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ちとやすめ張子の虎も… - 好きな俳句

小沢昭一『句あれば楽あり』で見つけました。
夏目漱石の句です。

ちとやすめ張子の虎も春の雨
           漱石

”春の雨”は、「春に降るしっとりとした雨」のことだと、『今はじめる人のための俳句歳時記』(角川文庫)に載っていました。
まさに、今日当地で降った雨のようです。

そういう雨の春の日、部屋にいる漱石先生。
そこに、”張子の虎”のおもちゃがある。
トラはトラでも、張子の虎。
虎というものは本来、強く猛々しく、怖い動物という感じがしますが、何せおもちゃの”張子”です。
ちょっとかわいらしいのが、おかしい。 

張子とはいえ、何せトラですから、精いっぱい強がっている、猛々しくあろうとして、しゃちこばっている。
それを漱石先生が見て、「まあそんなにがんばりなさんな、お前は紙の張子なんだから、春の雨ではどうしようもあるまい、まあちょっと肩の力を抜いて…」
そう語りかけている景が、自分には浮かびました。

”張子の虎”は、あるいは漱石先生の自画像かもしれません。
何せ、まじめなご仁、でもそこは俳味とおもしろがっていらしゃっる。
自分で自分を笑うと言いますか。
これは私の感想ですが…

『漱石俳句集』(岩波文庫)を見ますと、明治28(1895)年の作だそうです。
年譜によればこの年、漱石先生は松山中学に教諭(英語担当)として赴任し、「秋ごろより句作に熱中」とあります(江藤淳『決定版夏目漱石』)。
ちなみに年末には、夫人となる鏡子と見合いをしています。

漱石先生は、俳句と漢詩がいいんです。
最近は、そう感じます。

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