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出直し金読本009 万一の備え

 金は利息を生むことがありません。配当という果実をもたらしてくれることもありません。そのため現在のようにドルの金利がゆるやかに上昇する局面においては、ドル建て金価格は、どうしても軟調になります。金の最大のデメリットは、「金利に弱い」という点です。

 したがって、もしも世の中が平和で政治や経済も安定していたとしたら、金はたちどころに出番を失い、大きく売り込まれても不思議ではありません。ところが、大方が感じているように世界の現実はとても厳しく、過酷な状況が続いています。

 天然資源の宝庫である中東地域では、周辺各国や大国の思惑が錯綜し、いっこうに混乱が収まる気配はありません。リーマンショック以降、EU懐疑派がゆるやかに台頭していた欧州にはシリア難民が大挙して押し寄せ、域内の拒絶反応が一気に高まり、愛国主義が勃興しています。

 世界最大の金融経済大国アメリカの大統領は「アメリカファースト」を唱えるのをやめず、主要先進国の間で孤立感を深めています。ロシアとの関係、欧州との関係、中国との関係は、かつてないほど緊張が高まっています。数え上げればキリがないほど世界中にリスクは偏在しています。

 不測の事態などというものは稀にしか起きないものですが、起きるときには起きるというのが歴史の教えるところです。しかも最悪の時に重なって起きたりするものです。

 そうした万一のリスクへの備えとして保有するもの、それが金です。利息とも配当とも無縁という欠点はありますが、その反面、金は信用リスクなどとも無縁の存在ですから、紙くず=無価値になることがありません。突き詰めれば希少性の高い「モノ」ですから、インフレなどの経済リスクに強い性格も持っています。

 金の役割は、そのキラキラと輝く派手な外見に似ず、じつに地味なものです。たとえ20年保有しても、30年保有しても、いつか役に立つときまで、ただ静かに輝き続けているだけです。それが金地金であり金貨といった現物です。

 もしも金と付き合うのであれば、価格が上がったとか下がったとかに一喜一憂することなく、金の役割は「万一の備え」にあると認識して泰然としていることです。「手っ取り早く儲けたいので、それは無理」と感じる人は、近づかない方が良いでしょう。

 手っ取り早く儲けたいという向きは、価格が乱高下する、たとえばビットコインなどで遊ぶのが良いかも知れません。ただし、手っ取り早く儲けたいという欲望は、手っ取り早く損をするという結果に結びつきやすいもの。くれぐれも用心しつつ遊んでください。


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