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東京二期会『こうもり』稽古場取材

 11月22日から、東京二期会がアンドレアス・ホモキ演出の『こうもり』を上演する。このプロダクションはベルリン・コーミッシェ・オーパーで上演されたものの東京バージョン。都内某所で行われている稽古場の様子をお伝えする。

ロザリンデ:嘉目真木子、アイゼンシュタイン:又吉秀樹

 稽古場訪問時にはちょうど第2幕「時計の二重唱」の場面が演じられていた。今回はセリフが日本語(菅尾友による台本)、歌唱はドイツ語で上演されるのだが、ホモキ氏は日本語セリフの場面でも細かく演技の指導をする。彼は日本語の言葉自体はわからないのだが、頭の中にはもちろんドイツ語のテクストの内容が入っていて、歌手たちが喋る日本語のイントネーションだけを真似て、「あああああああ!アーーーーーン、ああ?あん!」「ダダダ、ダダダダダダダンダダ」などと喋りながら、表情を豊かに変化させて動きをつけているのだ。その動きで彼が何を表現したいのかが見事に伝わってくるのがすごい。

ファルケ:宮本益光、フランク:山下浩司、イダ:秋津緑、アデーレ:清野友香莉、ロザリンデ:澤畑恵美

 ホモキ演出では、すべてはファルケが仕掛けた芝居で、舞踏会さえも彼が用意した人々によって演じられる偽の舞踏会という設定で、その中でアイゼンシュタインだけが何も知らされず、ただ騙されて翻弄されていく。それが決定的にわかるのが第3幕で、酔っ払って目覚めたアイゼンシュタインは、自分がどこにいるのか、一体なぜ周りが壊れ始めているのかわからずにパニックに陥る。そのシーンはパントマイムで演じられるのだが、そこにかなり細かく指示を出していたのが印象的だった。

アイゼンシュタイン:又吉秀樹

 そのアイゼンシュタインを演じる又吉秀樹さんに、稽古の後で話を伺うことができた。

今回のプロダクションをどうとらえていらっしゃいますか。

 オペレッタというと、華やかで難しいことを考えずに楽しめるものというイメージでしたが、初めてベルリン公演の録画を観た時には、正直「これはどういう意図でこうなっているのだろうか」と疑問を抱きました。でも、演出補の菅尾さんから「もともと、オペレッタは諷刺的な要素を持ったもの。それが強く反映された舞台」という話を伺い、普通のオペラの舞台ではできない、オペレッタだからこそできる面白さを追求していこうと思いました。

又吉さんのアイゼンシュタインはとても可愛らしい印象です。

 今回のアイゼンシュタインは貴族ではなく、ごく普通のどこにでもいる男の人です。女好きで、あちこちのパーティで遊びまわっているけれど、結局自分の奥さんが大好き、という愛すべき人物。舞台を観て「バカだけど可愛い」と思ってもらえたら大成功です。

それにしても舞台上でひっくり返ったり飛び込んだり、大変ですね(笑)

 普段のオペラの2、3倍の汗をかいてます(笑) これほどのコミカルな役は初めてなので、「ミスター・ビーン」やチャプリンの映画など、セリフを喋らない演技を観て参考にしています。

 「全員が小市民で普通の人」という登場人物が繰り広げる物語は、一見、他愛のない恋愛のドタバタ劇にみえる。しかし、その背後では時代が音を立てて崩れ始めていく。『こうもり』が初演された40年後には第一次大戦が起こり、600年以上にわたって続いたハプスブルク帝国は終わりを迎える。ホモキ演出のもう一人の主人公は、そんな時代の流れそのものだ。その証拠に、舞台上に置かれた家具は、時間の経過と共にだんだんと壊れていく。騙し騙されの恋愛ドラマは、そんな家具に囲まれながら展開されるのだ。これがただの面白おかしい喜劇であるはずがない。

 一筋縄ではいかないまったく新しい『こうもり』。初日の幕が上がるのが楽しみで仕方がない。


東京二期会オペラ劇場『こうもり』

11月22日(水)18:30、23日(木・祝)14:00、24日(金)17:00、

25日(土)14:00、26日(日)14:00

日生劇場にて。

公演詳細はこちらから。



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