見出し画像

推しは、僕…!?#1


#創作大賞2023 #漫画原作部門


あらすじ

IQ300の天才少女リリが共学校に留学してきた。リリは世界有数の財閥の一人娘。MENSAの試験に3歳で合格。4歳でハーバード大学を首席卒業。そんな完璧そうにみえるリリだが、重度の男性恐怖症。留学初日、美少女のリリはクラス中の男子に囲まれ、重度の男性恐怖症の彼女はその場で卒倒。倒れたリリは保健室でヒカルという少年と痛い出逢いををする。小心者で面倒なことに関わりたくないヒカルは、男性恐怖症のリリを避けようと決める。しかしリリはヒカルと接するうちに自分でも気付かぬままヒカルに惹かれていき…ヒカルはそんなリリに翻弄され、時間が過ぎてゆく、そしてリリが帰国する日…

リリの初めての恋に気付いた瞬間の胸の高まり、恋に落ちた女の子のもどかしい行動、揺れ動く感情、クラスメイトの学級委員がヒカルを好きでライバルが現れ、どうすればいいかわからないリリ、重度の男性恐怖症の子が初めての恋に落ちた女の子の姿と、上手く表現できない恋心、行動のリリに翻弄されるヒカルの姿、また、初めて女の子の恋愛対象としてみられたヒカルのドキドキする姿を描きます。


アークラルド学院
そこは、MENSA、IQ130以上の知能指数を持つ人たちが参加できる国際グループに所属し、10歳までにアークラルド学院の指定するどこかの大学院博士課程までを卒業した子供たちが入学出来る学校

そのアークラルド学院の中でも、最も知能指数が高いと呼ばれるIQ300の少女、リリ・アークラルド。世界有数のイギリスの財閥、アークラルド家の一人孫娘。4歳でアメリカのハーバード大学を首席卒業、6歳で博士課程取得。現在、物理学、医学、生理学、化学を勉強中。将来の夢は地球温暖化を止めること。同時に医学の道も志している。

リリは日本人の母とイギリス人の父を持つハーフ。身長168cm、46kg、マロンブロンドの髪色、明るいブラウンの瞳を持つ16歳のとびきりの美少女だ。芸術に長け、運動能力も抜群。完璧に思われがちな彼女だが、重度の男性恐怖症。祖父ジョセフが決めた婚約者がいるが、全く近寄らない。当然まだ恋をしたことがない。

アークラルド学院では16歳から17歳の間、留学制度を設けている。勉強に偏りがちな子供たちを異国の文化に触れさせ、人間性、社会性を高めるのが目的だ。リリは母の母国である日本を選んだ。理由は、女子校でギャルに変身し、kawaii をたくさん見つけること。女の子と友達になるのを楽しみにしていた。

しかし、女子校を選んだはずのリリだったが、祖父ジョセフの手回しで共学校の留学になっていた。学校に着くまで何も知らないリリ。到着して驚愕したリリは必死の抵抗するが、SPによって運ばれる。泣きたい気持ちで言葉に詰まりながらクラスメイトの前で自己紹介をするリリ。席について15分のHRを終え、クラスメイトは仲の良い友達と集まる。緊張しながら周りを見渡すリリ。クラス中の視線を集めていることがわかった。居心地が悪く、クラスの外に出ようとすると、隣の席の男子グループが話かけてきた。一気に緊張の度合いが高まり、焦るリリ。途端、クラス中の男子に囲まれた。緊張がピークに達したリリはバタンと卒倒した。

