚痴はこの辺にして、僕以外の残る男2人の紹介をしておくと、彼らは超大手有名大企業に勤める、超優秀なサラリーマン様なのである。崇め奉れ。

え?とはいえ、なんでそんな超優秀なハイスペック人間が無職のお前なんかとつるんでるのかって?

それは、彼らが僕の大学時代からの友人であるからに他ならない。明治大学バンザイ。大学卒業してよかったなあと初めて思った瞬間だ。彼らのような高額納税者様には頭が上がらない、今日も税金を使って道路を整備してくれてありがとう。

内心ではこのように美しきことを思いつつ、外心では「遠すぎる。暑すぎる。むさ苦しすぎる。」だのと僕がタラタラと文句を垂れながら彼らのいる場所(駅前の西友)に到着すると、超優秀なサラリーマン様たちは、すでに西友でタコパに必要な材料やら飲み物やらを調達し終えていた。

え?超優秀なサラリーマンになると、西友での食材調達なんて余裕なのか?すごすぎないか?無職には無理だぞ。

やはり遥か昔は狩猟採集民であった我々ホモサピエンスたるもの、超優秀な遺伝子を受け継ぐ超優秀なサラリーマン様なら、食材の調達くらい朝飯前なのか??

いや、これから夕飯だからそれを言うなら夕飯前か。てかそもそも、じゃあ僕は厳しい狩猟採集時代を生き残れないのでは?

などと、僕は本日の食料がたくさん入っているビニール袋すら持たず、手ぶらで今後の生存戦略について考えながら歩いていると、超優秀なサラリーマンFは僕にこう告げた。

「ちょっと仕事の電話一本入れるから、このビニール袋持っててよ。」

か、かっこいい…。

『第1回人生で言ってみたいビジネスマンのひとこと選手権』なら、「仕事の電話一本入れる」が満場一致で優勝、スタンディングオベーションの嵐である。感動した!

僕は言われた通りFから"渋々"重たいビニール袋を受け取り、その後Fが電話を終わったことを確認し、"嬉々"としてサッとビニール袋をFに返した。

………、クソである。配慮も親切心もない。これが無職と超優秀サラリーマンとの違いか。無念。書いてて絶望した。

そんな『第1回人生で言ってみたいビジネスマンのひとこと選手権』覇者のFは、超有名大手報道企業に勤める生粋の報道マンである。

休日にもかかわらず、仕事の電話を一本入れてしまうのもうなずける。大変なお仕事なのだ。畏怖。尊敬の嵐。

そんなこんなで夕方の千葉県をてくてく歩いていると、あっという間に本日のタコパ会場に到着した。Fの自宅である。

ふむ……、ここがFの自宅か、タコパの会場になるくらいなんだから、よっぽど豪邸なんだろうな?お手並み拝見といこう。

ゆっくりと顔を上げると、そこには高級感溢れる外壁がそびえ立っていた。周囲は昭和感漂うレトロな民家が立ち並んでいる中、ここだけ明らかに令和の匂いがする。おかしい。

それはまるで、下町に六本木ヒルズ、田舎にブルジュ・ハリファ、クラスメイトに石油王状態である。

外壁に見惚れて首がもげそうになりながらも中に進むと、なんとエントランスがある。しかもなんかオートロックみたいな、番号入れて自動ドアが開くやつ。え?ここ日本だよね?

エントランスは綺麗で掃除が行き届いている、たぶんコンシェルジュもいる。これはすごい。

全然タコパにたどり着かないので、エレベーターに乗ってFの部屋に入る。男の一人暮らしとは思えない綺麗なワンルーム。超快適。

これまでずっと無口だったもうひとりの超優秀なサラリーマン様であるNは、開口一番、僕にこう告げた。

「フォールガイズやろうぜ!!」

※フォールガイズとは、59人を蹴落として1位になることを目指す大流行ゲームです。

紹介が遅れたが、超優秀なサラリーマンとは思えない無邪気な発言をした彼もまた、超有名大手銀行に勤める超優秀な銀行マンである。

それでいて、なんか1万人に1人しかもらえない社長賞もらったらしい。桁が違う。バケモンだ。しかもイケメン。かっこいい。

そんな彼がフォールガイズをやりたがっている。9,999人を蹴落として社長賞をもらっただけでは飽き足らず、ゲームの中でも59人を蹴落として1位になろうとしている。

もう9,999人蹴落としたんだからよくない?

