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オランダ国王の日はWin-Winの殿堂フリマを楽しもう!

4月27日の国王誕生日はオランダ人の大事な祭日で、全国がオランダ王室のカラーであるオレンジ色に染まる。そして、この日は市民がフリーマーケットを開ける日でもあり、街の広場や公園では、敷物を広げて家のガラクタや自宅で焼いたクッキーなどを売る人々でごった返している。

私はオランダに住んで19年。これまで一度もフリマに参加したことがなかったのだが、子どもたちが使わなくなったオモチャなどが溜まってきたので、このたび初めて「出店」することにした。家を整理したら、大きな段ボールに6~7箱ぐらいは売り物が出てきた。よ~し、売るぞ~!

拍子抜けした場所取り

アイントホーフェンの繁華街や近所の大きな公園は、明け方ぐらいから(アムステルダムなど大都市では前夜から)場所取りが必要らしいが、うちの近所の住宅街はのんびりしたもので、フリマ運営委員に事前に問い合わせたところ、「9時半ぐらいに来てもらえれば大丈夫ですよ。十分に場所はありますから」と言われた。

それでもちょっと不安になって、8時半ごろに息子たちと敷物を持って出かけたところ、本当に誰もいなかった。一組だけ、イスラム系の若いカップルがテレビやらベビーベッドやらを車から運び出していた。

「テレビは売り物?」と聞くと、「そうよ、20ユーロ。あなたの息子さんのお部屋にどう?」と早速勧められた。
「う~ん、子供たちはスマホばっかりで、テレビは全然見ないのよね…」というと、「だから私たちも要らなくなっちゃったの」と言っていた。

捨てる神あれば拾う神あり

私たちの「店」に並んだのは、サッカーボール(12コほど)、ローラースケート、スケボー、ボードゲーム、オモチャ、ぬいぐるみ(いっぱい)、日本やアジア各国の土産物、本、写真立てなどなど……。とにかく要らないものばかりなので、50セント~2ユーロぐらいの安めの価格設定にした。

予想していた通り、サッカーボールとぬいぐるみはよく売れた。昨今の物価高であまりオモチャを買ってもらえない子供たちも、今日は自分のおこづかいで買えるものがいっぱいある。お金の価値がこれほど上がることもそうそうない。自分たちがガラクタを売った売上金で、何度もうちの商品を買いにくる「お得意様」も結構いた。

うちの息子たちが見向きもしなくなったぬいぐるみやオモチャを誰かが買ってくれて嬉しそうにしている姿を見ると、「ああ、いい子に引き取られてよかった」としみじみ思う。フリマって最高!

オモチャをたくさん買ってもらって大満足の子どもも、帰り際に父親に話していた。「毎日がこんな日だったらいいのにな!」

グッドカスタマーのおじいさん

子どものオモチャやスポーツ用品がよく売れる中で、日本から持ってきた物品や中国、ベトナム、タイ、ミャンマーなどで買ったりもらったりした土産物はなかなか売れなかった。例えば、馬の絵が描いてある掛け軸やパンダの絵が描いてあるクリスタルの壺、一輪挿し、羊毛のマットレス、ランチョンマットなどなど。それぞれ割といい品なのだが、オランダ人の家の雰囲気にはあまりマッチしないのだろう。

ほとんどは売れ残って、また家に持ち帰ることになるのかな……と思っていた矢先、電動カートに乗ったおじいさんが、ゆっくりと近づいてきてアジアの物品の前に停まり、手を伸ばして馬の絵やら中国の壺などを子細に眺め始めた。80歳前後といったところか。ハンチング帽をかぶり、痩せたジェントルマンだ。

「これは、いくら?」
「この辺のものは、全部50セントです」
「これは?」
「これは1ユーロです。中国で買ってきた工芸品で、とてもいい品物なんですよ」
おじいさんは震える手で小銭入れからお金を出すと、壺と馬の絵をお買い上げになった。
「ありがとうございました!」
おじいさんは電動カートでヨロヨロと家に帰っていった。

しばらくすると、また同じおじいさんが電動カートで戻ってきた。そして今度は意外にもサッカーボールと、子ども用コンピューターのオモチャを購入した。きっと、男の子のお孫さんがいるのだろう。

そしてまた、アジアの物品を物色し始めた。どうやらちょっとした「目利き」らしく、ガラクタの中でも割といいものを目ざとく指さしては、「これは、いくら?」と聞いてくる。私も売れ残ると思っていたものがバンバン売れるので嬉しくなって、「これは2ユーロですけど、1ユーロでいいですよ。すごくお買い得ですよ!」などと調子に乗って売りさばく。おじいさんもさらに勢いづいて、どんどんお買い上げになり、車いすのカゴや足元は荷物でいっぱいになってしまった。

おじいさんも普段は年金でつつましい生活を送っているのかもしれない。この日は思わぬ収穫を得て、孫にプレゼントまでできちゃって、なんか気が大きくなってきたのだろう。50セントのランチョンマットを買うとき、1ユーロを手渡して、「釣りは要らないよ」と手で制するようなジェスチャーをした。そのときの彼の誇り高き微笑みといったら…!

おじいさんはいい気分になっているし、好きなものが手に入ったのだし、私は家のガラクタを一掃できて清々しい気持ちだし、まさにWin-Win状態。

しかし、おじいさんが去った後、一緒にフリマを手伝ってくれていた友人が言った。
「おじいさん、大丈夫かな。ちゃんと判断できていたかな。
ちょっと尿漏れの匂いもしていたんだけど……」
!!!

私はボケた人を煽って「爆買い」させちゃったのだろうか…?!でも、おじいさんの選択を振り返ると、いい物ばかりを破格で買って行った。彼はボケていない。自宅に帰って、おばあさんに「また余計なもの買ってきて!」と怒られているかもしれないが……。

そんなグッドカスタマーのリピート買いにも助けられ、私たちのフリマは成功裡に終わった。売上高は約57ユーロ。段ボール6~7個だった荷物は、帰りには2つまで減った。自分のガラクタが誰かのお宝になる。なんという充実感。そしてなにより、友人と太陽の下でおしゃべりしながらゆっくり過ごした1日は、何物にも代えがたい、とても楽しい1日だった。

国王の日、もしお天気がよければ、ぜひまたフリマに参加したい。


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