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お笑いライブで泣きそうになった時の話

 先週、ブリキカラスが出演する「サンパチマイクに憧れて」というライブを、暴風雨のため泣く泣く見送りました。日付が変わって9月26日日曜日、ブリキの出演するネタライブ「ひるまによん」の開催日になりました。天気予報は曇りだった筈なのに、朝からぽつぽつと雨が降っておりました。

 ブリキのライブの時だけなぜか雨ばかり降るのがなんだか”らしい”なぁと思ってしまう。「荒廃した街の中で鼻水を垂らしながら漫才をやっていて欲しい」という、九番街レトロのお二人が言っていたイメージがなんとなく私の中にもある。

まによん

 とはいえ、幸いにも昼前に雨は止みました。曇天の中、ショクシツリスナーにとっての聖地(?)である新宿バッシュに向かいます。新宿のお笑いライブ劇場のバッシュやバティオスに行くときに「山手線でJR新宿駅まで行って歩くか、高田馬場で西部新宿線に乗り換えて西武新宿駅まで電車で向かうか」ということでいつも迷うのですが、今回は初めて西武新宿線を使ってみました。そしたら圧倒的に楽でした。JR新宿駅はいっつもゴミゴミしてるし、出口で迷うしでろくなことがありません。

バッシュ3

 バッシュは私の通ったことある地下劇場の中でも圧倒的にアングラ感が強い場所。設備が古いとか、簡素なパイプ椅子だったりとか、むき出しの配管に黒くペイントされただけの天井だったりとか、そういう外見上の雰囲気もありますが、客層を見ても本当のお笑いファンしか集まっていないような気がします。だからといって出ている芸人さんがつまらないとかいうことはなく、滑ってもそれも含めて楽しもうとするアットホームさがあって好きです。

バッシュ1

バッシュ2

 今回は「ひるまによん」というか、まによんさんのライブそのものが初めてでした。本当は先月に行く予定でしたが諸事情で中止になったので、今回のライブは余計に開催を待ち望んでいたものでした。

今回のお目当て

・評判の良いオープニングVTR

・三日月マンハッタンと浜村凡平太さんのユニット「三日月ヶ浜」の漫才

・ブリキカラス(推し)の漫才

 主にこの三つです。勿論、他にも元祖いちごちゃんや猫背うなぎ、TCクラクション、マザーさんなど楽しみな芸人さんはいっぱいいましたが。

 そしてなんといってもこのライブ、14時開演16時終わりという時間帯が、主婦にはとても都合がいい。昼ごはんを作って食べさせ、子守を夫にバトンタッチして夜ご飯には帰ってこれるという、理想的な時間帯です。土日でもなかなかこの時間帯のインディーズのお笑いライブは無いのでありがたいです。

オープニングVTR

 前述の通り、まによんさんのライブ自体が初めてだったのですが「オープニングVTRが良い」といううわさは以前から耳にしていました。で、とにかく、予想以上に素敵でした!!90年代ファミコンRPGゲームのオープニングのようなスタイル。レトロで軽快なチップチューンに合わせて、可愛らしいドット絵で描かれる芸人さんが次々と登場します。細部の表現まで拘っていて、ブリキカラスだったら画面両端からカラスが飛んできて二人のドット絵に変わるというような、遊び心と芸人愛を感じる手間がこめられています。前日あたりに急に出演することになった芸人さんのドット絵などもきちんと作られていて、大変だっただろうなあ、愛だなあ…。とじーんとしてしまいました。こういう細かいところでライブの主催者様への信頼感が高まるというか…主催者様ごと推せる!!と思わされます。

三日月ヶ浜の「空手」

 今回のライブで特に強く楽しみにしていたのは三日月ヶ浜のネタです。松竹芸能の又吉さんと仲嶺さんから成るコンビ、三日月マンハッタンと、元浜口浜村の浜村凡平太さんの3人で結成されたユニットです。

 2015年に解散した浜口浜村さんが、その前年のTHE MANZAIで披露したネタ「空手」は、東京の芸人さんやディープなお笑いファンの中では聞いたことのない人はいないくらい有名ネタなのだと思いますが、長らくお笑いの現場から離れていた私はこのネタの存在を今年の三月に初めて知りました。

 幸いなことに、浜口浜村が解散した後も、浜村さんがyoutubeでネタを上げて下さっているので見ることが出来ます。ひたすらに同じフレーズが繰り返され、漫才が進むうちにどんどんテンポが上がっていき盛り上がっていきます。ラストは陰鬱と言うかシュールというか、ちょっと哲学的なところもあって、大好きなネタです。動画越しにも伝わる当時の浜浜のお二人のチャーミングさとライブシーンでの人気っぷりにも圧倒されました。

 感じ方は人それぞれだと思いますが、私の好みにはドンピシャにハマり「こんなお笑いもあるんだ」と世界を広げてくれたネタです。その後も数珠ネタ揃いの浜村さんのyoutube動画のひとつひとつを漁りながら、「この現場に何で居られなかったのだろう」と悔しい思いを抱きました。

