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医師のキャリアパスにもプロのアドバイザーがいた方が良いのでは?

私たち医師は、スタート時点はみんな似たような感じですが、何年か経つとキャリアパスが多様になっていきます。

医師の一般的なキャリアパス

ざっくり言うと、医学生は大学を卒業すると、まずは大学病院や基幹病院で基本的な初期研修を受けます。その後は各専門科に分かれて専門研修を受け、それを終えると一応一人前と見なさレます。その後は、大学病院や基幹病院に勤務するか、市中の病院やクリニックに勤務する期間があり、そのまま昇進していく人もいますが、どの時点かで勤務医をやめる人もいます。勤務医を辞めた後は、大抵は自分で開業というコースになります。

ごく稀に、基礎研究者になる、という人もいます。卒業と同時に研究者になる場合もありますが、そうでなくて最初は臨床をやっていても大学院か留学時代に基礎研究の面白さに目覚め、そのまま研究者になるというパターンもあります。だいたい30代半ばぐらいまでに進路変更することが多いのではないでしょうか。40歳以上になってから、研究者の道に入る人は極めて稀な気がします。

最近は、それ以外の道にチャレンジする人も出てきました。例えば、自分で起業するとか、製薬会社やコンサルティング会社にお勤めする人とか。ただ、まだ相当な少数派なのと、そういうのはZ世代の若者に多い気がします。

なので、30代半ば以降ぐらいで病院を退職すると、大抵は開業するパターンが多いです。私も、常勤の勤務を辞めた時、何十人もの人から「開業するの?」と聞かれました。でも、病院の仕事とクリニックの仕事はかなり内容が違うんですよね。

こういう感じで、ある程度の時間が経つと、それぞれの進路にみんな分かれていきます。こういうキャリアパスを、若いうちからしっかり考えている人はいるのか?というと、上記の若いうちから違うことで起業してしまう若者を除いては、割とみんな流されて来て、ある時岐路に来てから考えるという感じに思えます。パターンがいくつか決まってしまっているから、その中から選ぶしかないせいなのかもしれません。

でも、「ああこれ、若い頃から知ってたら、違う選択肢をとったのに〜」と思うことも、時にはないでもないのですよね。


一般企業では人事部の人がキャリア相談にのるらしい

ところで、先日とある企業にお勤めの友人とお話ししていて驚いたことがあります。一般企業では社員のキャリアパスは人事の方も交えてかなり若いうちから個別に相談するんだそうです。

その友人が勤めているのは、誰もが知る大企業なので、全部の企業がそういうわけでもないのかもしれません。ですが、その友人曰く「最近は終身雇用でないのが当たり前の社会になってきたので、人事関係の専門の部署の人たちが社員に“将来はどういうキャリアパスを希望しているんですか?”ということを聞いてくる」ということです。

そして、聞かれた方の社員も「3年後までにこれこれのスキルをつけたら別の会社に転職したい」とか「いずれは自分で独立したい」というようなことを割とオープンに話すのだそうです。すると、それに対して人事の人も、「ではあなたの希望も考え合わせて、来年度はこんな仕事をしてみましょう」という感じで、部署異動などにも反映させてくれるとのこと。

もちろん、そんな絵に描いた餅のようにいかないケースもあるだろうし、ときには「今回は希望に添えないけど我慢して」ということもあるだろうと思います。だけど、私が一番驚いたのは、それを会社の人事部が”ちゃんとした仕事の一環として”公に実行している、ということです。


医師は誰にキャリア相談をしているのか?

翻って、病院の人事といえば、特に私たち医師の場合には、それぞれの部署に一任されているような感じです。もちろん専門科が分かれてしまっていて、医師同士でも他科のことは口出しできないようになっているので、人事部が介入するなどは一見不可能そうに思えます。

だけど、自分の過去を思い起こしてみたら、そうやって自分のキャリアパスについて、20〜30代の頃から第三者的な視点で何か言ってくれる人がいたらよかったのになあ、と思わないでもありません。

実際に相談に乗っている人たちは誰なのか?

いや、自分が20〜30代の頃も、相談相手はいましたよ。相談相手は主に

1 上司(教授・医局長など;大抵は男性、専業主婦の奥さんあり)
2 先輩(自分の施設・他の施設に勤務、同じ大学の卒業生が多い)
3 同僚・友達
4 自分の親・兄弟など

こんな感じです。ただ、これだと色々問題があります。

1 上司(教授や医局長など)

男性で出世を狙っている人にとっては良い相談相手なんだと思います。「教授になりたいんなら、30代の間に留学して、論文をこのぐらいは書いて、臨床経験もこのぐらいは積まないとダメだよ。」というようなことを指南してくれるでしょう。

