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深川ベーゴマ対戦記②(ベーゴマ考54)

前回、松下名人の幼き頃のベーゴマの思い出と、明治生まれのお父様から教えてもらったことを中心に、戦争とこどもとベーゴマの関係性を書いてきた。

松下さんの文面から
戦争とともに暗く落ち込む雲のような大人の表情と
そんな中、隠れながらも力強く嬉々として床を囲むこどもたちの様子がみてとれて、それは令和の子どもたちとも変わらない。

今回は松下さんが幼い頃の
ベーゴマのルール、呼び方、対戦方法などをみていこう。

ベーゴマで使う言葉

〈道具〉
ベーゴマ。(ツラ・ケツ)紐。 床(トコ)シート。  桶(オケ)。

〈対戦方法〉
ツイ。 タイ。 ツギドコ。 ガチャイレ。ホンドコ、ニセドコ。

〈勝負の決め方・独楽の状態〉
デベ。 カマ。 リキ。 ハジキ。 オワカ。 コマドリ。 サクラ。 チョロ。

〈投げ技〉
ツッケン。 カッチャくり。 シャクリ。トコズリ。

〈声による勝負の仕方〉
テッペン。ノガシ。ノガレ。 モウケ。 ハナ。

〈声によるルールの仕方〉
サキ。トモ

〈ベーゴマの回し方〉
ツッケン。 カッチャくリ。

〈ベーゴマの種類とその呼び方〉
マルベー。 カクベー。 カクウリベー。

〈ベーゴマの掛け声〉
チッチノチッ。 イッションセッ。 イッションベッ。セーノミトケ。

道具

ベーゴマ・・・・鉄で鋳造されたコマ。 バイ貝が元で作られ変化した呼び名。
    ツラ・・・・ベーゴマの絵・文字が描かれている面
    ケツ・・・・ベーゴマの良い悪いはここで決まる事で、[決] 尖って回るところ。
紐 ・・・・太さ直径3ミリ位 長さ約1メートル端から4センチのところにコブを作り8ミリ位い間をあけて、もう1つコブ作る
床シート・・・・帆布 70cm×70cmの布きれ .
桶・・・・・直径40cm~50cm位の入れ物

対戦方法

ツイ・・・・・1対1で勝負する。(現在の2人での対戦形式のこと)

タイ・・・・1対1で 同じ決めで勝負する。(ハンデ戦・年齢が低い子などと戦う時にハンデを付けた取り決めで行う)


ツギドコ。・・・・・1対1で複数の人と、勝負する(現在はほとんど遊ばれない、遊び方で後述する)

ガチャイレ・・・・・・ 3人以上で、時入れで、勝負する。(みんなでいれる)

ホンドコ・・・・・本気ホンキで勝負しているベーゴマのやりとりアリ(現在のホンコ)

ニセドコ・・・・・ベーゴマのやりとりナシで勝負している(偽ホンコ・練習)

ハンデについて

小学生以下は子ども・中学生以上は大人
子どもと大人が対戦する時は 決めが無い場合は
大人はデベ・ カマ・ リキ あり。(床はずし、おかま、リキ勝ち有)
子供はデベ・ カマ・ リキ・ なし。床はずし、おかま、リキ勝ち無し)
小学生以下は年上と年下で同様のハンデが付いている。

勝負の決め方(決り手)・独楽の状態


デベ・・・・・・床に入らないこと。(床はずし)

カマ・・・・・ベーゴマが裏返しになること(現在のおかま・金魚【関西】) 

リキ・・・・・ベーゴマが長くまわる(現在のリキがち)

ハジキ・・・・相手のベーゴマをぶつけ出すこと

オワカ・・・・相手のベーゴマとぶつかり互いに床の外に出ること(パッカン)

コマドリ・・・・ 相手にハジかれて床から下に落ちる前に手で受け止めること。(うけとめたらセーフで負けにならない)

サクラ・・・・・ガチャイレの時、オワカをすること。(複数人でみんなパッカン)

チョロ・・・・リキがない回し方

投げ技


ツッケン。・・・・相手のベーゴマを自分のベーゴマで前に突き飛ばすこと。(手前から押し出し)