保健室に運ばれたリリは、一番奥のベッドで寝ていた。でもそこは同じクラスメイト、いじめられっ子の桐島ヒカルの定位置。たまたま保健室の先生が席を空けた時に保健室にやってきたヒカル。ヒカルがカーテンを開くと、目が覚めたリリと鉢合わせ。悲鳴をあげるリリ。何が何だか分からないヒカルは動揺し、逃げようとしてすっ転び、頭を打つ。前頭部を思い切り打ったヒカルは、手に血が付いているのに気付く。恐る恐る奥の部屋から出て来たリリは、怪我をしたヒカルを見て、とても申し訳ない思いを持つ。震える声でヒカルに声を掛ける。
「だ、だいじょうぶ、ですか…ち、血が出ています…」
ヒカルはリリに目を向けた。
艶やかなマロンブロンドの髪が柔らかく胸元まで優しくカールし、小さな顔に長いまつげが明るいブラウンの大きな瞳を彩っている、鼻筋はキレイな線をはっきりとうつしだし、そのちょっと下にあるぷっくりとした赤いくちびるが少し開いている。長身のスラリとした少女がカーテンに半身を隠し、ヒカルを覗いていた。
ヒカルは動揺し、
「だだだだだいじょうぶですっ」
とカバンを手に取り、保健室を走って飛び出し逃げた。

ヒカルは、校舎の裏庭の陰にいた。
自分が今さっき目にした少女の姿が目に焼きついて離れない。
なんだったんだ…さっき自分が出会った美少女は…ヒカルは小学生の時から女の子と話した経験があまりない。これでも幼稚園の時は、仲良しの女の子と手を繋いで登園していた。でも…小学校に入ってからは別々のクラスになり、隣のクラスで走るのが速くてサッカーをやっている学年で一番かっこいい男子が好きだという話を人づてに聞いた。時々廊下ですれ違うことはあっても目を合わせてくれることはなく、友達と談笑しながら通り過ぎていった。そんな時、ヒカルはいつも俯いた。ヒカルは運動が苦手だった。走るのも遅いし、ボール競技も苦手。勉強は中の上。身長は低いが、顔は中の中だとヒカル自身は思っている。しかし一度サッカーで、顔面ブロックをしてメガネが割れ、クラス中の笑い者になってからは、保健室のベッドで引きこもって過ごすことが多くなった。例え教室にいても、引っ込み思案で奥手なヒカルは自分から話しかけることができず、話しかけられても会話が続かない。だからクラスの中でも浮いた存在だ。友達はいない。休み時間は自分の席に座って、YouTubeを見ている。本当は推しの2次元アイドルと話したり、歌を聴いていたい。でもヒカルはクラスメイトにその姿を見られるのが嫌だった。もし、ぼっちの姿をバカにされでもしたら、と思うと、許せなかった。自分の友達、推しの2次元アイドルを大切にしている存在を貶されたくなかった。
ヒカルはハンカチで押さえた血が固まったのを確認し、早退しようと心に決めた。

リリは保健室のベッドに腰掛けていた。自分が悲鳴を上げたせいで怪我をさせてしまった、しかも頭部。リリは医学の知識もある。頭部に怪我をさせたからにはCTを受けさねばと考えていた。少年のことは調べるとして…、これからどうやって学校生活を過ごしていこう、クラスメイトの前で卒倒した、怪我もさせた、リリは大きくため息をついたが、まずは怪我をさせた少年の傷の処置とCTだ、気を取り直し、スマホを取り出すと執事に電話をかけた。