 そんな経緯もあって、このネタが生で見られた今回のライブは特別なものになりました。真ん中の仲嶺さんが「それ◯◯。空手。俺やるの空手だから」というツッコミフレーズをbotのように繰り返します。両端に居る又吉さんと浜村さんの二人のボケが大喜利みたいに交互にいろんな空手でない「◯◯」を出してゆきます。今回は仲嶺さんが浜口さんの役割を継承していましたが、声色とか言い方、リズムが本当に似ている。三人だと微妙にリズムが速くなる感じだったり、youtubeやTHE MANZAIでは聞けなかったフレーズもいっぱい出てきて、上質にリメイクされた憧れのネタを生で見られた…っていう事実に、涙が溢れてきました。

 お笑いライブで泣きそうになるなんて言うのも傍迷惑な話ですが、残念ながら事実です。こんな風に、知名度はないけど好みドンピシャのネタに会えるからやっぱライブって良いなぁー…と痛感してしまった。たまたま結成されたユニットの漫才で、たまたま空手を演じてもらえる、その場に立ち会えたのは全くの偶然でしたし、タイミングが良かった。本当に嬉しかったです。忘れられない日になりました。

楽しかったポイント

 ブリキカラスは読書のネタでした。最近何度も見ているネタですが、なんかどんどんウケがよくなっていってる…??バッシュはやっぱホームという感じ。あとは「松やに」とかはラジオから着想を得たフレーズなのかな?メロディさんが声を張り上げる部分もあったり、すごく頻繁に見に行っているわけでもないですが、同じネタでも毎回ちょこちょこと新たな一面を見られて嬉しいです。

 石出奈々子さんめちゃくちゃ演技が上手かったです。母子の会話を演じていましたが、その視線や仕草でその場にいないお母さんの動きが目に浮かぶよう。

 あとは元祖いちごちゃんの火事のコントもアホほど笑ったし(唐突なオチが好き)、ジュースマンズの「間接的に文句を言う」まどろっこしいネタとか、魂ずの相方を褒め殺すネタもめっちゃ好きでした。魂ずは相方がツッコむたびにその間の取り方などをひたすら褒めていて、漫才師のどういう所が凄いのかがちょっとわかりました。これで一回戦一度落ちてるとか正直どうかしてます。(二回目の挑戦ではちゃんと受かったそうです)

 R-1ファイナリストの土屋さんと吉村さんのユニット「孫だしひやしとがし」も面白かった。吉村さんの圧のある雰囲気と、飄々とした土屋さんのツッコミが際立っていました。

 あと数々のライブを主催して下さっているキャモン西本さんのコンビ「玉ねぎオランウータン」の、勢いだけでごり押しする感じもたまらない。こういうの弱いんです…とにかくキャモンさんの声量が凄いので、どんなネタだろうが圧に押されて笑わざるを得ない。反則だ、ズルい、と思っちゃいます。綺麗にまとまったお行儀のよい漫才劇場では見られないカオスなネタです。

 圧のあるネタが続いてちょっと疲れてきたところで、ゆったりと聴ける大学講義風のマザー・テラサワさんのネタを聴いて一息ついたり。あとは、この日初めて舞台に立ったというyoutuberの方のコンビも出ていました。かなり緊張されていましたが、そういう特別な舞台に立ち会えたことを嬉しく思いました。

最後ちょっと吐きそうになる

 そんな多種多様なコンビを経てトリを飾ったのは、森本サイダー・ムラムラタムラ・本田スイミングスクールから成る四人組ユニット「ピーターパンウンコローム秩序」。なんちゅう名前だ。

ウンコローム2

 メンツから想像できると思いますが、秩序などかけらもありません。センターマイクなど何の意味もなさない、それぞれが四方八方に好き勝手に動くので。天地が別れる前の混沌しかない世界とでも言いましょうか。舞台上に嵐が吹きすさぶ。ひたすらに気持ちが悪い。ぱっと見まとめ役に見えるサイダーさんが、何気に一番気持ち悪かったです。

ウンコローム

 基本的にPOISON GIRL BANDとかのローテンション漫才で育った私にはウンコロームはインパクトが強すぎて、舞台が終わった後も気持ち悪くなってしばらく頭痛が止まらなかったです。帰りの電車でちょっと吐きそうでした。でもこういう吐きそうな体験ができるからインディーズライブに通うのが辞められない。新宿バッシュに、お高く止まったプライドや、綺麗に整頓された空間などは無いのかも。存在するのは何が起こるのかわからない荒れ狂う台風のようなエンタメです。良いんだか悪いんだか、私はそのようなこの上ない非現実の中毒になっている。

今後のライブ予定

 そんなこんなでやっぱり空手は名作だと思ったひるまによん。今週は地下ライブ生活が続き、火曜日に新宿ハイジアV1で「復活!見世物小屋」、水曜日に神保町らくごカフェでの「苦肉祭」が待ち構えています。

 若手中心のライブとはまたテイストの違う、ベテラン勢の地下ライブです。そして決して女性ウケするメンバーではありません。私は耐えられるのだろうか。

 この手のアングラ世界に足を踏み入れる時、自分がどれだけのことを能動的に面白がれるのか、限界に挑戦しているような感覚があります。何でこんなことをしているのかは自分でもよくわかりません。性分だよ。

 どのくらいレポをかけるか分かりませんが、何か強く感じたことがあれば、また記していきたいと思います。

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