見出し画像

松本市美術館まで。

松本市美術館へ出かけた。
須藤康花さんという、夭折した画家の作品展を開催
しているのだった。
会場の入口に遺影が飾ってあった。
意志のつよそうな目をした、きれいなかただった。
幼いころ、重い病気にかかり、ほとんど学校へ行けず、
入退院を繰り返していたという。そのさなか、絵を
描くことが好きで、大きな公募展で入賞を果たして
いる。十四歳のときに母親を亡くし、自身の闘病も
あり、死ぬことが身近になる中、自殺を考え、遺書を
書いたものの、絵画への思いがとどまらせ、その後も
たくさんの作品を制作した。会場には、幼少の頃から
成長する過程に合わせて、年代別に作品が展示して
あった。死と向きあう自身の内面を描いた作品は、
緻密で闇の中の光を感じさせ、まるで生と死の
つながりを深く静かに伝えてくるようだった。
作品の合間に、いくつもの詩も展示されていて、
目を背けず、自身の病と死と向き合って描きつづけて
いたことが察せられた。進学した多摩美術大学では
銅版画を専攻した。モノクロの作品は、どれも黒い影
の部分が多く、それがかすかな光の存在を
引き立てて、そのかすかな光に、限られた
生への思いが感じられたのだった。
三十歳で亡くなるまでに千点の作品を残したという。
残された作品は父親の正親さんが保管して、2012年
に、松本市に康花美術館を開館した。
美術館の協力のもと貴重な作品の数々に触れることが
でき、好い時間を頂けた。
会場を出ると、館内の別の会場で、地元の
エクセラン高校の美術科の作品展が開かれている。
ちょいと拝見するかと会場に入ったら、おしゃれな制服
の子供たちが迎えてくれた。
油彩画に水彩画に立体物、子供たちの個性が反映された
作品が並んでいる。
三年生の卒業制作テーマは、「泥中に咲く僕ら」で、
十人の作品が展示されていた。「泥中」は、楽しかった
事、辛かった事、もがいてきた三年間の積み重ね。
「咲く僕ら」はその経験から作品が咲くという意味と
いう。須藤康花さんの死と向き合った作品を観て、
明るく健気な子供たちの作品を観たら、なんとも胸が
切なくなった。将来有るこの子たちが、これからも
素敵な作品を作っていけますように。

春の空光かすかな生を往き。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?