ただ、この場合の問題は、教授や医局長などは、自分の医局を管理しなくてはならない立場にあるので、相談してきたドクターのためを考えると同時に、全体のバランスを考えます。すると、相談者本位の回答になりきれないことがあるんじゃないかと思います。例えば、「この人は本当なら来年度ぐらいには大学院で研究をさせた方がいいな」と思っていたとしても、「でも来年度は3人開業してやめるから、診療を回すための人手が足りない。今、大学院に行って抜けられると困る」と言うような心理が働くこともありそうです。すると、「悪いけど、もう2〜3年待ってくれないか」と言うことになります。それで数年後に状況が改善されればいいのですが、また別の何人かが辞めたりすると問題はずっと先送りになるかもしれません。そうやって全体の短期的な利益を優先させ続けた結果、個人のキャリアパスが犠牲になってしまう、と言う可能性もあり得ます。

さらに、女性医師(でなくても男性医師でも)で家族の世話をしたいと思っているような人には、上司はあまり良い相談相手とは言えないかもしれません。何しろ、教授や医局長などの多くは専業主婦の奥さんがいる人たちが多いので、「子供にご飯を食べさせて、いつもの時間に寝かさないといけないから早く帰らなきゃいけない」とか、「熱が37.5℃以上だと保育園は預かってくれない」ということは知りません。いくら説明しても、ちゃんと理解してもらえることはないと思った方が良いでしょう(許可してくれたとしても、「なーんか違うんだよな・・・」と思うことしばしば)。たまーに例外的にすごく相手のことを想像できる人もいますが、極レアケースだと思っておいた方が良いです。

2 先輩

これは非常にばらつきが大きいです。なぜなら、人によって仕事への取り組み方も価値観もバラバラだからです。そして、普通の人は誰しも自分を基準に考えて意見を言うものです。その人が歩んできたキャリアパス以外の経験値がないので、それ以外のアドバイスについては、全くあてにできない場合がほとんどです。これは仕方ありません。先輩は、カウンセラーでもなくキャリアアドバイザーでもないんですから。

また、ああしたらとかこうしたらとか言っても、その人には人事権はありませんから、単なる愚痴の言い合いになって終わることもままあります。

3 同僚・友達

これは、2の傾向がさらに強まります。同世代の場合には、自分と同じような体験しかなく、未来のことは全て想像で話をするしかありません。友達は、励ましあったり切磋琢磨し合うにはとても良いですが、相談相手としてはどちらかと言うと不適切ではないでしょうか。

4 自分の親・兄弟など

相談相手としては最も不適切なのではないか、と思います。親や兄弟が同業者の場合には、多少の参考にはなるかもしれません。しかし、親は子供の人生に対して思い入れが強すぎます。どうしても、子供が無駄な苦労をしないよう、辛い目に遭わないように、転ばぬ先の杖を差し出したくなるし、それが却って本人の成長を妨げる可能性もあります。特に、今の時代は時代の変化が急速でテクノロジーも価値観も大きく変わっている時期に生きていますから、次の世代にアドバイスするなんて無理ではないでしょうか。兄弟は同業者であっても、先輩や同僚と同じかと思います。

と言うことで、どの選択肢もいろんな意味でトリッキーだと思うのですが、それでもなんとなくみんな、手探りながらも身近な誰かに時には相談し、時には相談なしで自分で考えるなどしてキャリアを築いているというのが現状だと思います。


もし医師専用のプロのキャリアアドバイザーがいたら

でも! 
もしプロのキャリアアドバイザーのような人がいたしたらどうでしょうか。自分のことを振り返って考えても、少なくとも20代から30代前半ぐらいの頃に、「将来こう言う場所で働きたいと言う希望があるのであれば、何歳までにこのぐらいの知識とスキルは身につけておいた方がいいですよ」と言う目安を教えてくれる人がいたら少し状況が違ったんじゃないかと思うことはあります。そして、第三者として雇用条件などの交渉を手伝ってくれるような人がいたら、さらにいろいろなことが変わったんじゃないかな、と思います。

そして、実はその方が、雇用者側(病院側)にとっても多様性を増やして、全体の収益を上げる方向に作用するんじゃないだろうか、と思うのですよ。と言うのは、適切な助言が得られず交渉が決裂してしまったために、病院を去ってしまった優秀なドクターという人たちを何人も見てきたからです。その人たちが去った後、病院は働き手と指導者不足に苦しんでいました。もっと手前の交渉の段階で、第三者を入れることでうまく人事の問題を解決できたことって、たくさんあるんじゃないのかな、と思うのです。

現在も、ある程度の年齢になった医師に就職を斡旋してくれる会社はあります。しかし、多分そういう会社を頼る人は、ある程度専門研修も終わっていて、組織から離れてしまうタイミングになってからということが多いと思うのです。もっと若い、これからキャリアパスを築こうという早い段階で、豊富な知識があり第三者的な視点で相談に乗ってもらえて、さらに組織との交渉もサポートしてくれるような人やシステムがあったら、意外と良いかもしれません。


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