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蕎麦屋にて。

善光寺門前、馴染みの蕎麦屋、かどの大丸へ
うかがった。
その名のとおり、善光寺入り口のかどに在る。
風格ある古い店内は、いつもお客でにぎわっている。
テーブルに座って、キリンのラガーの大びんを
空けながら見渡したら、
窓際の入れこみに、親子の3人連れが居た。
髪の長い、きれいなお嬢さんは20代半ばか後半か。
蕎麦が運ばれてきて、食べる仕草に、思わず目が留まる。
口の中いっぱいにほおばって、
ほっぺた膨らまして、もぐもぐしているのだった。
蕎麦はほおばるもんじゃなくて啜るもの。
餅を食ってんじゃないんだから、野暮っちいなあと、
ビールも不味くなる。
両親二人目の前にいるのに、子供のそんな食べ方は
気にならんのかね。
食べ終わって席を立った姿を見たら、
ヒールの高い靴を履いた、すらっとした身なりは
美しい。
それだけに惜しい!じつに惜しい蕎麦への仕草だった。
かく言う我が身も、はしご酒に酩酊すれば、
飲み食いがだらしない。
酔って記憶をなくすこともざらだから、
その間の仕草なんて怪しいものだった。
もう歳も歳。
気をつけなきゃいけないのだった。
春彼岸のさなか、友だちと県町の蕎麦屋、さがやで
昼酒を交わした。
入れこみに落ちついて、まずはビールで乾杯する。
テレビでは、カーリング女子の中継を流していて、
中部電力がアメリカに僅差で勝利した。
しかし、中部電力の選手はみんなきれいだねえ、
見惚れるねえなどと言い合いながら、
板わさと天ぷらと砂肝焼きをつまみに、
小布施の豊賀と、信州新町の十九の杯をかさねた。
帰り道、ふたりで浄土宗の古刹、
西方寺の門をくぐる。
友だちは、かつての同僚のお参りを、
こちらは、4年前に亡くなった、かどの大丸の
若旦那のお参りをした。
若旦那にはきれいなお姉さんがいて、
今、職人さんを使いながら、店を切り盛りしている。
亡くなる前に、宮入さんと結婚するように。
遺言を残しておいてもらいたかったなあ。
じつに惜しいことだった。
この3連休、善光寺にずいぶんと参拝客が来ていた。
御開帳が始まれば、さらにお客の数が増え、
馴染みの蕎麦屋も混雑する。
御開帳が終わるまでは、ゆっくり昼酒のひとときは
我慢なこととなり、ちょいとさみしいことだった。

彼岸くる友の戒名十一字。

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