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映画の料理 『クレイマー、クレイマー』のフレンチトースト


これは『活きた食のシーン』の映画紹介です。 
私は某民放で撮影現場に15年ほどおりました。
そこは報道や番組内、企業広告などで、料理がらみの撮影を担当する部屋でした。

その時の上司(女性)は映画マニア。
マンションのリビングに並んだ壁いっぱいのDVDを眺め、ビール片手に自分は独りで死んでいくんだろうなあ、と苦笑いしてつぶやいたのを覚えています。

彼女はいっとき、系列新聞に1ページで
映画と料理の連載を担当していました。
彼女の趣味が満たされた仕事。そういう分野に紙面をさくゆとりある時代。

映画やドラマの食事シーンは、
状況を一発で伝えることが可能です。


誰が作り、誰と、いつ食べるか、買ったのか作り置きか、
メニューや食卓の様子など、
映像の中に、伝えられる情報がたくさん満載されています。
そこに俳優さんのセリフが加わります。

さて、このテーマで筆頭にあげたいのは、
ご存知の方も多い有名映画。

「クレイマー、クレイマー」で
父親が息子に作るフレンチトースト
です。

この映画は、一人息子を持つ夫婦が
離婚訴訟で結審するまでを描いた物語。

大手広告会社の敏腕営業マンの夫は、
昇進の内定を受け、喜んで家に帰ると、突然、
妻が5歳半の子供を置いて家を出るところから
映画は始まります。

仕事人間で家事をしたことのない夫が
子育て奮闘生活
を余儀なくされます。

初めて作る朝食のフレンチトーストのシーン
強がってあれこれやっている父を、
息子が見ている。
トーストが焦げ、熱々に焼けたフライパンを
父が素手で掴み、フライパンごと床に落とす
凄まじい音、腹立たしさで叫ぶ父を、
5歳の息子は、恐怖と心細さで見つめる

この生活の間、息子は顔を10針縫うケガをし、父親は仕事に影響を来たし、
裁判直前に仕事をクビになり、
親権争いで不利にならぬよう条件の悪い転職をも
飲み込む。

こうして現実に必死に向き合う二人の絆は
しっかり強くなります。
しかし訴訟では、
妻に息子を引き渡す審判が下ります。

父と息子の1年半に渡る二人だけの生活に、
別れの朝
が来ます。

その時に焼いたのはフレンチトースト。
初日の騒がしかったキッチンは、とても静かで、
父と息子は無言で一緒に
手際の良いフレンチトーストを焼きます

夫(父)をダスティン・ホフマン、
妻(母)はメリル・ストリープ。

まだ若いふたりの名優は、どの瞬間の表情も
圧巻で胸が詰まります。

■動画は字幕がありませんので先に台詞の要約をお読み頂くと内容がわかります。

《初めてパパがフレンチトーストを焼く》

さあ!ミルク、バター、たまご、なんでもあるぞ、ふたりでつくろう、
お前は一番の助手だからな!
見てろ 片手だからな(卵を割る)、行くぞ、
腕のいいコックさんは皆、男なんだ。
すごいだろ、これからずっと焼いてやるぞ


カラが入ったよ

いいんだ、少しバリバリした方が味がよくなる
コレ(卵)をかき混ぜろ、
ビーターがあっただろ
学校は何時からだ?


8時半

じゃあ急がなきゃ、シャワーも浴びてヒゲを剃って、パパには仕事もある、今日からは食事の支度もある。フライパンはどこだ?


ストーブの中だよ

ストーブな、よし、あったぞ、
おい、卵はもっと早くかき混ぜなきゃ。
だめだよ、かしてみろ、見てろよ、
手首、手首、な、
そして、ここにパンを浸すんだ、よし、
あ〜、え〜、(マグカップにパンが入らない)
二つ折りのフレンチトーストだ、


牛乳忘れてるよ、

忘れてるんじゃない、牛乳は最後でいいんだ、
楽しいと大事な事を忘れがちだけど、お前の注意力を、ちょっと試しただけさ
楽しいだろ?な!
ママも手伝わせたか?


