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春の雨に

早朝、久しぶりにさっぱりと目が覚めた。
ここしばらく、花粉症のせいで、
目鼻ぐずぐずの、くしゃみ連発の目覚めが
つづいていたのだった。
昨日からの春雨に気温が下がり、
今年の花粉も落ち着いてくれたかと、
ほっとした。
着替えて散歩に出れば、雨上がりの空気が
ひんやりと気持ちが好い。
善光寺の参道を横切っていくと、参拝客の姿が
すくない。
7年にいちどの大行事、御開帳が始まって
2週間余り。
コロナ禍での混雑を避けるために、このたびは
開催期間を一か月伸ばした。
そのせいなのか、いつものような混雑も、
車の渋滞もなく、ゆっくりとした気配の
陽がつづく。土産物屋の奥さんも、
蕎麦屋の御主人も、顔を合わせれば、
ひまだよ~とこぼしている。
長野市のコロナ感染者が増えていたこの頃まで、
旅館や宿坊もキャンセルが相次いだという。
こんどばかりはお客の流れが読めないと、
商売を営むかたがたも戸惑っているのだった。
桜枝町をすぎて行くと、家々の軒先に、加茂神社と
書かれた提灯がぶら下がっていて、
本日は、西長野町の氏神さん、加茂神社の
春祭りだった。
その先の新諏訪町に行くと、今度は
諏訪神社の提灯がぶら下がっていた。
神社に向かって歩いていくと、鳥居の前で
近所のかたがたが、おおきな旗を立てて、春祭りの
支度を整えていた。
挨拶をして、鳥居の先の急坂を上がり、
神社にお参りをした。
そのまま進んで、夕陽が丘団地に入れば、
おおきな桜の木が、夜半の雨にもへこたれず、
見ごろを保っていた。
往生地の高台から眺めれば、彼方の山並みをおおうように、
柔らかな雲が流れていく。
ひと声、うぐいすのきれいなさえずりが、
耳に飛び込んできた。
湿った藁の匂いを吸いながら歩いていくと、
道沿いの畑には、菜の花の黄色が冴えている。
里山の木々もすこし色味を増してきて、
新緑の季節の気配がうかがえるのだった。
くねくね坂を下っていくと、霊山寺の境内の桜が
目に留まる。
境内入口の墓地には、長野にゆかりの日本画家、
東山魁夷さんが眠っている。
自宅のすぐそばに、東山魁夷館が在り、
気が向けばいつでもこのかたの、深くて静かな作品に
触れられる。ありがたいことだった。
手を合わせ、墓地の先へ行けば、
そこには、長野県警の殉職された警官の
慰霊碑が建っている。明治から平成まで、
職務で命を落とされたかたの名前が刻まれている。
長野が平和でありますように。深々お祈りをした。
坂道を下りて善光寺へ戻ってくれば、
浄土宗の坊さんたちの読経が本堂に響いていた。
黄金週間が始まれば、人の流れも増えるかな。
ひと気のまばらな境内で、本堂前の、
回向柱を見上げたのだった。

鶯のひと鳴きだけやいさぎよく。




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