などと言いたくなる気持ちをぐっとこらえて、僕はNとフォールガイズをやりはじめた。

僕は人生で初めてフォールガイズをやったのだが、これがとてもおもしろい。僕は蹴落とされてばかりだったのだが、Nは何度も1位を取っていて、すごい。

超優秀な銀行マンたるもの、ゲームなんてお茶の子さいさいなのだろう。

マネーゲームを制する男、人落としゲームをも制する、とはよく言ったものだ。……。

誰も言ってないか。

また僕がそんな新しいことわざを生み出している中、Fは着々とタコパの準備を進めていた。準備を進めるどころか全部やってくれた。神。お母さん。千葉県のおふくろ。第二の故郷。ありがとう。

Fの手によって、たこ焼き器が設置され、タコと謎の黄色い液体(たぶんたこ焼きの原料)も準備万端、なんと青のりとかつおぶしとソースとマヨネーズと紅生姜と天かすまである。え?ここって銀だこでしたっけ?

報道マンのFは慣れた手つきで油を敷いて謎の黄色い液体をたこ焼き器に流し込んでいく。一方、銀行マンのNは、箸を持ち黄色い液体が固体に変わる瞬間を待ち構えている。

「いまだ!」

ここぞとばかりにFとNは、状態変化しつつある黄色い固体をくるくるくるくるとひっくり返していく。すごい。はやい。うまい。

さながら祭りの屋台を眺めている気分だ。あーお祭り行きたいな、焼きそば食べたい。かき氷もいいな。行き交う人々の浴衣姿、目に焼きつけたいな。

と、初代銀だこの創業者みたいな手つきでくるくるくるくると回転させられていくたこ焼きを眺めながら夏祭りの感傷に浸っていると、丸々としたたこ焼きがコロコロとお皿に取り分けられていく。

Fは、6個のたこ焼きに青のり、かつおぶし、マヨネーズ、ソースをかけて、一番に僕に提供してくれた。店長、僕お金払ってないですよ。

と言っても、まあ所詮は素人社会人男性が作ったたこ焼き、味なんてたかが知れてるでしょ。とまあ、ここまでリアルでもゲームでも1ミリも活躍していない僕がまるで天才料理人みたいな面構えをしながらたこ焼きを口に運ぶと、

これがまたうまいのだ。

銀だこならぬ金だこですわ。
しょうもない。
でもそれぐらいうまい。感動した!

本日2度目の小泉純一郎が出てきたところで、ふと僕の頭にとある図式が浮かぶ。

・世の中に情報を提供する報道マンF
・世の中にお金を融通する銀行マンN
・世の中に価値を提供しない無職(僕)

ふむ。

・たこ焼き器に液体を注ぐ報道マンF
・液体を融通してたこ焼きを作る銀行マンN
・なにもせずたこ焼きだけ食う無職(僕)

ほう。

世の中の縮図はたこ焼きにあるのか……。

自分で言ってて情け無い。でもこれが真実だ。

真理にたどり着いてしまった。タイトル通りだ。伏線回収。ヒヤヒヤしたぜ。

そんなこんなで、その後も僕にお待ちかねの活躍の場面が訪れることはなく、合計で3皿18個のたこ焼きを胃の中にしまいこみ、挙げ句の果てにお酒と白飯とソーセージとアイスまでご馳走になってしまった。お父さんありがとう。ここが僕の新しい実家です。

その後も、僕らはタコパをしながら、映画を見たり、世間話に花を咲かせたり、会社の愚痴を言ったり(僕に愚痴を言う会社はないが)、フォールガイズをしたり、そんなひとときを過ごした。

するとふとFがつぶやいた。

F「休みの日にみんなでタコパして、アイス食ってゲームしてる、最高の休日だよ。」

それに呼応して

N「本当に幸せだよな。またタコパやろうぜ。」

あれ、僕の友達って聖人君子だっけ?このまま行くと彼らの評価が高すぎてしまうので、マイナス面を言って帳尻を合わせたいくらいだ。

でもそれを僕がしたら、もうそれは終わりだ。世界の終わり、セカオワ、RPGもビックリ。

そんなBL青春マンガみたいな1コマも束の間、テキパキと後片付けをし(Fが)、残ったたこ焼きもスタッフ(僕)が美味しくいただきました。

その後も、彼らに駅まで送ってもらい、僕は無事に帰路に着いたのである。

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たこ焼きは、この世の縮図である。

次に会うときは、せめてお菓子くらいは持っていこう。

そう思った、千葉県某所での夏のひととき。

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