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推しは、僕…!?#3


#創作大賞2023  

2時限めの授業の途中でクラスに入り込んだ。古典の授業中だった。先生は、ヒカルがあまり授業にでない生徒だと認識しているのか、チラッとヒカルに目をやっただけで、何も言わずに授業を続けた。
3時限目が始まる前の休み時間に、このクラスの不良グループ三人組に囲まれた。ヒカルは嫌な予感がした。
「おい、ヒカル〜、昨日スゲー美人ちゃんがこのクラスに留学してきたんだぜ?ありゃ芸能人よりイケてんな」
大きな声で話しかけてきた。
「そう、なんだ」
ヒカルは心臓の鼓動が速くなるのを感じながら知らないふりをした。
「でもよ〜男に囲まれてさ、倒れてよ〜ウケたぜ」
不良グループ三人組は大笑いながら、
「そうだ、ヒカル、あの子来たら話しかけてくれよ」
面白そうに言った。
ヒカルは嫌な予感が的中した、と思いながら
「い、嫌で…す」
と断った。
「あ?ヒカルにしてはエラそうだなぁ、いいのかよ、断ったりして」
三人組の一人がヒカルの胸ぐらを掴み、ヒカルを立たせた。
ヒカルは吃りながらも
「い、嫌だ」
もう一度言った。
いつもは素直に従うヒカルにムカツいたのか、不良達は自分らの要求を断ったヒカルに、来いや、と言ってヒカルを屋上へ強引に連れて行った。

ヒカルのくせに生意気だなぁ、と不良共はヒカルを取り囲み、ニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべながら、どうなるかわかってるよなぁ、と言った。
「お、お金と蹴り10発だろ」
ヒカルが答えると、そんな訳ねーだろっとヒカルの腹に一発蹴りを入れた。ヒカルは顔を歪めた。不良共は面白そうに笑いながら、
「俺らに楯突いたんだ、いつもの倍以上だよっ!」
3分間はボコボコにされただろうか、ヒカルの足が砕けた。
突然可愛い声が屋上に響いた。
「イジメはダメでーす!」
ヒカルが声の方向に目をやると、マロンブロンドの髪をなびかせ、腰に手をあて、勇ましく仁王立ちしているリリの姿が見えた。
「イジメは弱い人間がやることデス!」
リリは可愛い声で、強い口調で言った。
不良共はニヤニヤとまた気持ちの悪いの笑みを浮かべながら、じゃあリリちゃ〜ん俺らの相手してよ、とリリに近付ついて行こうとした。ヒカルはとっさに一人の足を捕まえ、
「リリ!逃げろっ」
と叫んだ。しかし足を掴んだ相手にすぐにヒカルは顔面に蹴りを入れられた。鼻血が出るのがわかった。
リリは、大丈夫デ〜ス、スグ済みます、と淡々と言った。
リリはゆっくりと三人組へ近寄り、不良共はニヤつきながらリリを囲んだ。一人がリリの左腕を捕まえた。その瞬間リリは腕をくるりと回し、そいつの腹に素早くエルボーを入れ、回し蹴りでそいつを吹っ飛ばした。不良共は驚いて、
「な、何すんだ、このクソ女!」と叫ぶと、
と二人がかりでリリに飛びかかった。リリは軽やかに二人の突進をかわし、一人の腕を掴むとぐるんとそいつの腕をひねりながら、今度は真っ直ぐに腹に蹴りを入れ、吹っ飛ばした。もう一人は一瞬怖気付いたようだったが、この女!と叫び、蹴りを入れたが、リリは素早く体を逸らし、自分の太腿と肘でそいつの右脚をガッチリとブロックし、すぐさまそいつの腕を捕まえると背負い投げでそいつの体を投げ飛ばした。
瞬殺…ヒカルは唖然とした。
…異次元…レベチ…過ぎない?
今朝までのリリの姿と今のリリの姿の違いに、ヒカルはただただ呆気に取られ驚くしかなかった。


「…ダイジョウブ、ですか…?」
リリが小さな声で尋ねた。ヒカルは、頷くのが精一杯だった。
「鼻血が…、出て、ます、ティッシュ…」
と制服のポケットからティッシュを取り出すと、ヒカルに震える手で手渡した。ヒカルはおとなしく受け取ったが、頭の中はフルスピードで回転をし始めていた。
か、彼女は何者だ!?悲鳴を上げる。震える。大泣きする。気絶する。異常に強い。ウサギか?牙を持ったウサギ?いや、そんなレベルじゃない…リ…リリは上べだけ可愛い白うさぎに見せかけた、雄叫びを上げるライオンだ!
ヒカルはブルブルっと震えた。
「…ヒカ〜ル、保健室、行ったほうがイイ…」
リリの声でヒカルは我に返った。あ、ありがとうと伝えるとあたふたと立ち上がった。
リリは、
「ひとつ、ヒカ〜ルに恩返し、できた…」
と顔を赤らめて、はにかんだ。
ヒカルははにかんだまばゆい程のリリの表情に焦り、
「保健室行くからっ」
とダッシュでその場を離れようとした。
リリは焦って
「ワタシも…、行くネ」
とついて行こうとした。来なくていいからっ!とヒカルは叫んだ。
ヒカルの叫び声に、リリは悲しそうに俯いた。
階段の踊り場で振りかえると、リリが涙を拭う姿が見えた。その姿は小さくか弱い女の子だった。ヒカルは立ち止まった。
「リリ、一緒に行こう」
と右手を差し伸べた。
涙目のリリは震えながら階段を降りて、震える手でヒカルの手を取った瞬間、緊張が解けたのか、ピークに達したのか、その場で腰砕けになり、踊り場で白目を剥いて倒れこんだ。
何が何だか分からないヒカルは呆然と立ち尽くし、
「何なんだ、…キミは一体」
と呟いた。


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