見出し画像

東京まで。

日曜日、仕事を早めに終いにして、東京へ出かけた。
こだわり酒場レモンサワーと角ハイボールを飲みながら
上野まで。鶯谷の東横インにチェックインをして、
さて、今宵の一杯をどこでやろうか、駅のまわりを
徘徊する。鶯谷は初めての地。ラブホテルが多いと
聞いていたものの、駅の南口にそれらしきビルは
見当たらない。よしんば見つけても、心身ともに
しょぼくれたおっさんは、ときめくこともないのだった。
駅前から大きな道路を渡って、ひと気のない住宅地を
さまよっていたら、ぽつんと看板の灯りが見えた。
近づいていくと、菊姫とナチュラルワイン 磯次郎と
描いてあり、石川の銘酒,菊姫の幕が張ってある。
菊姫とナチュラルワインか。面白い組み合わせと
暖簾をくぐった。
店内は、カウンター八席だけのちいさな店で、
先客は常連とおぼしき若いカップルが一組だけ。
カウンターのはしに落ちついて、
アサヒ熟選プレミアムをいただく。
黒板の品書きを見れば、洋食の肴が並ぶ。
スズキのカルパッチョをつまみながら、久しぶりの
菊姫の山廃純米を頂いた。
店を営むご主人は、若い男前の寡黙なかたで、
注文を受けるとき以外は話しかけてこない。
こちらも気を遣うことがなく、菊姫の厚みのある旨味を
味わった。追加で菊姫の普通酒と軽めの
白ワインを頂いて店を出た。
カウンターの普通酒の一升瓶に、暖房の風がじかに
当たっていたのがいささか気になったものの、
料理も旨く、値段も手ごろで、初めての店で
くつろいだのだった。
翌朝、西日暮里から地下鉄に乗って乃木坂まで向かった。
通勤時間をずらして乗ったつもりが、車両は
ぎゅうぎゅう詰めだった。
朝が始まったばかりなのに、座席に座っているかたは、
頭を垂れて寝ているかたが多い。
目の前の座席の、髪の乱れたお兄さんは、ごうごうと
でかいいびきをかいて爆睡している。
夜勤明けなのかな。お疲れ様ですとねぎらいたくなった。
隣の茶髪のお姉ちゃんは、まるで気にするそぶりもなく、
スマホのゲームに熱中している。
横浜の大学に通っていた頃、毎朝満員電車に揺られて
通学していた。それだけでくたびれてしまい、
授業中は居眠りばかりしていたっけ。
日夜東京で働いている人々を目にすると、
その気張りようを、
つくづく偉いと思ってしまうのだった。

千代田線響くいびきや冬うらら。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?