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『東京の実家までウーバーお土産♫2年ぶりに会った母の顔は…』



『なおみちゃん、
 コロナが怖いから帰って来ないで。』

間もなく90歳になる母は
難病と闘う姉と実家で二人暮らし。

きっと
自分のことより
ワクチンを打てない姉のことが心配なのだろう。

とは言え、
もう2年以上、
直接、顔を合わせて
言葉を交わすことが出来ていない。

500キロあまりの距離が恨めしい。



電話で話していても
『ごめん、よく聞こえないの。』と
なかなか気持ちを通じ合わせることも出来ない。

母の携帯代金は私が払っている。
「スマホにしたら、顔を見て話せるよ。」
と言っても
『この歳で、もう新しい機械は分からないから。』
泣きそうな声で言われると
それ以上、ゴリ押しは出来ない。

いつもメール。
2年以上メール。
時々、電話。



実家のドアがパタンと閉まる。
カチャン。
冷たい金属の音がしてロックがかかる。 
次の瞬間、
『なおみちゃん、開けてぇぇぇーっ!』
ドアの向こうで
泣き叫ぶ母の声が響き渡る。
ドアは開かない。

そんな夢で朝、目が覚めた。
もう居ても立ってもいられない。



数日後、東京で用事がある。
実家に帰ろう。

渡しそびれていた姉へのお土産や
母の好きな虎屋の羊羹を持って
ウーバーお土産して来よう!!
会えなくても良いから。



決意から数日後、
500キロの距離を超えて…
私は実家のドアの前に立っていた。
お土産の紙袋をドアノブに下げて、
ノックをする。

すかさず10m以上、離れる。
出てこない。

もう一度ドアに近づきノックをする。
『はーい。』

またまた10m離れる。
ドアの横から小さくなった母の顔がのぞく。

あー…
元気そうだ。

『あら、まあ、神戸から遠いのに…。』

言葉に詰まる母。
『お姉ちゃん!お姉ちゃん!
 なおみちゃんが来たよ!』

「元気そうで良かった!」
私もウルウルしてしまって言葉が出ない。
「もう良いから、中に入って!
 紙袋を取り入れるの忘れないで!」

『はいはい!じゃあね、有難う』
母も姉もただただ手を振るばかり。

私も精一杯、大きく手を振りながら
一歩ずつ家から離れる。

4時間かけて…会えたのは数分。
それでも、
大切な大切な数分。

昨日より
安心して生きて行ける。

「来て良かった。」
気持ちが温かくなった。



大切な数分を胸に
また来た道を戻り駅へ向かった。

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