少年の名前はすぐにわかった。桐島ヒカルと言う名前で、同じクラスらしい。リリは病院の手配をお願いし、彼へのお詫びの品を用意させるよう伝えた。怪我をさせたことを理由に学校は早退することに決めた。執事のフランクとリリの留学生活でのサポート役エミリーはあっさり許してくれた。ほっとしたリリは、保健室を出て、ダッシュで車に向かった。廊下の壁には、走るな!と書かれたポスターが目にチラッと入ったが、「I  ignore 」と呟いた。
待機していた車に戻ったリリは、はぁーと大きくため息をついた。
「なんで共学校なのよ、初日早々恥かいた、あーもうあのクラス二度と行けない」
リリはフランクとエミリーに怒りをぶち撒けた。
エミリーはリリを宥めながら、
「お嬢様、時間が経てばそのうち慣れますわ」
「慣れないよっ」
リリはぷぅっと可愛い頬を膨らませた。
「大体、お祖父様はなんで女子校から共学校に変えたの?私が極度の男性恐怖症だって知ってるでしょ!」
「リリ様、アークラルド学院にも一緒に勉学を学んで時間を共有する男子生徒様方がいらっしゃるではないですか」
フランクは助手席から後部座席のリリに振り返り答えた。
「あれは小さい頃からずっと一緒だからだよ!大体必要以上に話さない」
「…それに、みんな私が男性恐怖症だって知ってるから、気を遣ってあまり近寄らないし」
膝の甲辺りに伏目がちに目をやりながら、
「もうイギリスに帰りたい」
と言った。
少しの沈黙が流れたあと、フランクが口を開いた。
「…お祖父様…ジョセフ様はリリ様に婚約者様へ少しでも近づいて欲しいというお考えでいらっしゃいます。共学校へ変更なされたのも男性方と慣れるためかと…アークラルド学院を卒業すれば、必然的に学会や経済界の男性方とお話しする機会が増えるかと存じます。男性方と関わらずにこの先生きていかれることは到底ご無理なお話でございましょう」
リリは少し涙ぐみながら、そんなのわかってるよ、と口を尖らせ
「私は結婚しないもん、地球温暖化を止める地球に優しい新しいエネルギー開発をして、地球を守る科学者になるんだから、知ってるでしょ。結婚なんて必要ない。それに経済界の方は親戚にまかせればいい」
「…研究者とは関わらなきゃいけないかもしれないけど」
と小さな声で呟いた。

何だろう、高級そうな車が何台も停まっている。しかもヒカルの家の前から。突然、一番前の車のドアが開き、
「桐島ヒカル様で御座いますか?」
と白髪で青い目の、高級そうなスーツを着た老紳士に声を掛けられた。
ヒカルは驚いて返事をするのさえ忘れていると
「遅くなりまして申し訳ございません。わたくし、アークラルド家で執事をしておりますフランク ノットと申します。この度は我がアークラルド家のリリ様がヒカル様にお怪我をさせてしまい大変失礼を致しました。深くお詫び申し上げます。頭の傷はいかがでしょうか?病院の手配が出来ましたのでお迎えに参りました」
と淀みない日本語で話すと軽く一礼をした。
ヒカルは緊張で口内が渇くのを感じながら、震える声で答えた。
「だ、大丈夫です…別にそんなに血が出ていたわけでは…」
「それはいけませぬ。病院で適切な治療と検査を受けねば」
執事のフランクからは有無を言わせぬ圧力を感じた。フランクは「では」と車のドアを開け、ヒカルを後部座席に無理矢理詰め込んだ。ヒカルはスモークの窓に張り付き「いいです、大丈夫です」と言ったが、フランクは聞こえないふりをして、軽い身のこなしでさっと車の助手席に乗り込み、「行きます」と一声掛けると、車を発進させた。

車内は沈黙が保たれていた。
ヒカルは、あぁ今日はサイアクの日だ、と身を縮めて小さく座っていた。なんでこんな羽目に、涙目になってきた。保健室の自分の場所でリリという女の子に悲鳴をあげられ、頭は打つし、血は出るし、…早退して家に帰って推しのYouTube 見ながらゆっくり過ごそうと思っていたら、黒塗りのスモーク窓の高級車に得体の知れない執事のフランクとかいうやつに無理矢理車に押し込まれ、病院に向かってる…らしい。マフィアだったらどうしよう…そんな考えが頭をかすめ、逃げ出したい思いでさらにヒカルは縮こまった。
「…リリ様は…、ヒカル様と同じクラスメイトでございます。お怪我をさせてしまいましたが、どうかリリ様と仲良くして下さると大変有難く存じます」
フランクが静かな口調で話しかけた。
僕と同じクラス…ぼんやりとリリの整った顔立ちを思い浮かべた。嫌だ!絶対に嫌だ!他のクラスであってくれ!ヒカルは頭を抱えた。あんな美少女にすっ転んで逃げた失態を見られ、これからクラスメイトとして、クラスで自分がぼっちなのを、パシリのいじめられっ子なのを、彼女に見られるなんて!あぁもう最悪だ…ヒカルが頭を両手でを覆っていると、
「着きました」
フランクの落ち着いた声がした。
フランクはヒカルが車に乗せられた時もそうだったが、人に有無を言わせない迫力がある。静かな口調で、紳士たる然なのに…ヒカルはそう思った。そしてフランクに促されるまま、傷の手当てを受け、CTの検査まで受けた。
「すぐに検査結果は出させます」とフランクは言い、実際すぐに結果が出た。
「異常なしだそうです。良かったです。安心致しました。」ヒカルは小さな声で「ありがとうございます」と伝え、小さくお辞儀をした。

