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【Concert】第63回NHKニューイヤーオペラコンサート

 2020年のコンサート始めはNHKニューイヤーオペラコンサートになりました。例年は家でテレビ鑑賞しているこのコンサートですが、今年はご招待をいただき、とても良いお席で観させていただきました。新年なので、レビューというよりも気軽な感想としてお読みください。

 まず、舞台の作り込みがすごい。オーケストラのバックには、フェルゼンライトシューレっぽいセットとシャンデリアが配置され、そこに合唱団が。曲によるライティングも凝っていて、さすが毎年NHK音楽部の総力を結集して生放送しているだけのことはある。これはテレビではわからなかったことです(と同時に、テレビではどんな風に映っているのかも気になるところ)。

 今年は指揮にアンドレア・バッティストーニが首席を務める東フィルを率いて登場。こういうガラ・コンサート形式は彼の力が発揮されますね。曲ごとの表情を作るのがうまいし、歌い手の聴かせどころも心得ている。これは客席が盛り上がるのも当然です。歌手陣も、例年以上に実力派が揃った印象。プログラムもヴェルディ、プッチーニ、ロッシーニ、ワーグナー、マスカーニ、オッフェンバック、ドニゼッティ、マスネ、グノー、ジョルダーノとバラエティに富んでいて、かつそれぞれの歌手の力が発揮できる曲目になっていたと思います。

 出色の出来だったのは、『運命の力』から「神よ、平和を与えたまえ」を歌ったソプラノの中村恵理さん。はっきりいって歌手としての格が一段も二段も飛び抜けている。彼女のところだけが、ガラ・コンサートではなく、オペラの一場面を聴いているようでした。昨年インタビューをした時に「私はコンサート歌手ではなくオペラ歌手ですから」とおっしゃっていた言葉を思い出しました。次に印象に残ったのは、メゾソプラノの中島郁子さん。砂川涼子さんとの『蝶々夫人』の「花の二重唱」、そして『カヴァレリア・ルスティカーナ』の復活祭の合唱でサントゥッツァを歌いましたが、その歌唱力の高さ、安定感、声の奥行きに感心しました。彼女の出演するオペラの舞台をもっとたくさんみたいです。男性陣ではバス妻屋秀和さんが安定した力量を発揮。『シモン・ボッカネグラ』の「悲しい胸の思いは」を歌いましたが、非常にオペラティックな音楽作りでした。大トリはテノールの福井敬さんが歌う『アンドレア・シェニエ』の「ある日、青空をながめて」。声の美しさといい技術力といい文句なしに日本のトップ・テノールです(余談ですが、二期会は誰が次に福井さんレベルのテノールになるのかなあ、と思ったり)。

 休憩がない2時間のコンサートですが、前半と後半の間にハープのグザヴィエ・ド・メストレさんが登場。ハープのソロと、林美智子さんによるマスカーニ「アヴェ・マリア」、森麻季さんと林美智子さんによる「ホフマンの舟歌」がハープ伴奏で披露されました。重厚なアリアや重唱が続いた後に、シンプルで美しいハープの音色が沁みました。この構成はよかった。

 合唱は新国立劇場合唱団、二期会合唱団、びわ湖ホール声楽アンサンブル、藤原歌劇団合唱部の合同チーム。この座組は今後も増えていくのでしょうか。司会は「ららら♪クラシック」でもおなじみの高橋克典さんと、高橋美鈴アナウンサー。克典さんはすっかりNHKのクラシックの「顔」になりました。ヴィジュアルもかっこいいし、声もいいし、安心して聞ける司会っぷりでした。客席は満席。このコンサートが、首都圏のオペラ・ファンにとってなくてはならない年初の恒例行事になっていることを感じました。

2020年1月3日、NHKホール。

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