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戸倉上山田温泉で。

三月も終わるというのに、寒さが
ぶり返している。
久しぶりに温泉で体を温めたいのおと、
戸倉上山田温泉に出かけた。
長野駅からしなの鉄道に乗って三十分。
久しぶりの湯の町に降り立った。国道を渡って、
廃業した酒蔵の脇の小路を抜けていくと、
水上布奈山神社にぶつかった。
隣接する幼稚園のちびっ子たちが境内で遊んでいる。
賑やかな声を聞きながら、湯の町の無事を拝んだ。
向かいの戸倉小学校の校庭で子供たちがボールを追って
走りまわっている。千曲川にかかる長い大正橋を渡って
いくと、清々しい青空の向こうに真っ白な戸隠山と
妙高山が輝いていた。橋を渡った正面に、
佐良志奈神社の広い境内がある。
階段を下りた先の拝殿に、再び湯の町の無事を拝んだ。
戸倉温泉から上山田温泉へ歩いて行くと、立ち並ぶ
旅館やホテルの間に、つぶれた床屋や花屋や食堂が在り、
わびしい。
両親が元気だった頃、正月をここで迎えたことが二度
あった。
一度目は有田屋に、二度目は中央ホテルに泊った。
前を通り過ぎながら、
両親と旅行をすることはもうないのだと思ったら、
懐かしく切ない気分になってしまった。
あてもなく小路をうろついていくと、先々にスナックや
飲み屋の看板が並んでいる。どの店も年季の入った
外観で、町が栄えし昭和の風情を残している。
廃れた家屋に混じって、新しい家が点在していて、
温泉に惹かれて住みついたかたもいるのだろうか。
町のあちこちに外湯が在って、住民はお安く入浴できる
という。なんともうらやましいことだった。
ホテル・ルートインに荷物を預けたら、万年橋を渡って、
温泉施設の白鳥園へ行く。駐車場にけっこうな数の
車が停まっていたのに、浴場に入ったら、地元の
おじいさんが五人湯船に浸かっているだけだった。
柔らかな湯に、心身ゆっくりくつろいで、大広間で、
焼き鳥と枝豆をつまみに黒ラベルを飲めば、まこと
幸せな気分になったのだった。
ホテルのチェックインに合わせて、白鳥園を出て、
再び万年橋を渡って行く。
時計を見ながら歩いていたら、三月十一日、この日の
二時四十六分を迎えた。災害のない平和な毎日が
続きますように。橋の上から東北に向かって、
しみじみ手を合わせたのだった。

橋上で祈る三月東北へ。






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