バラバラのなんてイヤだよ

バラバラでも味は変わらないんだ、
それに一流の店でもフレンチトーストは二つ折りで出すんだぞ。食欲がわくんだ。

(息子のビリーが少し笑った)

お湯が沸いたぞ、フレンチトーストを焼いてる間にコーヒーをいれる!楽しいだろ!こんなに楽しいのは何年ぶりか思い出せない。
(コーヒー豆を入れすぎたコーヒーを入れ、息子にジュースをせがまれ、父が先にガブ飲みする。フレンチトーストが焦げる)

パパ、焦げてるよ!

(慌ててフライパンを素手で持ち、熱くて床にフライパンごと落とす父。大きな音、パパの絶叫。
キッチン台を蹴飛ばすパパに、怯える息子)

心配ない、今度はうまくやるさ

(この動画クリップには一年半後の二人の様子も連続して入っていますが、その説明はラストの動画の箇所で書いております)


《息子の反抗。ステーキを食べず、アイスクリームに手を出す。父、キレる!》

これなに?

ステーキだ

いやだ、変なのがかかってるもん。

グレービーソースと玉ねぎだ。

玉ねぎきらいだ!

先週たべたじゃないか。パパが子供のときの大好物だって言ったら、たべたくせに

言ってないよ

言った、いいから食べるんだ、

チョコレートチップアイスクリーム買ってきた?

ちゃんと買ってきたから心配しなくていいよ〜!
でもステーキを全部食べるまでアイスはやらんぞ

(息子は反抗して父の最終宣告の顔を睨みながら、アイスをクチに入れる。怒った父は息子をつかみ、部屋に放り込む)

パパなんか大嫌いだ!ママ、ママ
泣き叫び爆発する息子。
J&Bをストレートで飲む父。

その夜、息子は自分が悪い子だからママが出ていったのか?と父に聞きます。
わからないかもしれないが聞いてくれ、と言って父は息子に説明します。

パパはママを1つの型にはめようとしていた、
理想的の奥さんに。
でもママはそういう人じゃなかった
ママも幸せになろうと、パパと話しをしようとした、でもパパは仕事が忙しくてママの話しを聞こうとしなかった。パパが幸せならママも幸せだと思っていた。
ママはお前を愛してるから、ずっと我慢して家にいたんだ。でも、とうとうパパに我慢できなくなって出ていったんだ。

《父と息子の最後のフレンチトースト。親権が母親に下り、息子を迎えに来る》

キッチンは1年半前とは違う。
ふたりとも、一言もしゃべらず、
静かに一緒にフレンチトーストを作る。

そして、母が迎えにくるのをリビングで待つ。
ブサーがなる。

いいか?
無言で覚悟の表情を見せる息子。
すると妻はロビーに夫だけで来るように言う。

ロビーで別れた妻が待っている。

今朝起きて、
ビリーとここで暮らした日の事を考えてたの。
新しいビリーの部屋の壁にも、ここと同じ雲の絵を描こうと思った。ビリーがここに居ると思えるように・・・
・・・ビリーを連れに来たけど、
あの子の家はここよ、

ビリーを愛してるの。

泣き崩れる妻と、彼女を支える夫。

連れてはいかない
上に行っていい?
話したいの

君一人で行け。僕はここで待ってる

わたし、おかしくない?

素敵だよ

アカデミー賞作品賞をはじめ、数々の賞を受賞した家庭ドラマ。
ここにはフレンチトーストが最適でした。

食事にはドラマがあります。
長文になりましたが、家族、食事、絆をお伝えできればと思いました。

ご訪問いただきましてありがとうございました。心から嬉しく思います。


いただいた、あなたのお気持ちは、さらなる活動へのエネルギーとして大切に活かしていくことをお約束いたします。もしもオススメいただけたら幸いです。