カッチャくリ・・・・ 相手のベーゴマを自分のベーゴマで内側に引っ掛け飛ばすこと。(向こう側から手前方向に引き出し)

シャクリ・・・・ベーゴマを傾かせて回す(現在の角付けのこと)

トコズリ・・・・シャクリよりもっと傾かせて回す(すれすれ状態で床を擦るおとがする)

勝負の取り決め「勝ちを確定させる宣言とすくいどり」

テッペン・・・・・勝負して最後まで床で回っていたベーゴマ。 (ベーゴマをすくい取る時、声を出さないと勝負なしになる)

ノガシ・・・・テッペンになったベーゴマをすくい取らないで上から握り取ったり、取り損なったり、取る前に止まってしまった時。(勝負なし)

ノガレ・モウケ・・・・・テッペンになった人がノガシをしたのを見て、負けた人が 「ノガレ。」
とか「モウケ。」と言って勝負なしすること。(声を出さない人は負けにな

勝った人は、「テッペン」といいながら、すくいどりしないといけない
※すくいどりは手の甲が下(爪側が床に触れるような形)で床に最後に残った自分のベーゴマを横方向から掬うようにとらないといけない。
その際に、「テッペン」という宣言がない場合・上からつかむように自分のベーゴマをとった場合、取りこぼしがあった場合は負けた対戦相手が「ノガレ(モウケ)」と宣言することで、勝者の勝ちがチャラになる。

関西の現在のベーゴマの基礎はOBC(大阪ベーゴマクラブ)のザビエル高橋さんがベースになっており、高橋さんは関東の生まれである。
その為、関西の大会では、勝負に勝った場合は、必ず、床の縁を手で一回叩いて、すくいどりをしなければならないのが基本。
私はずっと剣道をしていたが、オリンピックなどでみる、柔道などの相手に一本取った際のガッツポーズがいまいちしっくりこない。剣道では、相手に勝ったとしても、蹲踞し、竹刀をおさめ、礼をして試合場の枠より出た後でないと喜び等の感情を表に出すことは許されない。試合場内でガッツポーズなんてすれば、真剣勝負した相手に対して失礼な行いであり、相手を敬わない行為のため、勝った一本は取り消しされる(なんてことをむかしみたことがある)
つまり、勝っただけで終わることなく、「残心」しっかり最後までこころを残すことが大切なのだ。
この、勝ちを確定させる一連の動作、関西では床をたたきベーゴマをとる
松下さんの、テッペンと宣言し、すくいどりをする。
これがあることで、負けたほうも最後まで、自分の価値をあきらめず着目することになる。
私は、試合の時はかならず、最初と最後の礼を行いたいし、
子どもたちにも礼節を覚えてほしい。
いまの遊びは尻切れ蜻蛉で、負けたらどっかいくってのはどうにも好きになれない。

ハナ・・・・ガチャイレでデベした時、 又はハジキ出された時、サクラになることを予想して「ハナ」と言っとくとサクラになった時はテッペンと同じに全部勝ちになる。 (ハナガチ)
力勝負なしの決めで、勝負なし(ひきわけになった時)は、 「ハナ」と言った人のベーゴマは、 アズケ。 次の勝負で勝った人が、 貰える。

※つまり、先に一人だけ床はずしや、とばされた場合、「ハナ」とその先に負けた子が宣言しておくと
みんながパッカンになった場合はその「ハナ」宣言をした子が、全部をもらうことができる。
長く回った人が勝ちはなし、というルールの状態で、はじきが発生せず、勝負がつかなかった場合は、「はな」と宣言した子のベーゴマは次の試合の勝った人がもらえる。

…これは、複数名で行った時に先に負けた子も最後まで勝負に参加する工夫とも言えて、このルールを加えていたことで、小さい子・弱い子や初心者も、もしかしたら自分が逆転するかもしれないというハラハラ感をもって最後まで見ていたことだろう。

ベーゴマの勝負の仕方

ツイ勝負
(今の通常の対戦方式)