車で送ってもらい自宅に帰ったら、リビングダイニングには溢れんばかりのお詫びの品と呆けた顔をした母が居た。
「母さん」
ヒカルが声を掛けると、
「あんたっ!頭の傷はだいじょうぶなのっ?」
心配してくれてたんだ、ヒカルは「大丈夫だよ」と答えた。
「それよりこれ…」
「そうなのよっ!外国人のすごい美少女と白髪の品のいい老人が家にやってきて、息子さんに怪我をさせてしまったって。病院の手配を致しましたので手当てと検査をさせて頂きますって深々と謝罪されて、これらは心ばかりのお詫びの品ですって大量の品が運び込まれたのよっ」
興奮気味の母さんはいつもに増して早口で喋り立てた。
「誰っ!?あの美少女?あんたの知り合い?」
「違うよ」
ヒカルは冷蔵庫から冷たい麦茶を取り出しながら答えた。
「あんたの学校の制服着てたわよっ」
母は興奮気味に喋った。
ヒカルはコップ一杯の麦茶を飲み干し
「知らない人」
と答え、そして、溢れんばかりの品物に目をやり、
「それよりこれ片付けようよ。キッチンもリビングもお詫びの品だらけで歩くスペースもないよ」
まだまだ聞きたそうな母親を制して、ヒカルは片付けを始めた。

リビングダイニングの周囲をぐるり高々とお詫びの品物で囲まれた部屋で食事を摂り、ヒカルは自室に籠った。リリ アークラルドとか言ってたな、ヒカルは早速Googleで“リリ アークラルド”検索した。出てこない。次に“アークラルド”と検索した。イギリスの財閥、という検索結果がヒカルの目にとまった、これかな?ヒカルはクリックすると、世界有数の有名イギリス財閥である、沢山の持株会社があることがわかった。もう一度、“リリ アークラルド イギリス財閥”と検索してみた。…出てこない。規制でもかかってるのかな…と考えた。よっぽどのお嬢様っぽいな…だけど、そんなお嬢様がなんでウチみたいな普通の学校に?しばらく考えてみたが分かるわけがなく、ヒカルは推しのYouTube を見て満足して寝た。
…はずだったが、眠れるわけがなかった。ヒカルはベッドの上でばっと布団を頭まで被って、今日一日あったことを考えた。チラッとしか見なかったが、あれは芸能人のレベルじゃない、自分の世界は狭いが…自分の見てきた世界、2次元の世界も含めて…とびっきりの一番の美少女だった。これこそレベチだ、異次元のレベチだ!そう思った。そんな異次元のレベチな美少女に出逢い、彼女の悲鳴に驚いた自分が勝手にすっ転び、家の前に謎の高級車が何台もズラリと並んで、執事が出てきて、自分を病院に連れて行って、家に帰ったらお詫びの品で溢れてて…。ヒカルは思った。今日自分は、異次元の世界の人間と出会った…、もしかしたら宇宙人かもしれない。そして、そして、僕は小心者だ、そう小心者。異次元の世界の人間と接する勇気はない。背も低いし、カッコ良くもない、運動オンチで、成績も中の上くらい…近づかない方が無難で平和な日々を送れるはず、異次元の世界の人間、宇宙人には近づかないでおこう、そう、それが一番、平和的だ。君子危うきに近寄らず、だ!そしてヒカルはその夜、地球に宇宙人が飛来して攻撃される夢を見た。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?