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Thoracoabdominal Injury 〜まさかっっ。〜

先日経験した
上記症例の共有をしたいと思います。

そもそもThiracoabdominal injuryとは
「この位置の損傷は胸も腹もあり得る」
というものです。

上の写真の位置
前面→第4肋間から肋骨弓下
側面→第6肋間から肋骨弓下
後面→第8肋間から肋骨弓下

Landmarkは
前・側面→乳頭レベル
後面→肩甲骨
と覚えると簡単です。


また今回は症例のみならず、
共有したい結論を先に言っておきます。
それは

「患者は逃げるが、犯人は追う。」
(当たり前だけど)
だから
「創部が一つだからと言って、損傷が一つとは限らない。」
です。


深夜0時以前の受傷
他人にナイフで刺された患者さん。

他院に搬送され、
紹介時ショックバイタルで昇圧剤を使用。

Stab woundは
・右前胸部
・右背腹部の2箇所

胸部Xpでは左血胸あり
胸腔ドレーンを挿入し、
前医では700mlほどでした。

これくらいしか情報はありませんでした。


右前胸部
右後腹部


この時点で「?」だったのは、
なぜ右の傷だけなのに、
左血胸があるのか、
ということ。

この時点では写真の撮り忘れで、
胸腔ドレーンの保護ガーゼで
創部が隠れているのかな、
くらいにしか考えていませんでした。

。。。

搬送にはかなり時間がかかりました。
心停止には至っていませんが、
来院後もショックバイタル持続し、
昇圧剤2剤を使用していました。

胸腔ドレーンからは合計3,000mlの出血あり、手術の方針としました。

左Anterolateral thoracotomyを施行。
パッと見ただけでは分からなかったですが、
流れる血液の上流を追い横隔膜を避けると、
出血源が見つかりました。

患者さんは右背部から刺されたものの、
Tractは左側に向かっていました。
そして左肋間動脈背側の損傷から
血胸を来したと判明しました。

刃物のtract

ただ、この肋間動脈損傷、
背側で縫合しづらい。。。
結局縫合をトライするも、
腹腔鏡で使用する
医療用クリップを使用し結紮しました。


凝固障害もあったのか、
じわりと出てくる出血が
なかなか止まりません。

ここに止血剤を使用し、
しばらくガーゼパッキング。 

ここで落ち着いて
Damage Control Thoracic Surgery (DCTS)に切り替えるか、
ということが頭をよぎります。

術者に話しますが、
「これはPenetratingであり、止血できていれば閉胸するよ」と。
*DCTSの症例もシェアできたらと思います。

出血が収まっていることを確認できました。
その他の損傷がないかも確認します。
横隔膜にも非全層性の損傷を認め、
2-0 Proleneで縫合閉鎖します。

閉胸。
めでたしめでたし。。。。

しかしこれでは終わりませんでした。

こちらの病院では
外傷性低体温を認める場合、
ある程度復温してからICUに戻ります。

その時間帯、通常であれば血圧も安定し、
昇圧剤もどんどん減っていくと
予想していましたが、
全くそんな様子はありません。

むしろ
血圧は安定せず
腹部は膨隆し、嫌な予感がします。

再検査の結果、
FAST陽性(心嚢液+、腹水+)
という新たな所見があります。

追加手術の方針となりました。

まずMedian sternotomyを施行。
心臓背側(左室)に小孔あり。
背側に小さめのSwabを
何層にもなるように挿入し、
縫合しやすいように心臓を挙上します。

swabミルフィーユ

*教科書にはこれに加え、
アリス鉗子で心尖部を持ち上げると
記載がありますが、
心臓が裂けてしまうことがあり、
こちらの病院では
あまり行わない手技のようです。

続いて開腹手術に移行します。
腹腔内血腫はほどほど(1000ml)に、
左Zone 2に血腫あり。

Mattox maneuverを行って血腫に飛び込むと
左腎臓上極と左腰椎静脈が損傷していました。

静脈は結紮
腎臓はGrade2で縫合しPacking

胸骨は閉鎖しますが、
全身状態を考慮し
腹部は一時的閉腹としました。

。。。

この症例から学んだこと
1. 患者は逃げるが、犯人は追う 
→本気の犯人は逃げる患者を追うため、刃物が傷口から出ないで複数箇所刺される事がある。1箇所と断定しないで、疑いの目を持ち続けることが大切。

2. Wound lip
→皮下組織が見える方向から刃物は刺入し、皮膚しか見えない方向に向かって刃物は向かっている。

右前胸部の創→左側から右側に向かい刺入したと予測

3. 心臓は3 Layer、全層性に縫合が必要
→特に左室はBig Needleで。
Partialな縫合では仮性動脈瘤形成する。
「左室は厚い、恐れず行け」

今回は
最初の左開胸の際、
心嚢も見て血液はないと見えていましたが、
見ていたつもりになっていました。

よくある「つもり」

これは大いに反省です。
また上記知識があれば、
より疑いの目で
患者さんを注意深く
観察し続けられたと思うと、
知識は大切です。

心に刻みました。

こういった反省症例こそ次に活かします。

また反省症例をあえてシェアすることで
日本の外傷患者の治療成績が
Upしてほしいと、
思ってます。

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