1対1で勝負する。 かけ声と同時にベーゴマをトコに入れる。
入れたと同時に、ツッケン。 カッチャくりのような状態になった時は、勝負なし。
(入った瞬間に飛ばしたら、仕切り直し)
子どもと大人
または年上と年下
またはベーゴマをやり始めたばかり人と、弱い人は
[デベ。 カマ。 リキ。 なし ]
強い人は [デベ。 カマ。 リキ。 あり] で勝負する。

勝った人はテッペンと声を出してベーゴマをすくい取る。
(声を出さないさと勝負なしになる)。

通常はコマドリなし。

タイ勝負(ハンデ戦)

1対1で 同じ決めで勝負する。 かけ声と同時にベーゴマをトコにマク
勝負する前にキメをしておく。 [デべ。 カマ。 リキ。 コマドリ。 ] あり なし。
蒔いたと同時に、ツッケン。 カッチャくりのような状態になった時は、勝負なし。

ガチャイレ勝負

3人以上で同時入れで勝負する。 かけ声と同時にベーゴマをトコにマク
【デベ。 カマ。 リキ。 あり。]
最後までトコで回っていたベーゴマが勝ち。(総どり)
「テッペン ノガレ。 モウケ。 ハナ。」 声を掛けることによって[勝ち負け]がある。
通常はコマドリなし。

ツギドコ

サキ・・・・ツギドコをする時、 「サキ」 「と言った人が初めに床にベーゴマを蒔くことができる
トモ・・・・・ツギドコで「サキ」と言った後、すぐに 「トモ」 と言った人がベーゴマ蒔くことができる。 サキのベーゴマが床を一周まわるうちに蒔かなけばいけない。

ツギドコは書くとすれば
「次床」なのか「継ぎ床」なのか
なにせ、二人タイマン戦の「ツイ」ハンデ戦の「タイ」みんなで同時入れする「ガチャイレ」
に対し
複数名で床を囲み、順番に出していく遊び方のことを指す。

遊び方が話を聞く限りかなり複雑で、だんだんと遊ばれなくなったあそびのようだ。
しかしながら、内容を聞く限りかなりおもしろく、様々な人が参加しやすい遊び方だと感じた。

「ツギトコ」のルール

1対1で複数の人と、勝負する。※常に床の上に存在するベーゴマは二つだけ
[ツッケン。 カッチャくリ。 コマドリ。あり。 なし。 勝負する前にキメをしておく。

「サキ」「と言った人が初めにトコにベーゴマを蒔くことができる。
①何もはいっていない床をみなで囲み、「サキ」と宣言したものが先に床入れする。(私が先に回すよ宣言)

トモ。 「サキ」と言われた後、すぐに 「トモ」 と言った人がベーゴマを蒔くことができる。
サキのベーゴマがトコを一周するうちに蒔かなけばいけない。
②「サキ」ではいった独楽が床を1周する間に、誰かが「トモ」と宣言し、2個目を床入れする
※サキをいれて1周する間に誰も入ってこなければ、先の人は今後回転力が低くなり不利になると考えれば引き上げていい。
③誰かをぶっ飛ばしたら、ぶっとばした独楽やは取ることができるが、残って回り続けている自分のものはそのまま残しておかないといけない。
④その状態でだれかが「トモ」と宣言し、③がぶっ飛ばして床を一周するまでに。床入れする。※他の人は入れたらあかん
⑤相手と3回当たった時点で、(自分が不利と判断すれば)引き上げてもよい。
※相手を飛ばしても自分が止まってしまった状態であっても、すぐには引き上げることができず、誰かが「トモ」といって床入れし、3回の攻撃に耐えないと引き上げれない。
➡これはすなわち、ツラが上の状態で止まっていても、攻撃によってひっくり返されカマ(おかま・金魚)になる危険性が高いということである。

サキのベーゴマ・・・・・サキのベーゴマとトモのベーゴマが戦い 3回ぶつかればサキのベーゴ
マは引き上げることができる。 勝てると思えば止まるまで戦える。
勝った場合は次のトモのベーゴマと3回ぶつかれば引き上げることができるが次も勝った場合は引き上げることができない。(常に3回耐えないと引き上げれないこのへんが塩梅をかんがえなあかん)

ニラメッコ(どちらも動かず、膠着状態になった場合)になった時は直ちに、引き上げてやる。

トモのベーゴマ・・・・ サキのベーゴマと戦いサキのベーゴマより先に止まっても引き上げることができない。 サキのベーゴマが引き上げた後はトモのベーゴマはサキのベーゴマになって、次のトモのベーゴマと戦いトモのベーゴマと3回ぶつかれば引き上げることができる。

なんとも説明が難しい。
それと共に、角づけがなされず、1周とかを回るなどではなく、ど真ん中に入ってまわらない場合どのタイミングまでに「トモ」いれを行わないといけないのか。
動画でも出てくるが同時に「トモ」宣言して投げ入れた場合、床上が3個になってしまうなどの時はどうなるんだろう。
など疑問点がおおくある。
松下さんも実際に細やかなルールは無数にあるとおっしゃっていた。
一方で、この遊び方の強みは、同じ床を様々なレベルの子どもたちが囲むことを想定していただきたい。
いろんな子どもが
「あ!あの独楽ええな」と感じてタイミングを見計らって相手が弱った状態で「トモ」として参戦し
すくなくとも3回は攻撃のチャンスがあるのだ。

これも、さまざまな年齢層の子どもたちが一緒になって遊べる工夫がある遊びだと感じる。
現在のベーゴマ遊びは基本1:1のタイマンになっているので、レベルのさまざまな子どもたちが一緒に遊べるこの「ツギトコ」はまた別の面白さがある遊びだと感じた。
これは実際に復活させたい・・・・・もうちょっと調べてから

※ネットにツギトコが出ていたのだが、松下さんがおっしゃっていた子どもたちに教えたという時ではなかろうかと感じている。私に教えてくれた言葉とおんなじだから。

種類とその呼び方

マルベー・・・・・ベーゴマの絵・文字が描かれている面が丸い(戦前は丸ベーしか見ていない。基本丸ベー)

カクベー・・・・・ マルベーのツラを角をつけたもの。(丸ベーに自分で加工して角にしたもの)

カクベーさん

カクウリベー・・・・・鋳造した時から角が付いて売っているもの(現在の角六や赤中など角のもの)

ノッポベー・・・・・ 背の高いベーゴマ(渦巻が細かい、ほとんど今は見ない。戦前。丸ベーの背がかたいもので鉄の品位が高く、おちょこベーのように空洞ではなく、貝殻の名残のあとがあった。駄菓子屋で売られていたころはよくさびた状態で売っていた)

のっぽベーこの中にないかなぁ。

子どもの役割(仕事)

昔の子どもたちには、子ども達にもお仕事がある。
下の子を子守しなさいという役割だ。
しかし、下の子がいると思い通りに楽しく遊べない。
そこで、子どもたちはどうすれば自分たちの遊びに小さな子たちが参加しやすいか、自分たちの遊びの形を模索し続けた。


「ガキ大将」は威張ってるだけじゃなれないんだよ。松下さんは語る。
手を抜く行為は、相手に対して失礼だからハンデなどをつけて、対等に戦う。床の上での小さな鉄が踊る代理決闘。
勝ちを確定させるための行為をおこなわなかった(もしくは、ミスった)ときのノガレ!の叫びや、この「ハナ」宣言も、初めての子やへたっぴの子の救済であり、様々なレベルの子ども達が参画できるシステムにより、その子達は場に参加でき、また、うまい子達と関わることで自分のレベルもまたあがっていくのだ。
そしてなにより、下手くそな子どもでも、場に出ているすべてのベーゴマを総どりできるチャンスがあるということだ。
小さき人を蔑ろにすれば、
すぐ家の人にチクられる。さもすれば遊ばれへん。
こうしたルールはどうすれば
子守がてら堂々と自分が楽しめるかを
苦慮した結果であろう。

今の世の中は
同じレベルの同じぐらいのことができる人たちの集団にずっと自然に分けられているシステムである。

児童館で勤務すると
異年齢でこどもたちが関わる

異年齢の中で
憧れる背中をみて
成長し
上を敬い
下を思いやる心が養われる。

松下さんの言葉の中に
子ども通し教え会い
思いやる
もともと日本にあった路地裏の原風景が垣間見えた。
なんかあったかいやん

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